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10/30

10.2人と1匹、そして北の森の死闘


 翌日になった。

 村人たちは昨日に引き続き補修作業を始めた。俺もその輪に加わる。焦げ付きの多い木柵

を新しい杭に取り替えていく。

 しばらく作業していると、ファーゴさんの家の方から冒険者たちがやってきた。アリオス

の共の男2人は眠そうにあくびを噛みしめている。かなり遅くまで酒を飲んでいたのであ

ろう。ミオを先頭に、アリオスだけは徒ではなく騎乗している。俺たちに一瞥をくれると、

「こんな村に長居はごめんだ。ミオ、さっさと案内しろ!」と面倒くさそうに言った。その

まま北側の跳ね橋を通ると、北の森の方へ進んでいった。

 村人たちは救世主のはずの彼らのあまりの態度に顔をしかめていた。なんとか罵声を浴

びせるのを理性で抑え込んでいるのだ。ミオは俺の横を通り過ぎる際、ちらりと視線が合い、

目礼して去っていった。

 昼の少し前に作業は無事に終わった。連日働きづめだった村のみんなにとって、久々の休

息である。昨日はゴブリン達にもかなりの被害が出たはずなので、バルクやファーゴもしば

らくは襲撃もないだろうと話していた。三々五々、村人たちが各自の家へ向かう道すがら、

バルクが声をかけてきた。

「タクトすまん、ちょっといいか?」

「はい。何かありましたか? バルクさん。」

「いやな、実はお前さんと村の女たちがこしらえてくれたポーションなんだが、底をつきち

まってな。昨日の襲撃でケガをしたやつらが結構出たんだ。俺なんかはツバつけときゃ治る

んだが、元々戦闘なんかとは無縁の連中が多いからな。すぐに治してやるにこしたことはな

くてな・・・。それで、すまんがスライムゼリーの余りがないかと思ってな。どうだ?」

「すいません。それが、自分も底を尽きちゃってまして・・・。こんなことならもっと狩っ

ておくべきでした。すみません。」

「いやいいんだ。詫びるのはこっちの方よ。こんな大事に巻き込むことになっちまってすま

ねぇな。」

「そんな! 村の皆さんにはよくしてもらっちゃって、俺なんかでよければまた取ってき

ますよ。すみませんが、まだ斧お借りしててもいいですか?」

「あぁ勿論だ。まさかまた北の森へ行く気か?」

「えぇ、件の冒険者の方々もいますしね。正直彼らの態度は見ていて気持ちの良いものじゃ

ないですけど、魔法の実力は本物でした。4人のパーティでしたし、ゴブリン達に後れをと

ることはないんじゃないですかね。それなら、少なからず自分もスライムがいる辺りは土地

勘がありますから、問題ないと思います。」

「そうしてくれると助かるぜ。悪いな・・・。それにしても、4人パーティねぇ、俺にはて

んで連携の取れてねぇ寄せ集めにしか見えねぇがなぁ。特にフードの、お前に目を合わせて

た、ミオとかって呼ばれてた嬢ちゃんか。ひでぇ扱いだったからなぁ・・・。魔法に関しち

ゃ俺も同感だ。アルモン家といやぁ、この国でも有名な魔法使いを輩出する貴族の一門だか

らな。」

 バルクも俺と同様に、あの4人パーティの歪さを感じていたようだった。夕刻までに戻

らないようなことがあれば、バルクとロンに様子を見に来てもらうことを確認し、俺は北の

森に向かって出発したのだった。



「あれから1週間か。なんだかすごく久しぶりな感じだなぁ・・・。色々あったもんな。」

 俺は順調に北の森に到着し、今は拠点である小屋に向けて歩いていた。全然帰ることもで

きなかったし、まさかとは思うがゴブリン達が住処にしている可能性もある。そうなるとル

ドンの村のためにも、新たな対策を立てなければならなくなると考えたのだ。

「この盾、小さいけど頑丈そうで安心感あるな。バルクに感謝しなきゃな。」

 俺の左腕には、小型の盾が嵌められている。所謂バックラーで、手に持たなくても腕の外

側にはめることのできる仕組みになっている。斧術スキルを習得したものの、中身は戦闘素

人の俺は、ドワーフの斧をまだ両手で持たないと取り回しが不安だった。この盾なら動きを

阻害しないでとてもありがたかった。


花香石のバックラー・・・花香石を用いた小型の盾。防御+5。小さくて軽いがそれなり防

御力がある。取り回しに優れた盾。


 しばらく歩いていると、森に入った時は作動しなかった気配察知スキルに反応があった。

あれからLvも5になっており、少しずつ索敵範囲が伸びていて、目視できない距離の物体

も察知ができるようになっていた。前方に俺と同程度の大きさのものが2つ、形からして人

間2人が歩くよりも早い速度でこちらにまっすぐ向かってきた。数秒のち、徐々に姿が見

えてきた。

(あれは・・・アリオスとその取り巻きの剣使いか?)

「貴方はアリオスさんですよね!? ゴブリン達の討伐はどうされたんですか?」

「うるさい! お前のような平民に、答える義務はない! どけ、俺の邪魔をするな!」

 アリオス達の様子は明らかにおかしかった。戦闘で多少汚れたにしろ、昨日の装いとは明

らかに違う。魔法使いが当然持っているべき商売道具の杖も持たず、馬にも乗っていなかっ

た。表情には焦りといら立ちが浮かび、全く余裕が無いのだ。それに・・・

「仲間のお二人は!? 確か、ガイツさんとミオさんでしたよね、お二人の姿が見えないよ

うですが、何かあったんですか!?」

 こちらの指摘に業を煮やしたのか、はたまた何か癪に障ったのか。彼は驚くべき行為に出

た。

「どけ! エアスラッシュ!」

 突然風の力に押され、数m吹き飛ばされた。スラッシュというからには本来は切断する魔

法か何かのはずだが、幸いにも体は傷ついていない。しかし、無抵抗の相手に魔法を向けて

きたのだ。背中を木に打ち付けた痛みから意識を戻すと、もう2人の姿は見えなくなって

いた。気配察知のスキルにも反応がないところをみると、森の外へ移動してしまったようだ。

 俺は背中の痛みを堪え、アリオス達が来た道をたどり、速足で歩きだした。もしかすると、

というか間違いなく、他の2人に異変が起きたと考えられる。森の奥に向かってどんどん

歩いていく。頭の中の地図では、すでに拠点の小屋を通り過ぎてしまった。そして、前方少

し右手に、2つの気配を感じ、急いでその場所へと駆け出した。



 目の前の光景に目を見張った。

 大きな木の幹にもたれかかるようにようにして倒れるミオと、その近くにゴブリンがい

たからだ。ゴブリンもこちらに気づいた。そして、腰にぶら下げた剣、心なしか今までに見

たゴブリンのそれより立派な剣、を油断なく構えると、腰をぐっと落として俺の動きを注意

深く観察してきた。

「ミオさん! 大丈夫ですか!? ミオさんから離れろ!」

 俺は急いで斧を取り出す。そして、ミオを害そうと迫るゴブリンに向かって踏み込もうと

した。その時だ。

「マテ! オマエ コノオンナ ナカマカ?」

 俺は突然魔物が人間の言葉を発したことに驚いた。カタコトではあるが、確かに今、この

ゴブリンは人語を話したのだ。まだ斧を下げることはしなかったが、こちらが攻撃を停止す

ると、ゴブリンがミオを指差し、再び何かを訴えてきた。

「コノオンナ ドク ヤラレタ。テアテ スル。」

 ゴブリンはそう言うと、なんと持っていた剣を地面に突き刺し、両手を広げて害意がない

ことを示してきた。そして、ミオに近づくと、右ひざの辺りを示し、俺にも見るように促し

てきた。

 魔物の前で得物を手放してよいか考える間もなかった。この距離からでも、ミオの足が赤

紫色に腫れあがっているのがわかったからだ。全く知識はないが、まずい状況であることは

一目瞭然である。すぐに袋から中級解毒ポーションを取り出して口に含ませる。そして、5

分の1ほどは直接患部にかけていく。すると、心なしか呼吸も正常になり、患部の腫れも引

き始めた。俺は荷物から替えの服を取り出して地面に敷き、ミオをその上に寝かせた。意識

の朦朧とした女性に勝手に触れるのはどうかと思ったが、固い木の幹の上で寝かせるより

は回復が早まると思ったからだ。

「オマエ クスリ スゴイ。ドク モウ ダイジョウブ。」

 心なしか隣のゴブリンも安心した様子である。俺は思い切って、思ったことを尋ねてみた。

「人間の言葉がわかるのか?」

「アア。オレ ゴブリン オサ。オサ スコシ カシコイ。コノオンナ ニンゲン ナカマ 

カバッテ ポイズンスネーク ヤラレタ。」

 ゴブリンも一生懸命、こちらに伝えようとしている。どうやらこのゴブリンは仲間達の長

で、ミオはポイズンスネークという魔物にやられたらしい。名前からして、毒を持つ危険な

魔物なのだろう。

「そうか。俺はタクトだ。ええっと、名前はわからないが、ミオを助けてくれてありがとう。

きっと、君が助けてくれたから、こうしてミオは生きているんだろ?」

 俺の言葉に、ゴブリンも驚いたようだった。そして、俺には笑ったように見えたが、ゴブ

リンはさらに続けた。

「オレ ゴブ。ナカマ アイツ アヤツラレテ オカシクナッタ。オマエ ヘンナ ニンゲ

ン。」

 (あいつ? 仲間が操られておかしくなった・・・。もしかして昨日の魔導士ゴブリンの

ことか・・・?)

「・・・んっ、あれ、私・・・。」

 その時だ。ミオが意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がった。手を握ったり開いたりして

感覚を確かめている。どうやら毒の影響はないようだ。

「ミオさん! 無事ですか!? どこか気分が悪いとか、影響はありませんか?」

「あれ、タクト、さん・・・? どうしてここに? それに、えっ、ゴブリン!?」

 今朝村の入り口で会った男、さらには魔物であるゴブリンが目の前にいたのだ。ミオは驚

きの声を上げた。状況を説明しようとすると、ゴブリンの長、ゴブが代わりに話しだした。

「オマエ ドク ヤラレタ。タクト クスリ ドク ダイジョウブ。イノチ オンジン。」

「え、ゴブリンがしゃべった!? え、それにタクトさんが解毒を・・・?ありがとうござ

います! 私なんかのために・・・。おかげで生きているんですね。」

 ミオは胸に手を当て、まっすぐに俺を見て深々と頭を下げた。と、頭から犬だか猫のよう

な耳が生えているのに驚いた。所謂、犬型の亜人、というやつか。昨日は夜で暗かったし、

フードを目深に被っていてわかなかったが、ミオは美しい女性だった。栗色の髪を肩まで伸

ばしていて、ややたれ目気味の大きな目、すっと通った鼻筋をしている。髪は乱れていて、

あまりしっかりと食事を摂っていないのかやつれてはいるが、やさしさの中にきちんとし

た意思を感じる凛とした雰囲気も持っている。

「私なんか、はやめましょう。とにかく、無事でよかった。それより、ミオさんたちは昨日

の魔導士ゴブリン達を討伐しに行ったはずですよね? どういう状況なんですか?」

 真横にゴブリンがいる中で討伐のことを聞くのも気が引け、一瞬ゴブを横目で見てみる。

ゴブは「気にするな。」という風に目線で合図をしてきたので、ミオに質問をぶつけたのだ。

「私たちは、おそらくここからもう少し進んだ先でゴブリンの拠点を発見しました。そこで、

昨日の魔導士ゴブリンと、ゴブリン達、そして、可笑しなことに大量の亡骸、昨日のゴブリ

ン達の亡骸を見ました。アリオスさんたちは正面から攻め込んだですが、魔導士ゴブリンは

私たちに気づくと、何か詠唱、というか儀式を始めたんです。そうしたら・・・。」

 ミオが言い淀んでいると、ゴブが重い口を開き、悲痛な声で語りだした。

「アイツ ゴブリンシャーマン。オレタチノムラ トツゼン オソッテキタ。ナカマ アヤ

ツラレテ オカシクナッタ。オレ スコシ ヘイキ。シャーマン ナカマ イケニエ ポイ

ズンネーク デテキタ。」

 ミオとゴブの説明から推測するに、魔導士ゴブリンだと思っていたのはゴブリンシャー

マンというらしく、そいつがゴブリンの拠点を襲い、ゴブリン達を何らかの方法で操ったの

だ。そして、人間たちを襲わせ、人間に殺された亡骸を使い、自分の手下となる強力なポイ

ズンスネークを召喚したのだった。ゴブはシャーマンの魔力か魔法から逃れ、仲間を助ける

術を探っていたのだと思う。ミオはその毒蛇から仲間、アリオスの手下のガイツと言ったか、

を助けてけがを負ったのだ。

「でも、ゴブリンであるゴブがなぜミオを?」

 俺の質問に、ゴブは鼻を鳴らし「なぜそんな当たり前のことを」と言わんばかりに答えた。

「ミオ ナカマカラ ヒドイ シウチ オレ ミテタ。デモ ナカマ タスケル イイコ

ト。ゴブリン アラソイ スキジャナイ。シャーマン ユルセナイ。オレモ ナカマ タス

ケタイ チカラ カシテホシイ。」

「ミオさん、貴方は『私なんか』って言うけど、貴方の直向きな行動でゴブは人間を助けた

んだ。ゴブの言うとおりだ。ここは3人でガイツと、それとゴブリン達を助けよう。」

「ミオ イイヤツ。タノム。」

 俺とゴブがミオに声をかける。ミオも力強く頷いた。

ここに2人と1匹の不思議なパーティが誕生した。

3人で作戦を話し合おうとしていたのだが、どうもそのような悠長な時間は許されないようだ。

「ぎゃあああああ!!」

 森の奥からガイツの悲鳴が聞こえてきた。

距離は近い。

俺たちは瞬時に駆けだした。



「グギャギャア! キッシャアァ!」

「ぎゃあぁぁ、苦じぃ・・・! だ、だずげ・・・。」

 俺たちが森の奥地の拓けた場所、ゴブリンたちの拠点に到着するのと、ガイツが大蛇に絞められて息を引き取るのはほぼ同時であった。

「ガイツ! くそっ、間に合わなかったか・・・! おいやめろ! お前が親玉か!」

 俺はポイズンスネークの後ろで片腕をだらりと下げてふんぞり返るゴブリンシャーマンに斧の切っ先を向けて大声で叫んだ。

(こ、怖ぇ・・・!マジで怖い!俺こんな役どころじゃないはずなんだが。ええいままよ、頼む、ゴブうまくやってくれ!)

 シャーマンは俺に気づくと、不快な笑い声をあげ、そして自身を気づ付けた因縁の相手をいたぶる残忍な笑みを浮かべると、何語かわからない言葉で、ゴブリンたちに指示を出した。ゴブによればゴブリンたちは操られているということ。なるべく傷つけないよう、斧の刃の腹の部分で攻撃を受け、あるいはいなしていく。とはいえ、ゴブリン達は抜身の刃を振り回してくる。動きは遅いが、時折死角からとんでくる刃が腕や太ももを傷つける。俺はこの世界での初めて、し烈な接近戦をすることになり、直接ダメージを被った。その痛さと熱が、夢やゲームではない現実の世界だということを俺に知らせてくる。

 シャーマンは仇敵が痛めつけられる様を見て、初めは嗜虐的な笑みを浮かべていた。が、なかなか決着がつかないことに苛立ちはじめた。深いそうに叫び、何か新たな指示を出したようだ。すると、俺と少し距離のある場所にいたゴブリン達が、弓を手にしようとした。どうやら遠距離からも追い詰めるつもりらしい。

 しかし、ゴブリン達は弓を見て驚きの声を上げた。

「ゴ、ゴブ!? ゴーブゴブゴゴブ!」

 なんと、装備かけに乱雑に置かれていた弓の弦が全て切断されていたのだ。シャーマンと弓手役のゴブリン達が揉めているよう見える。

(「おい何やっているんだ、早くしろ」「ゆ、弓がつかません!」ってところか?)

 シャーマンは深いそうに地団駄を踏むと、焦れたのか、配下の大蛇に指示を出し、目障りな人間を嚙みちぎらせようとした。その時だ!


ビュン!


 空気を裂く鋭い音と、シャーマンが吹き飛ばされて地面に転ぶのが同時だった。よく見ると、眉間に矢が深々と刺さっている。ゴブリン達の敵は苛立つ表情を浮かべたまま、永遠の眠りについたのだった。

 遠くの方から、ゴブがコンポジットボウを手に持って出てきた。

 ゴブリンの長は、ゴブリンの中でも最優秀の射手だったのだ。

 シャーマンが息絶えると、俺を囲んでいたゴブリン達の動きが止まった。そして、夢から覚めたように互いの姿を確認する。人間である俺を見て驚いていたが・・・

「ミンナ ソイツ ミカタ! ポイズンスネーク キケン ゼンイン ハナレロ!!」

ゴブの大喝に、反射的にゴブリン達は身を翻した。そして、手に手に得物を持ち、自分たちの本当の脅威に意識を向けた。

この場の全体から敵意を向けられた大蛇は、すでに主人からの支配を逃れていた。しかし、自らを囲む獲物たちを確認すると、咢を大きく広げ、猛然と突っ込んできた。俺たちは直線的に突っ込んでくる大蛇の攻撃を跳んで避ける。ゴブは遠くから矢を撃って援護してくれてはいるが、大蛇はまるで痛覚がないというように、矢に構わず大暴れしている。体に矢が何本も刺さっているが、お構いなしだ。

不運にも、1匹のゴブリンが大蛇の尾の攻撃を躱したところで、木の根に躓いて転倒した。ポイズンスネークはそのゴブリンを見逃さず、ニタリと冷酷な笑みを浮かべると、猛然と襲い掛かろうとした。ゴブリンが、己の結末を予期し、身体を硬直させた。

「ガキッンッ!」

 体を噛みちぎられる痛みはいつまでも襲ってこない。

 ゴブリンはぎゅっと閉じていた目を開くと、目の前に人間、左腕の盾ごと大蛇に噛まれたタクトが立っていた。

「グゥゥゥゥッツ!! 痛ッテッェエ! 逃げろ!」

 俺の目に、人間とかゴブリンとかは無かった。ただ、救わねばならない命が目の前にあっただけだった。幸いにも、バルクに借り受けたバックラーは砕けることなく、大蛇の嚙みつきに耐えている。しかし、下歯が腕に食い込み、猛烈な痛みと吐き気が襲ってくる。俺は必死に大蛇を振り払おうとするが、ビクともしない。腕に噛みつかれたまま、じりじりと後退していく。そのまま、10歩ほど下がった時、ゴブが大音声で叫んだ。

「イマダ!」

「フシャアァァァ!!」

 何かが頭上の枝から落下してきた。すると、大蛇が突然の激痛に悲鳴を上げた。見ると、4m近い体の丁度中央辺りに幅広の短刀、ダガーが深々と突き刺さり、地面にくぎ付けになっていたのだ。

 落ちてきた何かは、颯爽と身を翻すと、大蛇と距離をとり、ゴブリン達が取り落とした剣を拾って構えなおした。

ミオだった。実は、ガイツの悲鳴が聞こえてからこの場所に来るまでの間に、短く打ち合わせをしておいたのだ。ミオとゴブには、俺がシャーマンの気を引いている間にそれぞれシャーマンとポイズンスネークを攻撃してもらうことにした。ゴブは弓が最も得意というのでシャーマンを、獣人族であるミオは気配を殺し身軽さを生かして死角から大蛇を、それぞれ攻めてもらうことにしていた。3人の中の誰かが、とりわけ注意を引き付ける俺がミスを犯せば瓦解する、危険な作戦であった。

大蛇は尚も大荒れし、邪魔な短刀を力づくで外そうとしているが、高さを生かして深々と刺さった短刀は全く動かない。

俺は毒の気持ち悪さを気力で抑え込み、しびれる手で急いで解毒ポーションを取り出した。一息に呷ると、急速に不快感が取れていく。ただ、噛まれた左手が猛烈に痛い。ゴブリン達の攻撃によって無数の傷ができていて、体力はもうほとんど残っていなかった。

俺は解毒ポーションの瓶を投げ捨て、斧を構える。体力的に、そして大蛇の反撃を考えると、チャンスは一度しかないはず。外せば大蛇に噛まれ、Lvも低い俺などひとたまりもないはずだ。本能的に足も竦み、大蛇に狙いをつけられずにいた。

横手からゴブが小さい体で目一杯跳び、手に持ったこん棒で大蛇の首筋の辺りを思い切り痛打した。一瞬、大蛇の動きが止まる。そして、近くにいたゴブリン達も長に合わせ、一斉に大蛇にとびかった。中にはミオもいた。

 みんなのおかげで大蛇の動きが止まった。大蛇が鎌首をミオたちに向け、一瞬目線が外れた。その頭部へ、俺はギラリと光る斧を叩きこんだ。


 大蛇は永遠に動かなくなった。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・! なんとか、勝った・・・よな?」

 俺は人生最大級の緊張感から解放され、そのまま地面に倒れこんだ。重い斧が地面に倒れ、ガチャンと大きな音を立てた。


Lvが9になりました。Lv6→Lv9。

斧術スキルレベルが上昇しました。Lv1→Lv4


 レベルとスキルレベルの上昇を告げるメッセージが浮かんだが、今はそんなことを考えていられなかった。それほど疲労し、へとへとだった。

 しばらく目を閉じ、呼吸を落ち着かせるように大きく息をしていると、周囲にいたみんなが集まってきた。ミオとゴブ、そしてゴブリンたちが俺を囲んでいる。ゴブが手を出してきた。「こうして見ると、コイツ結構かっこいいかも?」などと思いつつ、ゴブの手を取り、その場に起き上がる。俺が立ち上がると同時に、周りのゴブリン達が手に手を取り、大はしゃぎを始めた。俺たちの大勝利だ。

「タクトさん強いんですね。ポイズンスネークって、Dランクの冒険者でも注意しないといけない魔物ですよ? いけない、腕、けがしています。すいません、私ポーション持っていなくて。ごめんなさい!」

「痛て、なんとか大丈夫ですよ。俺の方こそ、ミオさんとゴブがいてくれなかったらダメでした。それに、みんなも。」

 泣きそうになるミオを宥め、ゴブリンの英雄とその仲間達に視線を向ける。

「コレデ オレタチ イキテイケル。ナカマ スクッテクレテ アリガトウ。タクト ミオ オンジン。」

 リーダーの言葉に周りのゴブリン達が一斉に跪いた。

 村を守るために相対していたゴブリン達だったが、今では不思議と、怒りの感情も湧いてこなかった。少なくとも、俺たちは戦友なのだ。仲間をおいて、ミオを危険にさらしたまま逃げ出した冒険者に比べれば、憤りも感じてこない。


「いた! タクトー! おーい! 無事かー!?」


 遠くの方でかすかに人の影が見える。俺の名前を呼び、この場に来られる人といったら2人しかいない。

「バルクさん-ん! ローン! 無事ですー!」

 こうして、北の森での戦いは幕を閉じたのだった。


ゴブ、イケメンです。

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