第22話 都市と冒険者ギルド
主人公が乗っていた乗合馬車が魔狼に襲われました。
何もせず死ぬわけにもいかないので、火魔法を使い全滅させたのですが。
俺が乗っている乗合馬車を襲って来た魔狼12匹を1人で倒したら、周りの俺を見る目が変わって居心地が悪い。
表情分析スキルを少しでも鍛える為に今も使っているのだけど、恐怖、感謝、嫉妬、安堵、羨望。
特に、大きな剣を抱えているエルフ女性の感情が強そうだ。
それは嫉妬。
若い女性が嫉妬するような事したかな。
まあ、遠距離攻撃が可能な火魔法は、皆欲しいか。
新たに得た経験値を偽装する為に計算し、偽装のし直しをしながら都市へと。
魔狼退治以降は何もなく都市へ到着し、今は都市へ入る為の検閲中。
俺は、御者と護衛の報告で、街道沿いの魔物を倒したと言う事で、報奨の選択を迫られている。
本来、城門の使用料と言う形で税金を払うのだが、その一月分の使用料を討伐の報酬とする事を選択した。
銅で造られた都市名と日付等が刻まれた許可証を受け取った後、門番でもある衛兵達に可視モードで表示したステータスウィンドウを確認されている。
「ん。火魔法を使ったと言う話だが、今は薬草師なのか?」
と、不思議そうに聞いて来る衛兵の中でも一番偉そうな人。
「はい。師匠の教えで、可能な限り色々な職業を極めて行く事にしているので」
「ふ~ん。変わっているな」
「やっぱり、そうなのですか?」
と、自然な感じで話術スキルと詐術スキルが働いてくれる。
「ああ。職業の恩恵が無ければスキルの成長は遅いし、スキル同士が喧嘩するし」
「ああ。はい。喧嘩は良くあります」
「やっぱり、そうなのか?」
と、衛兵は不思議そう俺の事を見ている。
この辺の人達の常識だと、そんなに変な事なのだろうか。
そう思いつつも、
「はい。でも、師匠にはその先に進めと言われているので」
と、師匠からの説明ではなく、少知に聞いた事を纏めた結果、自分で決めた事を言っておく。
すると「ふ~ん。で、どこから来たんだ?」と、衛兵達の興味は別に移ったようだ。
「あれ。他の人には聞いていませんでしたけど」
「ああ。魔狼12匹を1人で倒す様な人物だからな。
俺の権限で慎重に調べている」
「なるほど。俺は北のハーベル村から来ました」
と、詐術スキルが教えてくれた村の名を告げておく。
「旅の目的は?」
「生活基盤を作る場所を探して」
「それだけの力があるのに?」
と、少し探る様に聞かれたので。
「家長になった兄と折り合いが悪くて」
と、詐術が言い訳を教えてくれたので、その通りに言ってみた。
「ああ。そう言う事か」
「はい。まあ、弱い魔物になら一人でも勝てるので、それで生活できないかなって感じです」
「ああ。この都市にも冒険者ギルドはあるからな」
冒険者ギルド。
異世界モノではよく出て来る組織。
魔物素材の買取とかしてくれるのだけど、この世界でもあるのか。
そう思いつつ「そうですか」と、常識を知らない事を隠しながら返事をしておく。
「よし。行っていいぞ」と言われ、やっと都市の中に入る事が出来た。
巨大な壁に覆われた都市に入ると、人の生活圏になったと言う感じだ。
城郭都市と言うのだったかな。
立派な城壁に都市ごと守られている都市の事を。
後で知るのだけど、村だろうが町だろうが魔物の跋扈する世界なので、立派な城壁に囲まれた形となっているそうだ。
しかも、その壁がコンクリート製に見え、更に立派で、霞んで見える程遠くまで続いている。
こんな立派なモノをどうやって作ったのだろうと思っていたら、土魔法の中に、そう言う城壁を創れる魔法が在るからと魔法使い技スキルが教えてくれる。
門は、大きな材木と金属製。
都市の中心には同じ様に大きな城壁が。
その城壁の中にはお屋敷か小さなお城って感じの建物が見えている。
門から中心に向かっての道沿いには様々な店や家が。
外側の城壁近くには畑が多く、城門の近くや都市の中心に向かう程家が多いのか。
街並みは、中世程度の状況といった感じなのだろうか。
木造の家。
石づくりに木造の屋根の家。
セメント作りの様な家。
レンガに瓦の様な家とバラエティに富んでいる。
でも、この都市はあまり裕福では無いのか、木造の家が多く、しかも傷み具合が進んでいる物件が多い。
また、あまり戦争による市街戦を意識していないのか、大通りがあり、綺麗に区画整理され、それが中心にある砦の様な建物に続いている。
緩めとは言えバトルロイヤル的な世界だから、都市の中で人族の間での殺し合いとかもあるかな、と少し心配していたのだけど。
周りの様子を見たり、歩いている人に表情分析スキルを使った感じだと、都市の中は平和そうだな。
まあ、常識が違うから安心は出来ないけど、子供が走り回る程度の治安はあるようだ。
前の世界との違いは、歩いている人だけでなく、ゆっくり走っている人も、とんでもないスピードで走っている人も、結構なスピードで荷車を引いている人も、馬車に乗っている人もいて、それがちゃんと流れになっている。
まあ、そう言うのはメインの通りだけの様だけど、ステータスが上がると前の世界の身体能力とは全然違うから、あんな感じになるのか。
前世でも歩道と自転車道と車道と高速度道路って区分はあったから、そんな感じなのかな。
そんな事を確認しながら、とりあえず少知にお勧めの宿屋はと聞いてみると返事なし。
安全で、衛生的で、値段が安めの宿は、と聞くと【ありません】と返事が。
安全で、衛生的で、個室で一晩2000G程度の宿はと聞くと2件程教えてくれたので、近くにあった宿屋に行ってみた。
そこで、「宿を使うのは初めてなんだけど」と常識の無い事を隠しながら3000Gの前払いで1人部屋を1晩取り、冒険者ギルドへ向かっている。
先程、衛兵の話からも出た組織だ。
少知スキルに聞いた処、この世界でも冒険者ギルドと言う様々な依頼の仲介や冒険者と呼ばれる人達を管理する組織である冒険者ギルドが存在する。
そして、そこでは魔物の買取依頼を出す事により、魔物の素材をそれなりの値段で買い取ってくれるとも確認した。
正直、もう日暮れ近くなので明日にしようかと思ったのだけど、所持金が心配なので、先ほど倒し衛兵達に取り上げられなかった魔狼の死骸を売った方が良さそうだと思ったからだ。
冒険者ギルドの建物は、都市の中心近くにある木と石を使った3階建ての大きな建物だ。
受けたイメージは、儲けてやがるな。
まあ、暴利を貪っていなければ良いんだけどさ。
一階には複数の受付と、大きな掲示板と、食堂兼飲み屋がある。
その建物の中は予想通り、一日の仕事を終えた冒険者たちが詰めかけている。
それに並んで十数分待ち俺の番に。
「魔物の死体を売りたいのだけど、買い取ってくれるか?」
「冒険者ギルドのご利用は初めてですか?」と若い女性が聞いて来る。
猫の獣人らしく、頭から耳が出ていてかわいい。
「ああ。初めてだ」
「では、簡単な説明が必要でしょうか?」
「今は混雑しているから、日を改めて昼間にでも聞きに来る」
「そうしていただけると助かります」と、丁寧に頭を下げてくれる。
教育が行き届いている感じだな。
「で、魔物の買取だけど」
「どのような状況でしょうか?」
「火矢で倒した魔狼12匹格納箱に入れてあるのだけど、処理はしていない」と、周りに聞こえないように小声で伝える。
「そうですか。ではこちらへ」と裏の倉庫の様な処理場に連れていかれる。
「では、こちらに出していただけますか」
そう言われたので、魔狼12頭を取り出しておく。
「ず、随分綺麗に倒されているのですね」
と、少し驚いたみたいだ。
「ああ。魔狼は毛皮が高く売れると聞いているので、頭を潰すように倒してみたのだけど」
そう受付嬢の様子を見ながら、多分そうだろうなと思った話をすると。
「そうですか。
逆に牙は痛んでいるようですが、これなら毛皮が高額になりそうです。
専門の物が査定をしますので、受付前の食堂でお待ちいただけますか」
と、不信感は持たれずに済んだようだ。
なので「ああ。頼む」と言って、受付の方に戻ったのだけど。
食堂兼酒場へ行くと絡まれるとかあるかも、と受付前の依頼票が張ってある掲示板を見て依頼内容や相場などを確認していると、受付嬢から声がかかる。
「解体専門の者から魔石、牙、毛皮を全て引き取って、12頭分で即金だと87000GAUだそうです。
解体し詳細に鑑定をした後でも良いのであれば、もう少し評価額は上がるらしいですが」
「いや。それは次からでいい」
「では、こちらです」
と、他人から見えないようにする為の配慮なのか、大き目の升のような物の中に金貨8枚、大銀貨7枚が入っていたので、周りから見えないように意識しながらバックに入れ、そこから亜空間収納に入れる。
さあ、日本円に換算すると87万円か。
これでしばらくは生活できそうだけど。
宿に戻って、色々と確認や反省かな。
無事、人の暮らす場所へとたどり着き、宿を取ることも出来ました。
安全な場所で、冷静に色々と現状を把握するのかな。




