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11.リーダーの責任と友情の証



「ロン、待て! 距離が離れすぎてる! 一人で突っ込むな!」

 ロンは焦っていた。何か得体のしれない不安を感じたからだ。後ろを追いかけるバルクも口では自分を静止しているが、同じような速度で、焦燥を露わにしている。

 昼に出発したタクトは3時間経っても戻ってこなかった。北の森は土地勘があれば村から30分もかからず行ける。森の中も、タクトは歩きなれているはずだから、薬草類やスライムを探すのも苦ではないはずだ。それなのに・・・。

 代わりに、あの態度の最悪な冒険者、アリオスが子分を連れ、服を汚して村に戻ってきたかと思うと、村でたった1頭の親父の馬を無理やり奪って村から去ろうとした。必死に静止し、状況を尋ねようとする親父を吹き飛ばして、親父は腰が悪いってのに、「うるさい!

俺のせいじゃない!」とか言って出て行きやがった。

 俺とバルクさんはやばいと思って、慌てて村を飛び出して森に向かった。バルクさんがあんあに慌てるの初めてみたよ。森を進むと、途中でぐしゃぐしゃになった木々も発見した。何か魔法の力でやられたような傷跡だった。冒険者としての歴が長いバルクさんも、「かなりの威力だ」と驚いていた。

 森の奥に進んでいくと、空気が重たいっていうか、さらにやばい雰囲気を俺でも感じた。何回か森に入ったけど、こんな感じ初めてだった。遠くの方で、何か大きなものが倒れる音がした。急がないと。

 遠くに人の姿が見えてきた。あれってもしかして・・・

「バルクさん! あれ、タクトだ!」



 現在、俺は飯の準備をしている。戦闘後に何をと思うかもしれないが、腹が減っては戦はできない。戦闘は無いと思うけども、とにかく体力が低下していたし、ゴブリンたちも腹ペコだと言い出したからだ。

 ポイズンスネークとの闘いの後、バルクさんとロンが助けに来てくれた。2人は俺やミオの無事を喜んでくれたけど、ゴブリン達に跪かれた俺に驚き、続いて頭部を真っ二つにされて横たわる大蛇に驚いていた。

 俺はこれまでの経緯を2人に説明した。アリオス達に魔法で攻撃されたこと、シャーマンがゴブリン達を操っていたこと、ゴブとミオ、ゴブリン達の協力でポイズンスネークを倒したことなどをだ。2人はまず憤り、それから信じられないという顔をしていた。

「アリオスの野郎! 依頼を放り出して逃げて、しかも仲間を置き去りにするなんて!」

 ロンは激しく憤っている。バルクも、口には出さないが冒険者として、そして、人間としての矜持を忘れたアリオスらの態度に憤然たるものがあるようだ。

 俺は、戦闘経験豊富なバルクにゴブリンシャーマンとポイズンスネークを見分してもらうことにした。百聞は一見に如かず。2体の死体を確認したことで、俺たちの話を信じてくれたようだ。

「確かに、コイツからは邪悪な魔力を感じるな。それと、このポイズンスネークだが、この辺りにこんな危険な魔物は生息していない。Lv15以上の、それなりの冒険者が何人かで相手をするようなやつだ。よく無事だったな。」

「ミオさんとゴブがいたからですよ。それに、バルクさんの盾と斧のおかげです。これがなかったら今頃生きてはいませんよ。でも、怖かったなぁ!」

 俺の素直な感想に、バルクも噴き出した。

「ったく、お前には驚かされるぜ。全然戦士って感じじゃないのによ、どこからポイズンスネークに向かっていく勇気が出たんだか・・・。嬢ちゃん、大変だったな。ガイツだったか、気に入らねぇ態度だったが、やっぱ残念だったな・・・。」

 バルクが俺の後ろに控えていたミオに水を向けた。態度は問題があるにしても、やはり人が死ぬのは気持ちの良いものではないのだ。ミオは元気がなかった。どんなにひどい扱いを受けても、共に行動してきた仲間の死を悼んでいるようだった。

 人間たちの話が落ち着くのを見計らい、ゴブがバルクとロンに頭を下げ、人語で話し出した。

「オレ ゴブ。タクト イイヤツ。ミオモ イイヤツ。フタリ オンジン。ナカマ アヤツラレテ ニンゲン メイワク カケタ。スマナイ。」

 バルクとロンもゴブが人語を介したことに驚いている。ゴブが、魔物である彼らが人間に頭を下げ、謝罪を口にしているのだ。

「オレタチ ヨクナイコト シタ。ゴブリン ホント アラソイ キライ。ニンゲン アヤマリタイ。アヤマラナイト イケナイ。」

 バルクは眦を上げ、ゴブの言葉に答える。

「謝る!? 俺たちもお前らの仲間、言葉は悪いが、散々殺したんだぞ。恨んで当然だろ。憎くないのかよ?」

 するとゴブは静かに首を左右に振った。そして、仲間たちをぐるりと見回すと、再びバルクをまっすぐ見て、真摯に、だけどはっきりと言葉を伝えた。

「オレ ミンナ オサ。オサ タタカイ ハジメタラ セキニン トル。タタカイ オワラセル オサ ヤクメ。」

 ゴブリン達はリーダーの言葉を黙って聞き、頭を垂れたままだ。

 やがて、この中で最も若いロンが、ぽつりと言ったのだ。

「なんか・・・こいつかっけぇな。ゴブリンだけど、すげぇ。仲間見捨てて逃げたあいつらより、数百倍かっけぇな。」

 俺もロンの言うとおりだと思う。日本の往年の指導者たちの中にも、ゴブほどの者ははたして何人いただろうか。戦争や内乱を決定した張本人たちは、戦とは離れた場所で、前線で血を流す者たちに死ねと命令し、終わった後は責任を逃れたはいないだろうか。ゴブは自ら責任を取り、人間たちに報復されることも分かったうえで責任を取ろうとしているのだ。

 俺は、戦友の勇気に心を打たれた。そして、ゴブリンの勇者の肩に手を置き、バルクとロンに向かって頭を下げた。

「バルクさん、ロン、助けにきてくれてありがとうございます。お願いばかりですみませんが、もう一度力を貸してください。ゴブは、信用できる仲間です。失った作物や家畜も、ゴブリン達の命は戻ってきません。だけど、これ以上お互いが争うのは、また新しい悲しみと憎しみを生むだけです。お願いします。」

「お願いしますっつってもよ・・・。他のみんなが納得するかわかんねぇぞ。ま、俺はお前の言うことなら信用できる。オラ、頭上げろ!」

「俺も俺も! タクトの目を見ればわかるよ!」

「2人とも・・・ありがとう!」


 場が落ち着いたところで、ちょうど肉も焼けた。この肉はポイズンスネークから失敬したものだ。蛇を食べると聞いてロンたちは青くなったが、生憎他に食材がない。俺は串に刺されて焼きあがった蛇肉をみんなに配っていく。ゴブリン達も心なしか引いている気がするは気のせいだろう。

 匂いは悪くない。というか旨そうだ。俺も、若干の迷いはないでもなかったが、空腹がそれに勝った。大きく口を開くと、ガブリと肉に食らいついた。肉質はやや硬いが、淡泊でクセが無い。脂分も少ないものの、独特のうま味が口いっぱいに広がった。俺に視線を向けるバルクにサムズアップで答える。我ながらいい顔していると思う。

 一斉にみんな食べだした。あちこちから「うまっ!」「ゴブブー!」という声が聞こえてくる。

「おかわり・・・欲しい人―?」

 みんな同時に手を挙げた。


大蛇の串焼きのレシピを手に入れました。

大蛇の串焼き・・・ポイズンスネークの肉を串焼きにしたもの。意外と毒は無く、独特のうま味が特徴的。防御+3、毒抵抗(中)。



 食事の後、ゴブリン達の中で比較的元気な者たちに毒消し草と薬草の調達を頼んだ。バルクとロンには先に村に戻ってもらい、この後俺がゴブを連れて来訪することを伝えてもらうことにした。ロンはこの場に残ることを強く希望したのだが、「ファーゴさんを説得するのに、息子である君の力が必要だよ」と頼むと、渋々納得してくれた。バルクさんには、ファーゴさんの説得とともに、村のみんなに説明もしてもらうつもりだった。俺は魔物の解体である。ふと、スライムゼリーの存在を思い出した。あれがないとポーションが作れないのだ。どうしようかと悩んでいると、ミオが話しかけてきた。

「あ、あの、よければ私行ってきますよ。スライムくらいなら、問題ないと思います。」

 ミオも大分体調が回復したのだろう。既に大蛇からダガーを回収し、いつでも行けるとばかりだ。

「そんな! ミオさん毒を受けたばかりですし、それに女の人を1人で行かせるのも・・・。」

 俺の言葉を聞き、ミオはくすっと笑う。戦場に花が咲いたようだ。

「それはタクトさんだって同じですよ。ご心配ありがとうございます。大丈夫。これでも私、少しはやりますよ?」

 そう言うと、ミオはさっと身を翻し、フードから少し見える栗色の髪を靡かせてスライムの生息する方角に走っていった。

 周囲の雰囲気が少し寂しくなるのを感じながら、俺は仕方なく大蛇へと振り返った。

 まずは、胴体部分を斧で切っていく。先ほどの料理の追加効果は中々強力だ。食材としてはまだまだ十分に量もあるので、利用させてもらうことにする。グロいけども。次に皮だ。ナイフを取り出し、肉と皮の間に刃を突き立てて剝がしていく。苦戦している俺を見かねてか、ゴブやゴブリンの面々が手伝ってくれた。最後に牙だ。毒に気を付けながら慎重に抜き取っていく。説明を見ると、皮は防具の素材に、牙は毒を付与する武器素材になるらしい。また、ポイズンスネークの魔石を得ることができた。シャーマンの方は目ぼしい素材はなかったので、討伐した証拠として耳を頂くことにした。何かの時に役立つかもしれない。こちらも魔石を得ることができた。

(最近忘れていたけど、やっぱりこんなに魔石が手に入るって不思議だよな。今度ミオさんに聞いてみようかな。)


ポイズンスネークの皮を手に入れました。

ポイズンスネークの皮・・・ポイズンスネークの外皮。油を含んでいるので水を弾く。防具素材になる。

ポイズンスネークの牙・・・ポイズンスネークの牙。毒を含んでいる。武器素材に使用すると初級の毒を付与することができる。

ポイズンスネークの魔石・・・ポイズンスネークの体内で生成される魔石。使用することで毒の発生確率が50%上昇する。

ゴブリンシャーマンの魔石・・・ゴブリンシャーマンの体内で生成される魔石。使用することで魔力が+3される。また、火属性魔法スキルのスキル経験値が上昇する。


 ゴブリンシャーマンの魔石の説明を見た時に心臓が高鳴った。ついに魔法である。経験値の上昇ということなので、いきなり覚えられるかどうかは不明であったが、これで魔法へ一歩近づいたと嬉しくなった。鍛冶師をやるにしても、火魔法は使えた方がいいだろう。

 素材の整理を終えると、ゴブとともに付近の撤収を手伝った。この辺りは森の奥地なので、傷ついたゴブリン達にとっては大変危険である。俺の提案で、しばらくはもう少し森の入り口に近い南がへ移動することになったのだ。

 俺がゴブリン達の寝床、竪穴住居のようなものだ、を解体していると、1匹のゴブリンがゴブに連れられたやってきた。

「タクト オレイ イイタイ。イノチ マモッテクレタ。」

 ゴブが促すと、紹介されたゴブリンはお辞儀をしてきた。そして、手に持っていた剣を差し出すと、俺に受け取るように訴えてきた。

「ウケトッテ ホシイト イッテイル。ゴブモ タノム。」

 おそらく、戦士である彼らにとって、己の武器を贈るのは最大級の感謝なのだと思う。剣の見てくれも性能も、目利きの極意が反応しないところみると大したことはないのだろうと思う。だけど、そのゴブリンの思いは受け取るべきだと思ったのだ。

「ありがとう。大事にするよ。」

 そして、俺たちは再び作業に戻った。もはや人間もゴブリンも無かった。俺たちは戦場を共にした仲間なのだった。


 1時間くらいの作業で拠点移動の準備が整った。元々、人間に比べれば簡素な造りの建物が多かったからだ。荷物もほとんどなかった。折よく、素材収集チームのゴブリンたちとミオが戻ってきた。どちらも無事であった。ゴブによれば、ゴブリン族は森で生活が長く、このあたりの地形にも精通しているのだそうだ。俺たちがイメージしている以上に知能も高いらしい。ミオの方もスライムゼリーを確保できたようだ。俺は彼女に気になっていたことを尋ねてみた。

「すごいですね、ミオさん。スライムゼリーが1,2・・・5個。お疲れ様でした! ちなみに、スライムってどれくらい狩りましたか?」

「ええっと、かなり倒したので正確ではないですけど、たぶん・・・50匹前後くらいだと思います。」

 2つの意味で衝撃である。ミオはこの短時間で50近い魔物を狩ったのだ。スライムは群れているわけでもないので、森の中を探索しつつの50匹だ。昼間の戦闘では獣人族の動きの素早さや身のこなしが目立ったが、気配を察する力も人族より優れているのだろうか。もう一つは俺のドロップ率である。ミオが50匹に対して5個の素材を得ているのに対し、俺は倒した数の7~8割くらいの割合で素材を得ている。

(毎度毎度すごいな・・・。バルクさんじゃないけど、このスキルの性能には驚かされっぱなしだぞ・・・。)

「あの・・・、タクトさんごめんなさい。やっぱり少なかったですよね。すみません・・・。」

 俺が黙っているのを敏感に察し、シュンとするミオ。慌ててフォローすると、みんなが集めてくれた素材で初級ポーションを5個作り、ケガの度合いの大きい5匹を回復させた。その後、全員で森を南下し、ちょうど俺の拠点に近い崖のところに洞穴を発見したので、そこを新たな拠点とすることに決まった。そして、ミオとゴブを伴い、俺たちはルドンの村へ向かったのだった。




 村につくと、ロンとファーゴさんが入り口で出迎えてくれた。ゴブはこのような形で人間と関わる日が来るとは思ってもみなかっただろう。やはり緊張していた。ファーゴさんに促されるかたちで、俺たちは村の広場に向かって歩き出した。ロンが俺に向かって頷いている。どうやら、説得はうまくいっていると考えてよさそうだ。

 村の広場には、主だった面々がすでに集まっていた。他にも何人か遠巻きに俺たちの様子を伺っている。村長と魔物がどのようなやりとりをするのか興味津々なのだ。

 全員が揃う。辺りに緊張感が漂い、口火を切るのを互いに譲り合うような雰囲気になった。

「オレ ゴブ。ゴブリンノ オサ。ムラノ ニンゲンニ メイワク カケタ。スマナイ。アヤマリニ キタ。ツグナイ シタイ。」

 そう言って、ゴブが頭を下げた。集まった面々は、やはり魔物が人語をしゃべったことに驚いている。バルクから事情を聴いていたのだろうが、実際にこうして目にしても、驚きは大きいだろう。

 俺はゴブに助け船を出すべく、見聞きしたことを真摯に伝えていった。アリオス達の非道やゴブリンシャーマンのこと、ポイズンスネークのこと。懸命にゴブたちのことを訴えた。

 しばらくの沈黙のうち、自然と視線がこの村のリーダー、ファーゴさんに集まった。ファーゴさんはずっと黙っていたが、重々しい口調で、だがはっきりと怒りを露わにした。

「まず、お二人が無事でよかった。我々は大切人物を失うところだった。タクトさんの話も、なるほどわかりました。そこのゴブリンの長の謝罪もわかり申した。仕方のない事情ということも。ですが・・・やはり許すことは能いませぬ。」

「ファーゴさん・・・。」

 温和な村長にして珍しく、怒りを露わにしている。

「村の者たちにとって、作物や家畜は命と同じです。幸い村人に死者は出ていませんが・・・。代々作物を育ててきた耕地に被害も出ています。家畜はすぐには育ちません。中には家族同然に可愛がっていた者もいるのです。作物も。我々は貧しい農民です。この数日間の被害はとてつもないものだ。冬を越せるのか、いや、冬どころか、この数か月を越せるかどうかもわかりません。おいそれと『わかりました』とは言えぬのです。」

 ある程度はわかっていたつもりだった。しかし、農家として生きていている村の人々の本当のつらさや困難さまでは考えられていなかったのだ。誰だって、大切なものを傷つけられれば怒る。それが人間かどうかは関係がないのだ。

 その時だ。遠巻きに様子を伺っていた人たちの中から、あの時いすでけがをした女性、確かポーラさんといったはずだ、が歩み出てきて、俺の横に立った。

「ファーゴ、あたしらの事なら大丈夫さ。土地はまた耕せばいい。野菜や家畜は、またがんばって育てようじゃないの。なぁに。貧乏は慣れてるよ。みんなで頑張ろうじゃない。」

「ポ、ポーラ、簡単に言わないでくれ!」

「そりゃ簡単じゃないけどさ、なんか気の毒になっちまってね。ゴブっていうのかい、アンタ? 仲間がやられるの、つらかったろ?」

 ポーラの言葉にゴブも驚いている。そして、それまで気丈に振舞っていたゴブリンの英雄も、温かい言葉に表情を崩し涙ぐんでいるようにも見える。

 ポーラの乱入を皮切りに、村の女性陣が中央に集まってきた。皆口々にゴブたちを擁護してくれている。会合に参加している中に旦那さんがいたのか、すごい剣幕でまくしたてていて、旦那さんがたじたじになっている様もみてとれる。また、昨日のアリオス達とミオのやり取りに憤然収まらぬものがあった人も多いようで、俺たちの後ろに黙って控えていたミオに声をかけている人もいる。

「ファーゴさん、幸いほら、俺たちもスキルを授かっただろ? なぁに、久々に出稼ぎにでも行ってくるぜ。母ちゃんも裁縫スキルにやぁ喜んでたしよ。きっとガンガン服こしらえてくれるはずさ。」

「そうだよ! ファーゴあんた、あたしらを敵に回してこの村でうまくやっていけると思ったら大間違いだよ!?」

 なんとも物騒である。確かに、女性の多いこの村で彼女たちを敵に回すのは剣呑である。

 みんなの視線が再びファーゴさんに集まる。彼は困ったような顔を浮かべ、周囲を見渡し、慌てた様子でこう言った。

「おいみんな、これじゃあ私が悪者じゃないか! 私はみんなの事を思ってだな・・・。ゴブ、と言ったな。見ての通りだ。私たちに敵対の意思はない。君たちの気持ちはしかと受け取ったよ。」

 広場に歓声が上がる。ゴブも俺も胸を撫でおろし、笑いあったのだった。



 日も暮れてきた。

ゴブは仲間たちに会談の結果を伝えるため、俺たちに礼を言うと足早に北の森へ帰っていった。ゴブとは後日、また会うことを約束した。

俺たちは、今晩も村に泊めてもらうことになった。俺がファーゴさんの家に、ミオはポーラさんの家に泊まることになった。ミオは「私なんかが・・・。」と恐縮していたものの、「久々に娘が帰ってきたみたいで嬉しいよ。おいでおいで。」とミオの宿泊を喜んでいた。

 ファーゴさんのお宅で夕食をご馳走になり、一息つくと、彼が真面目な顔で俺の正面に座って話し出した。

「タクトさん、今回は本当に、本当にありがとうございました。貴方がいてくれなければこの村は今頃壊滅していたでしょう。貴方は救世主だ。」

「いえいえ、そんな・・・。言い過ぎですよ。」

「貴方に話しておくことがあります。ミオさんのことです。」

「ミオさんの?」

 何だろうと思った。別段、彼女が村で何か問題を起こしたようなことはないはずだが。

「彼女は獣人族とお見受けします。この国では、その、申し上げにくいですが、獣人族を低くみたり・・・差別したりする者が大半なのです。」

「ええっ!? なんでそんな・・・。それにこの村の皆さんはみんな、受け入れてくださったじゃないですか!」

「元々、我々人族はもっと北方の、土地の貧しい場所に住んでいました。この国の首都周辺には獣人族が広く分布していたそうです。それを、我々の先祖が侵略し、土地と人民を奪ったのです。土地を追われた獣人族は南の地域に追い立てられるか殺されるか、奴隷にされました。あれから長い年月は経つ間に制度的には奴隷は禁止されていますが、潜在的に人族は獣人族を『下等種』と蔑み、獣人族はかつての恨みを残しているはずです。まぁ、それでもだいぶその意識も薄れてきてはいますし、地方によっても差異があります。この村は・・・見ての通り本当に田舎ですからね。そういう風潮も薄いのでしょう。村のみんなも、手前味噌ですが心のいい者が多い。アリオスたちに虐げられている様子を見ていた者も多かったですしね。」

 人種差別は現代社会でも問題になっているが、やはり異世界においても根強いようだ。俺の生活圏では人種を差別する必要性も風土もなかったので感じないが、この世界では根深いものとして、今なお差別があるようだ。

 俺はこの世界の常識に悲しみを覚え黙っていると、ファーゴさんはさらに続けた。

「ロンから伺いました。タクトさんは記憶が無いと。それで、提案なのですが、この村の村人になりませんか? もちろん、ミオさんも含めて。」

 これにはとても驚いた。素性の知れない俺も、差別の対象である獣人族も、匿っても村にはデメリットしかないはずだ。

「タクトさんは夢をお持ちだそうですね。もちろん、いつでも出かけられて構いません。この村に縛ろうとも思っておりません。ミオさんは3人と離れ離れになってしまわれたようですし、これは私のなんとなくの予想ですが、身寄りはないのではないでしょうか。もちろん、どうするかはご本人にお任せします。ですが、この先、お二人も旅を続ける際、ご出身が曖昧だと嫌疑の対象になります。戸籍や何かの手続きは、どうとでもなりますから、私にお任せください。」

「ありがとう、ございます・・・! すいません、この村にお世話になってしまって、ご迷惑ばかりかけてしまって・・・俺なんかのために。」

「よしてください。この村にタクトさんを拒否する者は一人もいませんよ。貴方はあなた自身の行動で、信用を勝ち取ったのです。それに、我々はもう仲間ですよ。個人的にも、貴方とは親しくしたい。そう思ってはいけませんかね?」

 俺はファーゴさんに深く感謝し、いつまでも頭を下げていた。



 翌日、俺はミオと合流し、昨日のファーゴさんの申し出を伝えた。ミオもこの村の一員になることに戸惑っていたが、ポーラさんに背中を押され、結局は村人になることとなった。それとなく身寄りについて尋ねてみたが、ミオは答えづらいのか曖昧な反応だったのでそれ以上聞くのはやめにした。家をあとにする際、ポーラさんがミオに何かを囁いていたのだが、何を言っていたのだろうか。その後ミオは顔を真っ赤にしていたけども・・・。

 それから、俺とミオは村の外れにある古い家屋の前にやってきた。だいぶ時間は空いてしまったが、以前ファーゴさんに使ってもよいと言われた古い民家だ。その好意に甘え、一度建物を取り壊した。近くにもう1軒あったので、そちらも崩して木材する。そして、木工スキルで小屋(小)を創る。ミオは木工スキルを始めてみたのか、突然目の前に人間と比べれば大きな建物が出現して驚いていた。ここで、俺はある問題に気づく。

「うーん、やばいな・・・。」

「タクトさん、どうしたんですか?」

「いえ、その材料が足らないようで、小屋が1棟しか建てられないんです。弱ったな、伐採はすぐできるんですが、木材を運ぶのはさすがに2人じゃ無理だ。村から助けを呼んできますから、ちょっとこっちの小屋で待っててください。」

 俺が走り出そうとすると、彼女に呼び止められた。普段の声よりも大きな声だ。どうしたのかと振り向くと、胸の前に手を当て、少し恥ずかしそうに頬を染めたミオが・・・

「も、もし材料が足りなければ、私は一緒でも大丈夫です。その、タクトさんがお嫌でなければ・・ですけど。」

 という提案をしてきたのだった。女性にそれを言わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつも、さすがに同じ部屋というわけにはいかないので、追加効果のカスタマイズで部屋数を増やせないか試してみた。別棟を立てるよりは使用木材が少ないようで、居間の他に各々の部屋を設置することができた。外観はちょっと豪華なログハウスというか、十分すぎる住居である。


 昼食を摂った後、俺たちは北の森へ向かった。

 再会を約束したゴブたちに会うためである。

 しばらく歩くと、ゴブリンの一団が見えてきた。ゴブリンは俺たちに気づくと、「ゴブ!」と声をかけてきた。すぐに彼らのリーダーたちの元へ案内してくれた。

 ゴブは拠点の近くに柵を作っている途中であったが、俺たちの来訪を知ると作業を止め、洞穴の中へ案内してくれた。簡単ないすがしつらえられ、村長の間という雰囲気だった。

「アラタメテ アリガトウ。ムラビト ナカナオリ タクト ミオ フタリノオカゲ。」

 ゴブは嬉しそうに、俺たちに握手を求めてきた。こうしてみると、ゴブは立派な王であった。人間の方が、よほど醜悪である気がしてくる。

 ゴブは俺たちに座るようすすめ、懐から緑色に輝く球体と、銀色のメダルを2つ取り出した。そして、おもむろに俺に受け取るように手渡した。

「コノ メダルハ 『ゴブリンメダル』。オレタチ タクト ミオ ユウジョウノ アカシ。オレタチ ナカマ。ドコニイテモ イッショダ。ゴブリン アチコチ タクサン イル。ソノメダル ミセル ゴブリン タクト ミカタ タスケル。」

 俺は2つのうちの1つをミオに、もう1つを大切に袋にしまった。

 もう1つの球体をまじまじと観察してみる。エメラルドのような、濃い緑の美しい球体である。

「ソレハ 『ゴブリンオーブ』ダ。ゴブリンゾクノ ヒホウ。キット タクト ミオ イツカ ヤクニタツ。」

 これまでに見てきたものとはひと際違う、明らかに貴重とわかる一品であった。目利きの極意でオーブを見てみる。


ゴブリンオーブ・・・ゴブリン族の秘宝の1つ。1度だけ、魔法効果を完全に解除し、魔法をかけた相手の魔法力を完全に封じこめることができる。


 俺はこの世界と似たゲームも多少かじったことがあるが、魔法効果の打消しは強敵相手にとても重宝するだろう。俺なんかが果たしてそれほど強大な魔物と戦う日が来るかは別だけど。

 この2種類のアイテムはきっとゴブにとっても大変貴重な物であることは疑いようがなかった。俺は、改めてゴブに礼を述べる。そして、マジックバッグから弓を取り出した。この弓は、先日の大蛇との闘いの中で、ミオに弦を切ってもらったゴブリン達の弓だ。狩りで弓が使えないのは難儀するだろうと、木工スキルで修理して持ってきたのだ。

 そして、他の弓とは違う、造りの複雑な弓、コンポジットボウは直接ゴブに手渡した。昨日の戦闘で使ったものだ。

「ゴブほどではないけど、滑り止めをつけて、ホーンラビの魔石を使ってとおいたよ。きっと、ゴブたちにも役立つはずだ。それに、読めないと思うんだけど、ここ。これは人間の言葉で『偉大な王 ゴブ』って書いてあるんだ。大切にしてくれると嬉しいな。」

 リーダーである前に一人の戦士でもあるゴブは、武器を大層喜んでいた。俺たちは固く握手を交わし合い、時折互いに行き来することを誓い合った。



 将来、この弓がゴブリン族の家宝になり、歴代の王たちに受け継がれていくことになるのは、また別の話である。


これで第1部が終わります。

次話は幕間の予定です。

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