第98話 与える決意
主人公は、強くなる事を急ぐようです。
その為にする事は。
少能を使い過ぎて必要な時に使用可能回数が無い事態になると、寿命を供物として少能を使う供物少能を使う事になる。
だから、少知少能スキルの使用可能回数を10回程度にしてそれをキープする。
そう決めていたのだけど。
転職して来たばかりの頃とは違い多少はこの世界の状況も分かったし、それなりの力も得ているから使用可能回数を10回程度にキープしておく必要性は……。
まあ、まだ無いと断言できる程ではないかもしれない。
でも、最低3回をキープして、強くなるのを急ぐべき。
そう決断する時が来たのかもしれない。
強くなり高ランクの魔物を安全に狩れるようになれば、今までは1級職と2級職で転職を繰り返して小知少能とステータスの強化をしていたのを、3級職で転職を繰り返す事でも可能になるだろうし。
……。
そう考え込んでいると、
「夕飯が出来ましたけど」とクトリアが呼びに来た。
ん。ドアが開いている?
「ああ。直ぐに行く」
「あの。大丈夫ですか?」
と、クトリアが少しオドオドした感じで聞いて来る。
「えっ」
「その……。
ドアを叩いても返事が無かった上に、悲壮な顔をされていたと言うか」
と、心配そうに言われてしまった。
「俺、そんな顔をしながら考え込んでいたんだ」
「はい……」
「君達を失いたくない。
その為にはどうすべきか考えていただけなんだけどね」
そう言うと、奴隷と言う話を思い出したのか、複雑そうな顔をするクトリア。
「ああ。死なせないと言う意味の方だけどね」
「あ。はい」と、ホッとした感じのクトリア。
その様子を見て、まだまだハードルは高そうだなと思いながら「食事に行こう」と寝室から居間へと移動した。
夕食の後、先ほど考えた強化策について穴が無いか少知スキルに再度確認しながらスキル上げをしておく。
そんな時間を経て、今日頑張った事に対する御褒美の時間が来た。
今日は、カトレインの日だ。
とは言え、ガツガツするのは不味いだろうとベッドまで誘導した後、彼女が何か話したい事があるかもしれないと、彼女の様子を見ながら髪や耳を撫でていると、少し嫌な顔をする。
「耳を触るのは不味いのかな?」
「……。やっぱり、気を許した相手でないと、耳や尻尾は触らせません」
と、カトレインは少しそっぽを向いた感じで言って来る。
「俺は良いのかな?」
「そう言う約束ですから」
「そっか。
でも、どうしても嫌なら言ってくれないと」
そう言うと、悔しそうに悲しそうに俯くカトレイン。
「どうしたの?」
「私達の為に頑張っているのですよね?」
「う~ん。自分の為でもあるからね」
「それは、そうなのでしょうけど……。
でも、回り道しているんですよね」
「人に教えるのは自分の勉強にもなるし、困った時に味方となってくれる強い味方を作るのは、回り道では無いと思うけど」
「……」
「それすら嫌なの?」
「そんな訳ないです。
でも、貴方は私達なんかでは手の届かない処にまで行ってしまうでしょ」
そう、俯き悔しいといった感じで言って来る。
「う~ん。
前にも言ったけど、有効で強いスキルを幾つか手に入れられたら、多分カトレインの世界も全然変わると思うけどね」
「本当なのですか?」
「いや。だから狩りに連れて行かずにスキルを手に入れる為の訓練をしてもらっているんだけど」
「……」
「大丈夫。俺は15年程度でこれだけの力を手に入れられたんだから、今から頑張っても色々と手に入れられる筈さ」
「でも、私に才能が無ければ……」
「その時は、俺のお嫁さんとかでも良いんじゃない?」
「……。
奴隷は嫌です」
うわ~。ハッキリと拒絶されたよ。
まあ、拒絶したのは奴隷の方だけどさ。
「まあ、ステータスが上がれば若い期間は延びるから、ノンビリ考えるのも良いんじゃない。
今焦っても、良い事は無いよ」
「でも……」
「それに、俺が持っている幾つかのスキルについては、そのスキルが各個人にあった鍛え方とか教えてくれるから、入手できる可能性は高いと思うよ」
「えっ」
「しかも、そのスキル達がカトレインを鍛えてもスキルは手に入らないとは言ってこないし。
まあ、どのくらい習得の為の期間が必要なのかは教えてくれないけどね」
「はい……」
そう言うと、目に涙を貯めて俯いたカトレイン。
自分に才能がある事が分かって、そこまで嬉しいのか。
黙って彼女を抱きしめ、獅子の耳を撫でる。
大丈夫、嫌がってはいない。
彼女の顔を上げさせて、口づけを。
弱っている女性に優しくして……。
悪い男って感じだけど。
でも、彼女達が自力で生き残る為の力を手に入れられない場合は、俺から力を与えよう。
彼女達が自信をもって生きられる様に、無残に死んだりしない様に。
その為にも、まず俺が強くなる。
そう決意して、今日も彼女と。
これでカトレインとの仲は一歩前進したのでしょうか。




