第69話 最低限の決め事と大前提
主人公の善意も良くなかったようで、二人の女性が追い詰められてしまったようです。
それを主人公の力で回避する事が良い事だとも思えないけど、どうすべきなのでしょう。
仲間にしてくれと言う、クトリアとカトレイン。
しかし、転生者であると言う秘密がばれるリスクはおかしたくない。
でも……。
本当に、この二人は崖っぷちなんだ。
どうすれば良いと言うのか。
二人とも美人だから、娼婦と言った方向性なら生きていけそうだけど。
でも、それは嫌だと言うタイプの様だし、余計に奴隷も嫌か。
この世界だとホステスみたいな仕事は無いのかな。
泊っている食堂兼酒場の様な飲み屋のウェイトレス的な仕事しかないのであれば、まあ、そんな稼げる仕事では無いか。
他に、お金を稼げる仕事って何があるんだろう。
前世だと、家庭教師とか大学次第では稼げていたけど。
『女性で大金を稼げる仕事は何?』
と、小知に口に出さずに聞いてみた。
【……】
返事がないという事は、色々とあるという事だけど。
『少知。クトリアとカトレインが今現在大金を稼げる仕事って何?』
【娼婦、貴族向けの高級クラブのホステスです】
『この世界でも、ホステスの仕事あるんだ』
【貴族向けのホステス兼娼婦と言う仕事です】
それって、余計駄目なのでは……。
少知に聞いた結果が酷かったので、頭を切り替えて、
「いい男を捕まえて、嫁になるって手は?」
そう聞いてみたのだけど。
「私達は強くなりたいんです」
と、クトリアに切れ気味に言われてしまった。
カトレインも横で睨んできているし。
「何故強くなりたいの?」
そう、彼女達への助言をする為に聞いてみたのだけど。
「お金を稼いで……」
クトリアは、そう言って俯いてしまった。
言いよどんだという事は、お金に関して何かあるのかな。
貧乏が嫌っていうだけなら、生活の為とか言えるだろうし。
カトレインの方も何か言って来る事は無いかと確認すると、俺を相変わらず睨んでいる。
同じくお金が必要だけど、その理由を俺に言う気はないって感じなのかな。
う~ん。
見捨てたら色々と終わりそうな感じだし……。
まあ、いいか。
イザとなれば俺が逃げれば良いし。
その為の力は大分得られている筈だし、これからはもっと得られる様になる筈だし、と経験値増加スキルがLV11になった事を思い出す。
まあ、キツメの条件を言って彼女達が諦めてくれれば、その方が良い。
そう考え、
「俺の命令は絶対に聞く」
と言うと、カトレインが睨んでくる。
「命令以外は、話し合い。
戦利品の分配は、俺がやる」
と言うと、カトレインの目に涙が浮かぶ歩と悔しそうにしている。
「君たち二人が外で戦う場合は、必ず俺とパーティを組んで経験値は共有する」
そう言うと、二人がハッとしている。
状況次第では、破格の条件だと気が付いたのかもしれない。
「約束はするけど、契約はしない」
と言うと、不安そうな顔に変わった。
「約束をしている間は、二人は俺の愛人。
夜の相手は、必ずする」
と言うと、二人が悔しそうかな。
「ただし、体調が悪い時を除く」
そう言うと、多少はホッとしたようだけど。
「とりあえず、こんな処か」
と、彼女達が仲間になるのを諦める様な最低限の決め事を言ってみたのだけど。
「契約はしないの?」と初めてカトレインが発言した。
「下手に契約をすると、二人が逃げたくなった時に逃げられないだろう」
「逃げるの、前提なんだ」
と、カトレインがこちらを睨みながら聞いて来る。
「裏切られる前提でもあるよ」
そう言うと、カトレインも黙り込んだ。
「後は、大前提の話かな」
「大前提ですか?」
そうクトリアが予想していなかった話の流れの様で不思議そうに聞いて来る。
彼女達が仲間になる事を諦めてくれるような嫌な話。
別の視点から言えば、俺の都合のいい話ではあるけど、俺の価値観も言っておくべきだろう。
「俺が抱ける女だから鍛える訳じゃない」
「えっ」
「俺が守りたい・幸せになってもらいたいと思った人は、当然本人が望むような人生を送って欲しいと思う。
だから、その人に力が足りないのなら俺がいなくても生活できる程度に鍛える程度の事はする。
つまり、都合よく抱けるから君らを鍛える訳では無い。
そこを理解し納得していないと関係が上手くいかなくて、君達が生活できない中途半端な状況でも投げ出す事もあるだろうね」
「そっ、それは」
そう困った感じで声を上げるクトリア。
それに対し、
「わ、私達に娼婦の様に抱かれて喜べって言うの」
と、どういう思考回路になったのか悪い方に勘違いしたカトレインは黙っていられないと怒ってくるが。
「抱けるだけの女なら、娼婦で良い。
君らを鍛える手間とお金を考えれば、そっちの方が安上がりだろう。
長い目で見れば、女性の二級奴隷でもいいしね。
君らも、嫌々俺に抱かれるくらいなら、少しの間、娼婦をしてお金を稼ぐのと変わらないだろうから、そちらを選べばいい」
「そっ。そんな事言われても」
そうクトリアは突きつけられた俺の価値観に困っている。
「俺が倒した魔物の経験値を二人に廻すなんて簡単な話じゃないんだ。
状況によっては、君らよりは強い俺が命がけで君らを守らなきゃいけない。
魔物との殺し合いで経験値を得るんだから。
なのに、俺を嫌っている人を、庇えると思う?
恋人、愛人が無理なら、最低友人と言うかセックスフレンド程度の感覚でいないと、俺の方が手間をかけて危険と向き合いながら君らを鍛える気持ちにならないから、続かないだろう」
そうハッキリ告げると、多少は俺の方の気持ちを理解したのか難しい顔をして二人は黙り込む。
「それが可能なら、かな」
そう言うと、クトリアはある程度覚悟をしてきていたのだろう。
「解りました。
でも、私だけでも二人の面倒を見てもらう事は可能なのでしょうか?」
と訊ねてきた。
まあ、しょうがないよねと、
「いいよ。嫌なもの嫌だろうから。
まあ、多少の扱いの違いは認めてもらう必要はあるかもしれないけどね」
と譲歩すると。
「なら」と言いかけたクトリアを遮る様に。
「いえ。私も貴方の女になります」とカトレインが断言する。
「良いの?」と、クトリアはカトレインの顔を覗き込みながら確認している。
「貴女にだけ辛い思いをさせる気はありません。
まして、私だけ良い思いをする気も無いです」
と、カトレインは強い決意を秘めた目をして言う。
その様子に、
「真面目だね、カトレインは。
ホッとするよ」
と、俺が言うと、どう答えれば良いのか解からないと言った顔になった。
「本当に追い詰められているんだね」
そう言うと、二人とも黙り込んで返事もしないので。
「なら、今日は準備かな。これ」
と、バックの中から出した様に見せた財布から二人に金貨を10枚ずつ渡す。
「ど。どういう事?」
驚いて喋れなかったクトリアに代わりカトレインが聞いて来る。
「服とか、借金の清算とか、日用品を揃えるとか、無いの?」
「あ。あるけど」
と二人で顔を見合わせながら言ってくる。
「それをしておいて、という事」
そう言うと、しばらく金貨を見つめていたクトリアが、
「貴方はどうするのですか?」と不安そうに聞いて来る。
「俺も、準備の為に経験値稼ぎしてくる。
だから、もし帰って来られなければ、それを上手に使って生活する事だね」
「えっ」と、理解できないと言う感じのクトリアが声を上げる。
「俺も、訓練がメインで狩りは十分にしていなかったんだ。
だから、転職とかスキルレベル上限の開放とか、しておくべき事は幾らでもあるから」
そう言うと、少しの間考え込んだかと思ったら、
「ねえ。これをもって私達が逃げるとは思わないの?」
とカトレインが困った感じで聞いて来た。
やっぱり真面目な子なのか。
「その程度で裏切られたと言って、奴隷の女性に走ったりはしない」
詐術スキルさんが教えて来た言葉だけど、その通りだろう。
その言葉に、何を言って良いか分からない感じで黙り込んだ二人に。
「じゃあ、ここに16時から17時くらいまでに戻ってくるようにするから」
そう予定を伝えておく。
「あ。はい」
と、困惑したままクトリアは返事をしてくるが、夕方までには心を決めておいてくれるだろう。
「ああ。この都市にもスリとかいるから、注意してよ」
そう言って、西の門へ向かった。
クトリアとカトレインを仲間・愛人にする事にしたようです。
それが、どういう結果になるのか。
その前に、狩りをして色々と調整及びレベルアップをし、ある物の入手に挑戦する様です。




