第66話 門の前で
朝、生産をしてから出立したので昼を過ぎてしまいました。
それでも、新しく得た力を試しておくか、と都市の外に出るようです。
西門から出て街道沿いを進み、そこから南下。
黒騎士LV21になった事により取得した幻影魔法で、自分の幻影を斜め前方20メートルに映し出し、自分自身は、無い事に偽装、秘匿、隠形で隠れながら進む。
足音や匂いが無いからだろうか。
魔物が幻影に釣られて来ると言う事も無く、引き返そうかなと言う時間になった処で気配探索で見つけたオーク8匹を倒す事に。
流石に人の幻影が目の前に現れると幻影を攻撃してくるんだ、と幻影と魔物の関係を確認してから、幻影を解除して姿を現し鋼鉄の斧で近接戦闘をする。
付与師技スキルのレベル上げと鋼鉄の戦斧を壊さない様にする為に魔力障壁を付与する。
あっ。
予備の武器を買いに武器屋に行くのを忘れていた。
と思いながら、俺の動きに付いて来られないオーク達を接近戦で倒していく。
スピードの違いがあり過ぎるので、戦士技スキルが教えてくれるフェイントを使うだけで相手のオークから消えて見える様で、混乱している奴らの急所に戦斧を叩きこむ。
敏捷向上スキルの恩恵等により、相手より圧倒的に早く動けるのは、凄い事だ。
逆に、敵に同じ事をされると考えると、怖い。
対策を考えるべきなのだけど、自身の俊敏をアップする事が自然に対策になるか。
まずはそれを行うべきで、それは既に行っているから、とりあえず急ぎの案件では無いのだけど。
次に何をすべきなのだろう。
MPを大量に使うけど俊敏が上がるスキルを得るとか、敵の動きの先を読むスキルとかを鍛えておくべきなのかな。
色々と、事前に考えておくべきだろう。
後は、戦い慣れしておくと言うのも必要な気がするけど、フェイントとか使ってくる人とか、形状が違う上にどんな動きをするか分からない魔物とかについて、戦い慣れするのは大変な気がしてきたし。
まあ、その辺は戦士技スキル等がフォローしてくれるのだけど。
戦利品処理をして、オークの魔石E8個、鉄の剣3本、鉄の槍2本、鉄の斧3本。
帰りは、幻影に俺の存在を偽装してみる。
これで、匂いや足音が付くかどうか。
気配探索によると、偽装スキルにより活動音は発生している様だけど魔物に襲われることなく都市に帰りついてしまった。
出かけるのが遅すぎたかな。
それでも、オークの戦利品だけで今日の宿代になるかなと思いつつ都市の門に近づくと、知っている人が二人。
どうも、言い争いをしているようだけど。
俺が近づいていくとバツが悪そうにしているけど。
「こんな処でどうしたのですか?」
と、気になったので声を掛けてしまった。
「貴方には関係ありません」
そう言って睨みつけて来るカトレイン。
それに対し、
「ゴブリン討伐の依頼を受けたのですが、一匹も討伐出来なくて。
今日で依頼失敗になるのですけど、それだと違約金が」
と、クトリアが沈んだ声で現状を言って来る。
「あれ……、そう言う仕組みでしたっけ?」
短い依頼期間と違約金の両方の定めがある依頼票は見た事ない、と聞いてみたのだけど。
「ゴブリンやオークは、冒険者ギルドの予算不足から毎日決まった数しか討伐依頼が出せないから、特別にそう言う契約になっているんです」
そう落ち込んだ感じで言ってくるクトリアに、そっぽを向いているカトレイン。
あの豪勢な建物が造れるくらい、買取依頼とかで中抜きしている感じの冒険者ギルドが資金不足?
それとも、かなり割のいい依頼なのかな。
そんな事も考えつつ、
「お二人の実力で、ゴブリンは倒せます?」
と、厳しい事を言っておく事に。
俺の知識だと、村人と信者のコンビではFランクの魔物でも厳しいのだから。
そう考えハッキリと聞くと。
「……」
ああ。
二人とも下を向いて黙っちゃったよ。
「そもそも、発見するのも大変か」
「でも、偶々依頼が受けられたんです。
期間が5日もあるから、何とかなると思ったのですけど」
と、クトリアは苦しそうに言ってくるけど。
「罠にハメられた、とかじゃないですよね」
「えっ」
「そ。そう言えば、不自然に掲示板に依頼が残っていたかも」
と、カトレインは思い当たるふしがあるようだ。
だとしたら、可哀そうかな。
そう思って、手助けをする事に。
「納品する討伐部位って魔石でしたっけ?」
「ええ」
「幾つ必要なのですか?」
「最低3個から最大10個です」
と、何で聞くのだろうと困惑した感じのクトリアの方が教えてくれた。
なので、亜空間収納からバッグの中にゴブリンの魔石10個を出して、彼女達に渡す為に手にして目の前に出し、
「情報料です」と言うと。
「えっ!」
と驚きながら俺を見つめて来るクトリア。
「どうして?」
とカトレインの方は俺を睨みながら聞いて来るけど。
「ゴブリン討伐の依頼を受けていない俺にとっては、1個50GAU程度でしか売れないゴミですからね。
情報料としては、格安でしょ」
そう言って、クトリアに魔石を握らせる。
「それは兎も角、身の丈に合った依頼を受けるべきだと思いますよ」
と、多分言わなくても良い苦言まで言う。
「……」
悔しいと言うか、情けないと言うか、何とも言えない顔を二人がしている。
だけど、死んでほしくはないかなと苦言を続ける事に。
「でないと、本当にアッサリ死にますよ。
冒険者なんて仕事」
「あ。ありがとうございます」
と、クトリアが何とか絞り出したと言う感じでお礼を言ってくる。
「まあ、折角情報をもらいましたから、俺も依頼を受ける時は注意するようにします」
そう言って、彼女達とは別れた。
ダイスケと分かれた後、クトリアとカトレインは二人で冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドへゴブリンの魔石10個を納品して、5000GAUを受け取る事が出来た様だ。
「これで何とかなったけど」
と思わず呟いてしまうクトリア。
「カトレイン、周りは確認した?」
「ええ。何組か、こっちを確認していたグループが居た。
あの男の言う通り、罠にハメられた可能性もあるのかもね」
そう言うカトレインに対し、黙り込むクトリア。
「ゴブリンの魔石10個が、ゴミか」
クトリアが黙り込んだので話を続けるカトレイン。
「私達は、たった2匹のゴブリンすら倒せずに、逃げられたり逃げたりしているのにね。
強い奴らはドンドン強くなって、私達みたいに弱いモノは弱いまま」
と、本当に悔しそうなカトレイン。
だけど、それがこの世界では当たり前の事だ。
「どうすれば良いんだろう」
そうカトレインの口調が悔しいから落ち込んだ感じに変わる。
「クトリア、どうしたの?
さっきから喋らないけど」
「もう、限界じゃないかな。
惨めになる前に決断した方が良いかもしれない」
その言葉の意味が分かるカトレインは、
「だけど、今は優しくても、豹変する男だっているのよ」
と、反論するが。
「だとしても、こんな幸運が続くと思う」
そう暗い表情でクトリアが呟く。
「……。まだ、しばらくは生活できるわ」
強がっているのが分かる態度でカトレインが呟く。
「諦めるのは、もう少し先にしましょう」
そのカトレインの発言に暗い表情のまま頷くしかないクトリア。
依頼を達成したはずの二人の表情は暗かった。
門の前で出会った二人。
あまり上手くいっていない様です。




