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第61話 あいつは

 主人公は、新人研修を終える事が出来ました。

 無事かどうかは分かりませんが。

 ギルド職員の人間族で達人職のアイン、ドワーフ族でレンジャー職のダイ、狼人族で忍び職のハリー達は、今回の新人研修でそれぞれ色々と思う処があった様です。


 今回は、アイン視点のお話です。

 職場の冒険者ギルドから家に帰る途中の小さな公園。


 見晴らしは良く、でも風が吹くと3本ある木の葉の擦れる音で、離れると会話が聞きづらい。


 なので、俺達が秘密の話をしたい時は、ここで木を軽く揺らしながら話す事になっている。


 二人がいるだろうと思っていると、やはり「アイン」と俺を呼ぶハリーの声がする。


 「ダイとハリーか」


 「ああ」と言って、木にもたれ掛かっていた二人がこちらに向き直し、手を振って来た。


 「今、大丈夫なのか?」


 と、ハリーに周りの警戒をしながら聞くと。

 

 「ああ、俺の感知には引っ掛かる者はいない」


 との返事だ。


 ハリーは4級職の忍びであるだけでなく、気配探索や察知はLV13を超えている。


 こんな何もない田舎に派遣されてくる程度の密偵では、隠れきれないはずだ。


 その事に安心しながら「あいつの事か?」と俺が聞くと。


 「ああ。あいつは……」


 「言うな、ダイ」と、全部は言わせない。


 「俺達は兎も角、密偵としての任務も課されているハリーは発見したら報告しなければならない筈だ」


 そう俺が指摘したのだが。


 「正確には、3人とも冒険者ギルド職員として国からの依頼による報告義務はあるけどね」


 そう、お道化ながらハリーが言う。


 「まあ、俺は発見しても報告しないけど」


 「ハリー」と、反逆ととられかねない発言を俺がいさめても。


 「国が何をしてくれたって言うんだよ」


 そうハリーは忌々しそうに吐き捨てている。


 「あいつは、大量の魔狼と魔鷹を倒して、この都市の冒険者の命を救ってくれた。

  それに、最近奴の気配が無い」


 と、ハリーは俺の知らない情報まで教えてくれる。


 「おい。それって特異種の魔邪大蛙かよ」


 そうダイが驚きながら確認してくる。


 「ああ。奴の隠形は全力で食事をする為か、獲物を捕食する時に解除されていた。

  だから、その時に奴の気配を感知出来ていたんだけど、それが無くなった。

  誰が倒したと思う?」


 「……」


 「まあ、移動した可能性や、感知出来ないレベルに成長した可能性も、魔物同士の戦いで死んだ可能性もあるけどね。

  厄介な魔眼持ちの奴が、大量の人を求めてこの都市の近辺に来たら、俺達が命がけでと思っていたのに、何とかなったのだとしたら」


 奴が倒された以外の可能性も指摘しているけど、ハリーは誰が奴を倒したか確信している感じだ。


 奴とダイスケが戦う気配でも感じたのだろうか。


 そんな事を考えながらハリーの様子を伺おうとすると、


 「そ。それだけの力があれば」と、ダイはその横で興奮している。


 「ああ。

  だがあれは未だ転生して来たばかりの半端者だ。

  それは、分かっただろう」


 そうハリーが二人に確認する。


 「ああ」


 と、俺とダイが頷くと。


 「この国は、長い間転生者と協力関係にあって奴隷にしたりはしなかったけど、内乱で弱体化して方針を変えた。

  それで、これまで味方してくれていた転生者まで逃げだしたり敵に回ったりして、更に弱体化した」


 そう言って、俺とダイの表情を確認するハリー。


 俺もダイの様子を確認すると、ダイも俺達と同意見の様だ。


 「だから、新しい転生者は弱いうちに必ず奴隷にしよう、だってよ。

  もう、それでは手遅れって事すら分からないらしい」


 そう吐き捨てるように言うハリー。


 「全くだ。

  せめて、転生者の扱いを変えていなければ、逃げ出したり敵対したり死を選んだりする転生者は少なかっただろうから再起も可能だったのだろうけど」


 と、俺が絶望的な気分になっていると。


 それがハリーとダイに伝わったようで、しばらく誰も話さなかったのだけど。


 「それに、俺はケンの事が忘れられない」


 そう、ぽつりとこぼすハリー。


 「言うな、ハリー」


 と辛そうにハリーの言葉を遮るダイ。


 でもハリーは、


 「あいつの、国に裏切られ、俺達にも見放されたと絶望した顔を忘れる事が出来ない」


 と言葉を止めずに忘れたい事を突きつけて来る。


 「言わないでくれ」


 そう言いながらダイは苦しそうにうな垂れる。


 そう。


 俺達は国が転生者を奴隷化すると決めてケン・コジマの身柄を確保に来た時に、ずっと一緒に戦ってきたケンを逃がす事も、共に国と戦う事もせずに、ただ立ち竦んでいただけだった。


 「共に戦い、この国の民を救って来たあいつは、牢獄で奴隷になる事を拒み逃げ出す為に戦った末、殺された。

  俺は、もうあんな事に加担はしない」


 と、ハリーは辛そうに言い切る。


 「そうか。何となくケンに似ていたな。あいつ」


 そう俺が言うと、二人とも頷いている。


 「ああ。だから、こんな国の為に犠牲にする必要はない」


 と、ハリーは今度こそ見捨てないと言う覚悟を決めているようだ。


 「そうだな」とダイもケンの事を思い出し彼の力を惜しむ気持ちが消えたのか、同意している。


 「だったら、もっと気を付けるべき事を忠告してやればよかったな」と俺が言うと。


 「全くだ」


 そう他の二人も同意している。


 「まあ、危ないと感じたら逃げる感じはあったが、まだ危険とは感じていないようだった」


 とハリーも俺と同様に会話からそこもチェックしていたようだ。


 なので「ああ」と俺が同意すると。


 「なら、忠告する機会はあるさ」


 と、明るく言うハリー。


 「そうだな」


 そう言って、皆、それぞれの家に帰って行った。


 次の日、アイツが3級職のLV40とか4級職のLV20とかでもなければ狩れないDランクの魔大狼を売りに来たと聞いて、早速3人で叱りつける事になったが。

 主人公は、しっかり転生者とバレた上に怒られたようです。

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