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第54話 二人の事情

 冒険者ギルドでの講習終わりに話しかけてきた女性達。

 何か、事情があるようです。

 「あんたも、騙されない様に気を付けるんだね」


 そう言って、クトリアとカトレインを知っている感じの女性冒険者たちは冒険者ギルドの食堂から出て行った。


 何となく聞きづらいけど、その辺の事情を聞いておくべきだよな。


 「今のは、どういう意味でしょうか?」


 と、怒った口調にならない様に気を付けながら聞いてみると。


 「わ、私達はレベル上限が高くて」と苦しそうにクトリアが。


 「ああ」


 「……」


 「幾つなんですか?」


 彼女達が苦しそうに黙り込んだのだけど、沈黙に耐えられず聞いてみる。


 「わ、私は村人でLV26です」


 と、俯きながらクトリア。


 「私は、信者でLV27です」


 と、こちらを睨みながらカトレイン。


 少知に聞いた話だと、転生者の場合は1級職である村人のレベル上限は10。


 だから、職業レベルが10になると転職出来る様になる。


 これが転生者以外となると、統計を取った事のある国のデータだと平均が20程度だったとの事。


 信者の様な2級職の場合は、転生者のレベル上限が20。


 転生者以外だと34とかだったか。


 だから、信者でレベル上限27だと、かなりいい筈だけど。


 だけど、村人から信者になったのだとしたら、戦闘向けのスキルによる手助けが無いから戦闘力が無い。


 まあ、多分信者の上級職である神官になれれば回復魔法が使える様になるから、引く手あまたになるだろうけど、現状だと使えるのが祈願スキルだけで、足手まといという事か。


 そんな事を想像し。


 「なる程。

  それは大変ですね」


 と軽い感じで言ってしまったのだけど。


 「大変……、無理だとは言わないのですね」


 そう少し驚いた感じでクトリアが言ってくる。


 「お金さえあれば、強い冒険者にレベル上げの依頼をしてレベル上限になれるでしょ。

  他にも、消費マジックアイテムでレベルを上げたり、レベル上限を下げたり、転職したりする方法もありますよね」


 そう少知に聞いた知識を彼女達に確認すると。


 「……、無理なんです」


 と少し苦しそうにクトリアが言ってくる。


 「はい?」


 「そんなお金ありません。

  仲間になるからと言っても、女性の冒険者パーティには全部断られました。

  それに、私達を変な目で見て来る男の冒険者達とは嫌だと言う話になって」


 そう、俯いたまま辛そうに言ってくるクトリア。


 「なら、冒険者以外で生活するとか?」


 「ここには生活基盤がありません。

  知り合いも居ないし、他の仕事は出来ないです」


 「都市の周りの木々から果物を集めたり弱めの魔物を倒したりして戦利品を売り、お金を貯めて都市の中に土地を借り農家として生活すると言うのが、普通だと聞いていますが」


 魔物を狩って売る以外で生活するのだとしたら、と俺が少知から聞いた、この世界の一般的な生活方法の一つを指摘すると、


 「本当に、それで生活できると思いますか?」


 と、クトリアは少し怒った感じで聞いて来る。


 「まあ都市の外に出れば、村人や信者では対処できない危険は数限りなくあるだろうし、門の使用料で蓄えが出来るはずも無いか」


 「ええ。それで生活しお金を貯められるのは、既に生活基盤があるとか家族と一緒に居るとか、他に何かある人達だけです。

  ですから、私達が農家ではなく冒険者として生きて行く為に目標としている職業に就けるまで、仲間にしてもらえませんか?」


 と、クトリアがすがるような目で見て来る。


 ああ、不味い。


 美人にそんな目で見られるとハイと言いそうだけど、安易に自分を滅ぼしかねない選択は出来ない。


 「……、え~と。

  幾つかの理由で無理だと思うのですけど」


 「何故ですか。

  貴方の力なら」


 「そうですね。

  お二人が死なない様に慎重に時間を掛ければ、転職まで行けるかもしれませんけど。

  でも、今もそうしている筈の俺でも何度も死にかけていますからね。

  だから、出来るとは断言できません」


 「で、でも」


 「それに、他にも幾つか仲間に出来ない理由もありますし」


 「どういう理由でしょうか?」


 「まずは、お二人は美人過ぎるかな」


 「えっ」


 「俺も男の冒険者なんですよ。

  一緒に冒険して無理やり押し倒さないで過ごす自信がありません」


 「……」


 驚いた表情で黙り込んだ二人。


 それだけ美人で、そう言う想定をしていないのもどうかと思うけど。


 ああ。


 そう言うのに危機感があるから男性の冒険者は嫌だって言っていたか、と思いつつ話を続ける。


 「で、後ろから刺されるとか嫌ですし」


 「そ、それは貴方が我慢すれば」


 そう、クトリアは何故と言う感じで聞いて来る。


 「人によって違うのかもしれませんけど、それは俺にとっては拷問です」


 そう言っても、理解できないと言う感じかな。


 「お二人は、悶々としてそれ以外考えられず寝られない夜とか、後がどうなろうと思いを遂げたい、欲望を満たしたいと言う気持ちは分からない様ですけど。

  でも、それが1つ目の理由です」


 そう俺の認識を言うと二人は黙り込んだ。


 まあ、毎日娼館に行くといった回避方法もあるのだろうけど、それは俺からは言わず次の理由に行く。


 「2つ目は既に言ってありますが、裏切られるのはもう沢山だと言う事ですね」


 これは嘘と言うかこれから起こる事が想定される事なので、その詳細を聞かれる前に次の理由も言う。


 「3つ目も、先ほど言いましたが、約束しても必ず約束を果たせるだけの力は、まだ俺にもありません。

  だから、約束できない」


 そう仲間に出来ない理由を言っても、黙り込んだクトリアはまだ諦めた感じではない。


 なので、他の理由もハッキリと言っておく事にする。


 「それに、経験値を3分の2取られる俺に、お二人は何を提供してくれるのでしょうか?」


 そう聞くと、二人とも悔しそうに、苦しそうに黙り込んでしまう


 この世界では、ステータスウィンドウを通じパーティを組むと、魔物を倒し得られた職業経験値は人数分に均等割りされる。


 なので、弱くて何もできないようなパーティメンバーは、足を引っ張るだけの存在になる。


 その分、俺の様に経験値増加スキルを持った上、一人で戦える者は、潤沢に経験値が得られると言うのもあるのだけど。


 「村人の戦闘力の無さは俺も知っていますし、村人から信者になったのだとしたら信者の戦闘力の無さも知っていますから。

  祈願スキルが、戦闘ではあまり役に立たないのも、知っていますしね」


 「で、でも……」


 と、何故かクトリアは諦めきれない、何か言いたい事があるようだけど。


 「私達に奴隷になれと。

  体を差し出せと言うのですね」


 と、これまで黙っていたカトレインが俺を睨みながら発言する。


 「いえ。

  だから、仲間には出来ないと言っているのですけど」


 そう言うと、絶望的な顔をするカトレイン。


 俺が悪いのだろうか。


 「わ、私達が、貴方の盾になりますから」


 と、苦し気にクトリアが言ってくるけど。


 「俺は、仲間には死んでもらいたくない派ですから、盾になるのは俺の方になるでしょう」


 「で、でも……」


 「もう無理よ、クトリア。

  行きましょう」


 そう言われたクトリアは、カトレインに手を強引に引かれてギルドの外へ。


 まあ、美人二人の仲間は惜しいけど、転生者だと言う明かされたくない秘密があるから、仲間にするのは無理だよね。


 さあ、狩りに行くか買い物に行こうかな。


 その前に研修の依頼を出すか。

 二人の女性との会話は平行線だったようですね。

 転生者と言う明かせない秘密がある以上、当然の結論なのかもしれませんが。

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