2.ステータス
1話と2話でようやく始まりといった感じになりました。
「うーん。ここは・・・?」
イアソンさんと別れてからどれくらい時間が経ったのだろうか。一瞬だったような気もするし、実際は何時間、はたまた幾日か経っているのかもしれない。
頬にあたる風を感じたところで、俺は目を覚ました。
真っ青な空。視界の隅の方に動く雲がある。どうやらここは屋外のようだ。
そのまま上下左右に視線を動かしてみる。見慣れた人工的な建物は全くない。代わりに、生命力を感じる濃い緑の葉が見える。体をゆっくりと起こしていくと、芝生のような背丈の草と、奥の方に背の高い木々が見えた。ゲームでよくある平原ではなく、森の中の広場のような場所のようだった。
体にあたる陽が暖かい。体感での気温は25℃くらいか。現世が夏まっさかりの8月だったので、気分的には涼しく感じる。なんとも過ごしやすくて何よりだ。
自身の格好を確かめる。村人風の上着と、やや丈夫そうなズボンといういでたちだ。靴は革製なのか、こちらも丈夫そうである。ただ、靴下を履いていないからか、足の裏が直接皮に触れているのが変な感じだ。俺は常に靴下をはいているタイプだったので猶更である。
続いて手や足を動かしてみる。今はまだ草の上に座った状態なのではっきりと身長などはわからないが、欠損もなさそうだ。五体満足で何よりである。
「まぁ、さすがに『指がないぞ!?』とかって展開にはならないよな・・・。」
肩を回したり、その場で立ち上がって屈伸したりしてみたが、身体も自分の思うように動く。服の上から触った感じだと特別筋骨隆々という感じはないが、成人男性の一般的な体格や筋肉は備わっている。
腰に手を当て周囲を見渡すと、立ち上がったことで視界が先ほどより広くなった。木の数は多いが、鬱蒼と茂っている感じではなく、田舎の森のような場所であることがわかった。木と木の間やや広いからか、視界も悪くない。ただし、今は昼間だから良いが、夜になったら危険であることは間違いない。俺自身は山での生活の経験はないが、夜の森が危険なのは当然の知識として持っている。
「ひとまず周りに危険は無さそうでよかった。他に持ち物とか、現在の状況がわかるものはないかな。」
ぐるりと周囲を確認すると、切り株のところに布でできた袋が置いてあった。状況的にかなり怪しいが、「もしかしたらイアソンさんのお助けアイテムか?」と考えた。何も知識のない世界に34歳でいきなり放り込まれるわけだし、何か最低限生きていくための物がもらえるかもしれないと考えたわけだ。
「放りこまれるって表現は言い方が悪いか・・・。自分で望んだわけだしなぁ。お、ナイフに、何だこれ?石?」
袋の中には鞘に入ったナイフと謎の石が入っていた。ナイフの刃渡りは15cmほどで、取り回しも悪くない一品である。袋から取り出し、鞘から抜いてみる。金属製だろうか、光沢があり、刃がキラリと光っている。
ナイフがあるのは大変助かる。これ一つで物を削ったり、切ったりと多くのことができる。あまり最初から考えたくはないが・・・魔物や盗賊などに襲われた時の護身にも使えるだろう。
ナイフ・・・威力2。やや大きめのナイフ。何の変哲もないが金属製で壊れにくい。
手にした刃に意識を向けると、突然頭の中に情報が入ってきた。
「はー、すごいな。自動検索機能付きときた。」
表現がどうしても陳腐になってしまうが、驚きは隠せない。普通に生きてきて、意識を向けただけで対象の情報がわかるのは非常に便利である。
例えば、目の前にペンがあったとする。これを生活や文献上の知識でペンだとわかれば使うことができるし、類似の物を見た時に「あぁこれはペンか」と判断できる。もしくは、実際に使ってみたり、子どもであれば周囲の誰かに教わったりすればよい。しかし、幼い子どもが初めてペンを目にしたら、どういう物かわからない。わからなければ正しい使い方ができず、ペンがペンとしての機能を果たすことはできないだろう。
俺はもう一つの謎の石を手に取り、意識を向けてみる。
火付け石・・・火種を作るための石。魔力が付与されているので、通常の石よりも火花が出やすく、少ない力で発火させることができる。
「これまた便利だな。」
火も生きていくためには不可欠なものである。調理や殺菌、それに獣よけにもなる。まぁ差し当たって、今は大丈夫だが空腹になった際に肉でも焼くのに使えることだろう。
「物に意識を向ける事で色々わかる、と。あとは自分のことだよな。この流れでステータスウィンドウとかは・・・。」
まさかなと思いながら、自分自身に意識を向けてみる。意識を向けるといっても、気持ちを集中するような感じである。
「マジか・・・。」
すると、こちらの意をくんだのか(?)ステータスが頭の中に浮かび上がってきた。
イシザキ・タクト 人族 34歳 男
力 23
丈夫さ 20
素早さ 12
知恵 20
魔力 15
攻撃 23+2
防御 20+0
これが高いのか低いのかは判断できないが、成人男性でこれということは、基礎能力の最大は100あたりになるかもしれないと思った。攻撃の+2はナイフの分だろう。今は火付け石を持っているためナイフは手にしていないが、ズボンに差していることで装備したと認識しているのだろう。
ステータスウィンドウは簡素なものだった。基礎的な能力が数値で示されている。剣と魔法の世界、とは言っていたが、こういう部分がまさに魔法である。
俺はふと、ステータスウィンドウの下部に気になるものを発見した。
スキル
目利きの極意 貴方の人生に幸多からん事を
「スキル・・・。益々異世界っぽいな。目利きの極意は物の価値がわかるとかそんな感じかな。もう1つの、こりゃ一体・・・。」
スキルに意識を向けてみる。すると、道具と同様に説明が浮かび上がった。
目利きの極意・・・物の良し悪しが見分けられるようになる。目利きスキルの最高位スキル。
貴方の人生に幸多からん事を・・・行動する際に自然と良い事が起こりやすくなる。
???
???
スキルの説明に「???」とは如何なものかと思うのだが、察するにこれから何らかの理由で明らかになっていくということだろうか。何にせよ、イアソンさんの厚意に素直に感謝したい。何はともあれ、運が良くて困ることはないだろう。
一通り自己の確認を終えると、なんだか無性に行動したくなってくる。スキルを試したい、という気持ちもかなりある。
俺は布の荷物に火付け石をしまう。ナイフは鞘ごとズボンの後ろに突っ込む。そのまま、袋の紐を斜になるように結び、身体にかけた。これで両手が空き、不測の事態にもすぐに行動しやすいだろう。魔物や獣が襲ってくることも考えたが、現状たった一つしかないナイフが刃こぼれや欠損してしまうリスクを考えると、使うべき時を考えるにこしたことはないと判断した。
「さてと・・・。とりあえずは水と、やっぱ食べ物だよな。」
方角も地理もわからない状況である。俺はとりあえず行動を開始することにした。目下の目標は水と食料の確保だ。幸い行く手を阻む枝は少ない。サバイバルの知識がないので、なるべく体力の消耗の少ない地面を選んで歩く。念のため、20mくらい進むごとに木の幹にナイフで傷をつけていく。これで多少暗くなっても元の広場に戻れるだろう。
歩きながら時折周囲に視線を向けてみる。すると、周りの草とは葉の形や色が異なる草を発見した。芝生のような見た目ではなく、葉の色が濃い緑色で幅広である。腰を落とし、近づいて意識を向けてみた。すかさず情報が頭に入ってきた。
毒消し草・・・簡単な毒を解除することのできる草。中級以上の毒は解除できない。すりつぶすことで使用する。ポーションの材料にもなる。
解毒はありがたかった。回復魔法やポーションの手持ちがない今、毒は死因になりかねない。俺は早速、毒消し草を採取することにした。茎の根元から抜いてみる。群生しているのをこれ幸いにと、目に入ったものを全て採取した。すると、4本目に手をかけた時、他の物とはなんとなくだが、葉に元気がある気がした。意識を向けてみる。
毒消し草(良品)・・・質の良い毒消し草。中級程度の毒を解除することができる。普通の品質の物よりもより上位のポーションを作ることができる。
なるほどと合点がいく。頂いたスキル「目利きの極意」はどうやら一般的な品質の物とそうでない物の違いが感覚でわかるようだ。今後物の売り買いで雑多な物を見比べても良さがわかるとすればかなりありがたいスキルである。加えて、俺としてはモノづくりでまったり生きていこうとしている。モノをつくる上で、良質の素材や完成品の良し悪しがわかるのは大きな武器になることだろう。袋の中に採取した11本の毒消し草の中に質の良い毒消し草は3つであった。
「11本中いい物が3つか。これももう一つのスキルの効果かな? ありがたいことだ。味はどうかな。茹でて火を通したいところだけど、ここは・・・!。」
思い切って普通の品質の毒消し草をかじってみる。思いのほか苦みは少なく、ミントのようなすっとする風味であった。毒消しというだけあって体に悪影響はないようで、ステータスの変化は特に無い。風味でいえば肉の臭み消しにも使えるかもしれない。
思わぬ発見に気をよくしたところでさらに先に進む。途中で手ごろな太さの枝を見つけたので、こん棒替わりに右手に持っている。意識を向けたが特に表示はなかった。必要以上には細分化した解析をしないのはありがたい。何から何まで情報が入ってきてはパンクしてしまうし、はっきり言ってうんざりである。
「ん、あれは・・・? ウサギ・・・か? にしてはデカいな。」
距離にして10mくらいか。少し先の茂みのあたりにウサギのような生き物がいた。こちらから顔は見えない。こちらにしっぽを向け、おそらく草を食べている。注目すべきは大きさである。よく知っているウサギよりも一回りデカい。
俺は手にした棒を握りしめる。なるべく気配と足音を消しつつ、ゆっくりと背後から忍び寄る。
デカウサギとの距離が3m程に近づいた時、相手がぱっとこちらに気づいて顔を向けてきた。動物園にいるような平和な顔をしてはいなかった。明らかに野性味があり、こちらの害意に気づいて戦闘態勢になる。普通のウサギと違い、前歯が発達していて、さらに短いが角もある。ウサギが体勢を低くし、いつでも跳びかかれるように身構える。そして、こちらみ向かって一直線に突っ込んできた。
大きさもさることながら額の角にぞっとする。あれでぶつかられたら出血や打撲は免れないだろう。
俺はすんでのところで半身になって角ウサギの突進をかわす。反射的にこん棒でウサギを払うが空を切ってしまった。ウサギが方向を変え、先ほどよりも敵意をむき出しにして突っ込んでくる。こちらも、ウサギの動きに合わせ、今度は地面の近くから上へ薙ぎ払うようにこん棒を払う。「ずんっ!」と鈍い衝撃が右手を襲う。
必死で振るったこん棒の一撃は、角ウサギの生命を脅かした。骨が曲がり、もう初めのように俊敏に動くことはできないようであった。俺はそのまま近づき、とどめを刺そうとこん棒を構える。その時、棒を持つ手が震えていることに気づく。
考えてみれば、俺は現世で無暗に暴力を振るったことはない。生き物を虐める趣味も勿論ない。俺がこのこん棒を振り下ろせば、間違いなくこの角ウサギは死ぬだろう。その時の手ごたえや潰れた後の姿が嫌になったのだ。
ウサギは俺が迷っているうちに、生への執着か、茂みの方へ折れた脚でもがきながら移動している。これだけの手負いである。ここでとどめを刺さずとも、息絶えるか、より強い生きものに命を奪われることだろう。
俺は意を決し、こん棒を振り下ろした。こん棒が当たる瞬間、恐怖から目をつぶってしまった。手の衝撃だけは消せず、生きものの命を奪った実感が伝わってくる。恐る恐る目を開けると、無残な姿になった角ウサギが横たわっている。血も飛び散り、獣特有の匂いがあたりに満ちる。
棒術のスキルを取得しました。
棒術スキルLv1になりました。
棒術・・・棒状の武器を扱う技術。スキルの上昇により、戦闘用のスキルを獲得します、
突然頭の中にシステムメッセージのようなものが流れる。メッセージから察するに、行動が関係するスキルと結びつき、一定の熟練によりスキルの値が増えていくのだろうか。
少しの沈黙の後、袋からナイフを取り出す。肉の解体などできるのか不安であったが、どうにか苦労しつつ皮を剥ぎ、肉の塊にしていく。塊と言っても、下手な作業でそうなっただけである。ラップなどという便利なものもないので、近くにあった大きめの葉に包み、つたで結んで袋にしまった。解体中に分けた大きな牙と角もしまっておく。
ホーンラビの肉・・・ホーンラビを食用に肉にしたもの。肉は臭みが少なく、よく食用にされる。
ホーンラビの牙・・・ホーンラビの前歯。硬いので素材になる。ホーンラビはこの前歯が伸びてくると石や枝をかじって長さを調節する。
ホーンラビの角・・・ホーンラビの角。牙に比べてやや柔らかく、少しだが魔力が籠っている。様々な物に加工することができる。薬やアクセサリーなど、用途が多い。
角ウサギはホーンラビという名らしい。肉だけでなく、牙や角などその魔物の特徴的な部位は素材して認識されるのだろうか。
獣の匂いのする場所から、さらに言えば生き物を殺したという状況から逃げたい気持ちもあり、俺はすぐにその場を去ろう考えた。その時、キラリと光る石のようなものが目に入ったので手に取ってみる。
ホーンラビの魔石・・・ホーンラビの体内で生成される魔石。素早さがわずかに上昇する効果がある。
魔石ときた。これもゲームや小説でお馴染みのものだ。素早さの上昇という説明が気になり、ステータスウィンドウを出してみる。
「んー? 特に変化はないな。」
ステータスの素早さは12から変化していない。ただ所持しているだけでは効果がないようだ。
「武器や防具に使うんだろうけど、スロットとかそういうのも無さそうだしなぁ・・・。この世界の住人と出くわしたら折を見て聞いてみればいいか。」
果たしていつ人と会うことができるのだろうか。現状は森の中だ。客観的に見れば地理もわからないわけで、遭難である。俺は戦闘の興奮冷めやらぬうちに動き出した。手には再びこん棒を持つ。ホーンラビがあの1匹だけとは限らない。いやむしろ、これで実際に魔物と遭遇したわけで、身の危険は増したと言っていい。今回は運よく倒せたが、戦闘のプロでもなく、運動も得意ではない。次に倒されるのは自分かもしれないのだ。そう思うと、緊張が高まってくる。
どれくらい歩いただろうか。
相変わらず定期的に木に傷をつけてはいるが、もうすっかり初めの広場は見えない。
「このまま水が見つからないとすると、まずいな。ってか今も水飲みてぇ・・・。」
ここまで来るまでにホーンラビと2度遭遇した。次第に戦闘に慣れてきたのか、初めのころよりもスムーズに動くことができている。殺傷には相変わらず抵抗はあるが、それもだんだん鈍ってきている。水分を欲してそれどころでなくなってきたこともあるのだろうが。肉や牙、角は2回ともドロップした。2匹目のホーンラビを倒した後、解体した肉を試しにそのまま袋に入れてみたところ、取り出しても中が汚れるということはなくて驚いた。特殊なマジックアイテムなのか、元の状態を保ったまま取り出すことができた。棒術のスキルの方も3匹目を倒した際にLvが1つ上がり、Lv3になっている。感覚的なものだが、何もスキルがなかった最初に比べ、手に馴染んだ感じを受ける。振った感じもスムーズで、力の入れ方や抜き方もなんとなく分かってきた感じがする。
あたりは少し暗くなってきている。真上にあった太陽はかなり下がってきていて、夕刻が近いことを表している。
その時だ。遠くの方で視界が開けたと思うと、水の音が聞こえてきた。あまりの水の欲しさに幻聴かと疑ったが、近づくにつれて音は確かとなり、はっきりと小川が目視できるようになった。
助かったという思いで、一直線に川ベルに走る。煮沸などということはすっかり忘れ、両手ですくってみる。水は冷たく、火照った体を冷ましていく。そのまま零れないように口元へ。一気に飲み干す。
うまい!
疲れた体に染み入るようだ。それから、幾度も同じように水を飲む。
ようやく人心地がついた。そして、疲れがどっと沸きあがってくる。
水にばかり気を取られていてわからなかったが、辺りを見回すと小川の周りは少し拓けている。俺から見て、川は左から右に向かって流れている。
「ってことは右手側が下流なわけだ。このまま川に沿って進めば、いずれは人里に出られるかな?」
正解かどうかはわからなかったが、少なくとも上流に向かっていけば森の更に奥深くに進むことになる。これからの時間を考えると、それは得策とは言えないだろう。
俺はそのまま下流に向かって歩き出した。いきなり人里に出るのは難しいだろうが、今夜の拠点になる場所くらいは見つけておきたい。川の近くは砂利はあるものの、進行を大きく妨げる木も無く、かなり進みやすかった。
少し進んだ先に初めとは違うものの、また広場のようになっている場所を見つけた。その場所の中で最も大きな木の根元を今夜のベースにすることにした。頭上を葉が覆ってくれているので、もし雨に降られても少しは軽減してくれることだろう。
場所を決めると、次は火を起こす準備だ。袋から火付け石を取り出し、両手に持ってみる。使い方などはなんとなくだ。適当に石と石をぶつけると、頃合いの火花が出た。確かに、何らかの魔力があるのだろう。かなりやりやすい。幸い枝は近くに事欠かなかった。細いものから太いものまである。普通は火だねを徐々に大きくしていくのだが、あいにくとそんなものはなかったので、細めの枝をナイフで少し羽のように削り、燃えやすくする。俗にいうフェザースティックというやつだ。漫画で読んでおいた経験がこんなところで生きるとは。
火付け石の魔力のおかげか、はたまたスキルの効果なのかはわからないが、無事に火が着いた。太い枝に燃え移らせていく。「火は育てるもの」とこれまた漫画にあったが、本当のことらしい。火が落ち着くまで結構な時間がかかってしまった。
「焚火と肉といったらこれだよな。」
お次は食事だ。体感的には今は午後四時くらいだろうが、ここは街灯のない世界だ(あるのかもしれないが)。陽が落ちれば辺りは真っ暗になる。できるだけ早いうちにやるべきことをしておく方がいいだろう。焚火用に集めた枝の中から適当な太さのものを選び、ナイフで先をとがらせる。そして、肉に刺していく。新鮮だからなのか弾力がすごい。そのまま火にくべる。次第に旨そうな匂いがしてきた。調味料などないし、火加減も謎である。魔物の肉が食えるのかもわからない。が、食わないという選択肢はすでになかった。
調理のスキルを取得しました。
調理スキルLv1になりました。スキルの効果により、一度作った料理は材料と最低限の道具があれば手順を省略して作ることができます。
調理・・・素材を元に食用に加工する技術。料理によってはステータス上昇効果あり。
ホーンラビの串焼きを手に入れました。
突然のシステムメッセージである。先ほどの棒術スキルと同様、何か行動する度に対応するスキルが上昇していくようだ。残念なことに目利きの極意は火加減には適用されないらしい(笑)。頃合いをなんとなく見計らい、肉を手に持つ。香ばしさとともに、油の溶けるいい匂いがする。そのまま一息にかじる。肉から溢れる肉汁とうま味。味は鶏肉に近い。塩気が欲しいところだが、十分うまい。臭み消しに毒消し草で巻いたのが良かったのかもしれない。そのまま無言で、あっという間に平らげてしまった。
魔物と戦い、肉にし、焼いて、食べる。
なんと原始的なことか。そして、これほど生を実感したことが、かつてあっただろうか。
俺は焚火の火をぼうっと眺めながら、今日の半日を振り返る。尻の下には周囲から集めた草を敷いている。直接横になるよりも体温の低下をふせぐことができる。ここには風邪薬はない。なるべく健康を維持することが重要課題なのだ。
この世界にはかつての当たり前はない。
まだ、ここでの生活は始まったばかりだ。これからどのようなことが起こるのか、それはまだわからないが、後悔のないように生きていきたいと心から願う。
ー貴方の人生に幸多からん事をー
イアソン氏が俺にくれた謎の多いスキルの詳細はよくわからない。
しかし、少なくとも俺は今生きていて、飯を食らい、水を得ることができた。魔物との戦闘でも生き延びることができている。
この「幸せ」はもしかしたらスキルのおかげなのか?
「だとしたら、感謝してもしきれないな。」
こうして、タクトの夜は更けていく。
これからの行く手を祝福するように、遠くで梟が鳴いている。