第72話 あ……
主人公にとって守りる対象であり、本人が望むなら強くしてあげる対象となる愛人になる。
それは、彼女達にとって本意では無さそう。
なので、最後の確認をしました。
色々と準備を終えて居間に行くと、二人は喋りもせずに相変わらずお通夜状態。
「今なら止められるけど?」
前世の若い時だと諸突猛進・興奮状態だっただろうけど、性技スキルにより性欲を封印しているので冷静に聞ける。
まあ、表情分析スキルもONにしておいた方が良いか。
そう考え、表情分析スキルを起動しているとクトリアとカトレインが金貨4枚を返してきた。
「どういう意味?」
「違反料を払うつもりで持っていた物だから」
と珍しくカトレインが答えてくれる。
「なるほど。で、覚悟は良いの?」
「はい」
俯いたまま、悲しげな表情でクトリアが。
「はい」
俯いたまま、悔しげな表情でカトレインが。
だけど、それは無視して先に進む事にした。
「今日は、どちらかにしておこうか」
俺がそう言うと。
「ふ。二人とする日もあるのですか」
と、クトリアが引いている。
「そう言う日もあるだろうね」
と二人に告げると、二人とも黙ってしまう。
まあ、二人同時が本当に嫌そうなら止めておこう。
でも、同じ日に別々に二人とするのは大丈夫だよね。
ん。性技スキルで封印してある性欲が漏れ出て来ているのかな。
そう思いつつ、
「まずは、これを渡しておく」
と準備した革鎧を渡す。
「多分、サイズは大丈夫だと思う」
「これは」と、訳が分からないと言う感じで聞いて来るクトリア。
「最低限の防具だね。
俺は、死なれたくない派だから」
「そんな事言っていましたね」
そう防具の作り等を確認しながら言ってくるクトリア。
「ああ。それで、これからの事だけど。
家は借りた方が良いだろう」
「そうなんですか?」
と、クトリアがまた黙り込んだカトレインの様子を確認しながら言ってくる。
「一日1~10万程度の経験値を稼いだとして、君達の転職までに何日掛かる?」
そう言うと、黙り込んで返事をしない二人。
二人が絶望している事実を突きつけたのだから、黙り込むか。
「だから明日の朝、住む所と家具や備品を揃えて、それから狩りに行こうと思っている」
「はい」と、クトリアは返答したけど。
「そうは言うけど、本当に可能なのですか」
しばらく黙り込んでいたカトレインが喧嘩腰で聞いて来る。
「諦めなければ可能だろうね」
「何年、何十年かかるのでしょう」
そうクトリアは落ち込み気味に呟いているが。
「クトリアがレベル上限26で、カトレインが27だっけ」
そう聞くと、二人は黙って頷いている。
「職業経験値が累計で500万とか750万とか必要なんだよね」
と、少知に聞いた必要な経験値を告げる。
「一日平均5万稼いだとして、100日と150日か」
そう言うと。
「本当に可能なのですか」
多分思っていた日数と違った事に驚いたカトレインが聞いて来る。
一日5万の経験値なんて、都市の近くで魔物を狩っていたのでは無理だろうから。
「ああ。その前に絶対的な約束事の話だ。
まあ、本当は契約で守秘義務を課したいぐらいなんだけど。
俺の力については他言無用ね」
そう言うと、二人で顔を見合わせている。
意味が分からないと言った感じの様だ。
「もし喋ったら、さらって一生監禁とかかな」
と、真面目な顔で断言すると。
「えっ!」と二人とも声を上げているが、その表情を見る限り俺が本気だと分かったようだ。
「まあ、自分達の命に係わるとかならしょうがないか。
だから俺も、出来るだけ君らに力を見せない様に狩りをするけどね」
俺が転生者だと確信されるのも不味いので、少し締め付けを緩くしておく事に。
「……。どうしてですか」
と今度はカトレインではなくクトリアが何故と言う感じで聞いて来た。
「俺の持っている力は、転生者並みとまでは言わないけど、下手をすると目を付けられて洗脳とか拷問で奴隷化されるかもって忠告されている」
そう言うと、少し混乱した感じになった後、と少し疑念を持っている感じだ。
「まあ、明日から順次体験してもらうさ。
で、今日はどちらにする?」
「わ。私から」
「じゃあ、クトリアお願いね」
「はい」と、俯きながらだけど、覚悟は決めた様だ。
「じゃあ、カトレイン。
おやすみ」
「はい。おやすみなさい」と、カトレインも俯きながらだけど挨拶はしてくれた。
なら、少しずつ距離を詰める為に、こう言う細かいやり取りを続けるべきかな。
クトリアの手を引き、ベッドの傍まで行く。
彼女を抱き寄せてから口づけを。
すると彼女の目からは涙が。
「どうして泣くの?」
「男に……。
他人にいいようにされない為に故郷を出てきたのに」
悔しそうに夜着を握りしめて俯き加減で。
「結局……」と、大粒の涙が。
でも、俺も引くわけにはいかない。
彼女達との係わりは、俺自身を危険にさらすかもしれないのに選択した事だ。
ここで中途半端にしたら、多分、彼女達を見捨てて逃げたくなる場面で踏ん張れないだろうし、彼女達がリスクを負っても守りたい・強くしたい対象にはならない。
だから、今ここで彼女達を見捨てて他の都市に移動するか、約束通りにするかの二択しかないだろう。
彼女達と関係を持たず彼女達を強くする。
なんて、してあげる余裕は俺にはない。
だけど、自分の愛人なら守る為に努力しなければならない。
それが、俺の価値観と今の状況だ。
……。
まあ、守るなんて言っても守り切れるかどうか。
本当は、この都市から離れた方が良い。
関係を持たない方が良い。
他にも何かが間違っている気もするが、覚悟を決める。
「自分で選んだんだよね。俺を」
「そうだけど」
「俺は嬉しいよ。
クトリアに選んでもらえ、一時とは言え俺のモノにできるのだから」
クトリアは、黙ったまま潤んだ目で俺を見て来る。
表情分析スキルによると、悔しいと言う感情が強そうだ。
「容赦はしないから」
「好きに、してください」と、小声で。
「そのうち、クトリアの方から愛してくれてもいいんだけどね。
でも、やっぱり俺は奴隷でもないと信用できないか」
「私は、奴隷にはなりません」
と、今度は強めの口調で。
「ああ。それでいい。
それでも良いと思えるほど、いい女だよ。
クトリア」
そう言うと、悔しいと言う感情以外も表情分析スキルが教えてくれる。
諦めと、不安と、恥ずかしさと、容姿とは言え認められている・求められている事への嬉しさ。
まあ、最後の感情は俺の希望・願望がスキルに影響して読み取っただけで、本人は気が付かない程小さな感情かもしれないけど。
彼女をベッドにゆっくりと押し倒し、性欲を抑えている性技スキルをOFFにする。
キスをし、彼女が目をつぶっているのを確認し、生活魔法の避妊を掛けておく。
後は、かなり興奮した感じになってしまった自分をなんとか抑え込みながら前世の風俗で教えてもらった知識で愛撫をしたり、キスをしたり。
彼女の息遣いが少し変わった処で、彼女と一つに。
あ。
俺もこの世界では初めてだったのを忘れていました……。
主人公は、最後の一線を超えた様ですね。
自分及び彼女達を不幸にしない結末になれば良いのですが。




