第180話 カトレインの怒り
主人公は成長の雫を使ってまで力を高めています。
それとは別に、カトレインは親と子として話し合いをしているようです。
今、私は父と母との3人で父の執務室に居る。
クトリアには、まだ残っていた私の部屋で休んでもらった。
父は私に色々と言いたい事があるようで、母と3人で話し合いと言う事になったのだけど。
父は黙り込んだまま何も言わない。
「話が無いのなら、私も休んでいいですか」
そう告げて立ち上がろうとすると父が聞いて来る。
「まて……、カトレイン。あいつは何なんだ」
「強い冒険者です」と椅子に座り直し言うと。
「強いのか?」と、探る様に父が聞いて来る。
皆の引っ越しの為に彼に働いてもらうのだから、嘘を言う訳には行かない。
「ええ」と彼が強いと認めた後「でも、それを隠していますけど」と、彼の意思についても合わせて言ったのだけど。
「何故だ」と、父は怒鳴るように言って来る。
「権力者に仕えるのは嫌なようですし、身に付けた力の所為で嫌な目にもあって来たそうですし、転生者の様に扱われるかもと危機感を持っているようですから」
そう、彼の事情についても説明したのだけど。
「その力をなぜ国の為に使わない」と、父は彼の心情を考える気はない様だ。
なので「誰だって、拷問の上奴隷にされて強制的に働かされるなんて嫌でしょう」と、彼に教わった国の不義理を父に告げる。
「しかし、自主的に国の為に仕えれば」
「そうしていた転生者達は、拷問の上で奴隷にされましたけど」
「それは、そうだが転生者なら仕方が無いだろう」
「でも、彼は適当な理由を付けて次は私達の番になると言っていました」
「それでも、そんな力を持っているのなら国の為に使うべきだろう」
そっか。彼から見れば、私とクトリアも、こんな理不尽な事を言っていたんだ。
そう思いつつも「少なくとも、私はあの人に救ってもらっています。だから今の世の中には、ああいう人も必要だと思っています」と、私の思った事を父に伝えたのだけど。
「なら、儂が領主に」と、私の言葉や思いは父には伝わらない。
なので、ハッキリと「多分殺されますよ」と伝える。
「え」
「お父様は、私が居ますから殺されないかもしれないけど、領主や彼の強さを知った人は皆」
「……。そ、それ程の力」と、父は絶句しているけど、それだけの力を国の為に使おうと言う気が無い事に絶句しているのだろう。
そう思ったので「その力は、国が与えてくれた訳では無いそうですから、何の恩義も無い人に使われる気は無いのだと思います」と、父の考えが絶対では無いと伝えたのだけど。
「ば、馬鹿な」と父には伝わらない。
その事実に切れた私は「これだけの目にあっても、お父様はまだ国に忠誠を誓っているのですね」と言っても。
「あ、当たり前だろう」と、父は認めようとしない。
自分達の考えが、価値観の違う人にとっては何の意味も無い事を。
「でも、彼にとって当たり前ではないと言うだけです。
それに私にとっても当たり前では無くなりました。
あの領主のお陰で」
そうハッキリと伝えると。
「奴は、転生者なのか」と、私が疑っている事実も確認してくるが。
「いえ。私の知る限りではそこまでの強さは無いようです」と、疑っている事は父には伝えない。
ダイスケさんに迷惑を掛けたくないし、私の目的を邪魔されたくないから。
「だとしても」と、父は相変わらず自分の考えだけが正しいと言ってくるようだけど。
「領主を暗殺してもらいたいなら、それも良いのですけど」と、父の行動の結果どうなるかを伝えると。
「本当に暗殺できると言うのか」と、流石に少し躊躇した感じになった。
なので「彼に今回の護衛の依頼をした時、私が『何でもしますから』と言ったら『領主を殺せばいいの?』と何でもない事のように言っていましたから」
と、余計な事はしない様に言い含めようとすると。
「なら、罠にはめてでも」と、馬鹿な事を言い始める。
それに切れた私は。
「お父様は、まだ分かっていないのですか。
もうこの都市はダメなんです。
あの領主の所為で。
お父様は勝手に自己満足で死ねばいいですけど、皆を巻き込まないで」
そうヒステリックに叫んでしまった。
でも、父が私の思いを邪魔すると言うのなら、もう我慢はしない。
「なっ」
「彼が居れば、皆が安全に移住できます。お父様がそれを邪魔すると言うのなら、私がお父様を殺します」
「お。お前……」
父の横で何も言わずに涙ぐんでいる母にも「お母様も、そのつもりで」と言い、私は父の部屋を後にした。
親子喧嘩で、カトレインも言いたい事を言えたようです。