第14話 人の居る場所へと移動中に
転生してきた場所に生えていた薬草類や果物等を色々と採取しているようです。
転生して来たのは、ステータスウィンドウの表示によると、太陽暦15967年4月15日の朝の8時30分だった。
今は、午後2時31分だ。
ここで夜を迎えて大丈夫なのだろうか。
普通に考えたら、駄目だろうな。
でも、移動するのも安全とは言えないし難しい処だけど、人の居る場所へと移動すべきだろう。
ちなみに、薬草の採取中に食料はいっぱい確保出来た。
神様に聞いた話だと、この世界は殺しあわせて強い存在を作るのが目的。
なので、食料生産に多くの人材を割くのは効率が悪い。
そこで、その辺の木や草にも食べられる実が多くなり、種類は極一部だけど大量に湧く魔物の肉も食べられる。
野菜や穀物の栽培も、前居た世界とは比べ物にならないくらい楽で効率が良く育つため、耕作地も少なくて済むらしい。
少知に、返事が帰って来ないだろうと思いつつ「この世界は、どういう世界?」と聞いた時に帰って来た返事の内容の一つが、そう言う情報。
他にも、前の世界の中世くらいの技術レベル・生活レベルがベースで、スキルの恩恵により近代とか未来と言える様な技術もあるらしく、頑張れば良い生活もおくれると教えてもらった。
前の世界との比較とか『少知』の能力っぽくない返答内容もあるから、多分魔虎戦で生き残った俺の為に神様が追加でダウンロードしてくれた内容の一つなのだろう。
と言う事で、採取した薬草以外にも、鑑定し食用と判明した果実も熟成が必要そうな物は格納箱へ、傷みそうな物は亜空間収納に入れ続けて大量に確保している。
他にも、焚火用の枯れ枝や伐採した低木もいっぱい格納箱と亜空間収納に入れてある。
後は、逃走用や攻撃用に岩とか石も亜空間収納したけど、それはいいか。
6時間かけて薬草類を数千確保して、人の居る場所へ移動を開始する事にした。
転生者と言う事で拘束されるのは嫌だけど、幸い秘匿・偽装・隠形と言う隠れ偽る系のスキルを取得してあるから、それで誤魔化せる可能性がある。
『秘匿』は、隠すスキル。
自分の姿、ステータスウィンドウの各種内容、他人、物等も隠せるようだが、現在はレベル不足で自分に関わる物しか隠せないようだ。
なお、自分に秘匿を掛けていると他人から見えない状態になるとの事。
しかし、鑑定や探索と言った敵対するスキルとも言うべきものがあり、それとどちらの効力が発生するかは、そのスキルの持つ力の比較が行われるようだ。
また、全力で動くと自分に掛けてある秘匿は解除される程度のスキルでもあるらしい。
『偽装』は、偽るスキル。
これも秘匿と同様で自分の姿、ステータスウィンドウの各種内容、他人、物等を偽れるようだが、現在のレベルでは、自分に関わる物しか偽装できないようだ。
異世界モノだと、転生者が奴隷・洗脳状態で戦わされるモノもあったので、秘匿と偽装はレベルを高くして取得しておいた。
なお、少知スキルに確認したのだが、転生者という事は隠しておくべきとの考えは、どうも正解の様だ。
また、敵対するスキルがあったり、力の比較で効果の発生の有無が決まったり、このスキルで自分を偽装していても全力で動くと解除されたりする仕様は秘匿と同じ。
『隠形』は、意識させないスキル。
つまり、路傍の石になるスキル。
これも、現状自分だけしか使えないが。
これも全力で動くと解除されてしまうらしい。
全力で動いても解除されない隠れ偽る系のスキルとなると、ユニーク(特別な)スキルの隠蔽、仮装、埋没と言うスキルになるとの事。
それらは、いずれ取得しないと駄目だろう。
なお、秘匿・偽装・隠形スキルは、全てノーマルスキルでLV9・LV9・LV1だから、スキル同士の力比べに負けて見破られる可能性も高い。
まあ、駄目なら街の近くで隠れながら生活するのでも良いだろう。
そんな場所が有るかどうか、可能かどうかは分からないから、人の居る場所へ行ってみるしかないし。
少知に確認すると、北上すると街道に出るので、それを東に行けば町に、西に行けば都市に出られるようだ。
ちなみに、北の方向も少知に教わった。
太陽の位置から推測した方向とほぼ同じなので、太陽の位置と方角といった辺りは前世と同じ様だ。
東西南北と言う方位がある事も、北極星がある事も、地軸が公転軌道に対し垂直ではなくその結果四季が生じると言った事も、前の世界と同じ。
神が世界を創る時に基本フォーマット通り創ると、そうなるとでもいうのだろうか。
さて。
色々と心配な事はあるし、分からない事だらけだけど、まずは街道へ出ようと移動を始めた。
スキル上げをしながらの移動。
少し落ち着いたので、色々と追加の確認もした。
一応、下着と上着と靴は着た状態の転生。
今は春で気候が良い状態の様だ。
自分の姿を可能な範囲内で確認すると、髪は短髪の状態の様で前髪以外は見られなかったが、下の毛と同じ色なら黒髪だろう。
顔の形は、前世とは違っている気はするけど、今の処見る方法が無い。
だけど、触った感じだと前とは違う気がする。
前世とは違って女性にもてる様な容姿だと嬉しいのだけど、それはそれでトラブルとかあるのかもしれないし微妙か。
周りの風景を確認すると、遠くには山脈が見えているが、近くは草原が多そうだ。
その草やバラバラと生えている木なんかも確認すると、前世との違いがあまり感じられない。
まあ、前世では、こんな何もない広い草原・高原って感じの所は無かったけどね。
ああ。アフリカとか行けばあったのかな。
太陽は一つで、前世と比べると色は白っぽい気がする。
違和感と言うか違いそうだなと言う点だと、地面の丸みを感じるし、少し向こうの地面が見えにくい感じ。
ひょっとしたら、星のサイズが地球より小さいのかもしれない。
そんな事も確認しながらのスキル上げをしながらの移動なのだけど。
無い事に偽装、秘匿、隠形を自分に掛けているので、今の処、魔物に気付かれることなく一方的に魔法で倒し、戦利品処理をして亜空間収納に入れている。
日が大分傾き、もう少しで夕方になってしまう。
そう思った時だった。
後ろから轟音が聞こえてきたので振り返ると。
そこにあったはずの山脈の一部が吹っ飛んでいる。
そして、俺から数キロ離れた場所がアニメで見た高出力レーザーで薙ぎ払らわれた情景の様に、数キロから数十キロにわたり大地に深い溝が刻まれる。
その暴風に軽く吹き飛ばされながら、俺が呆気に取られてみていると、何か2つがこちらに接近してくる。
一つは燃え盛る火に包まれた巨人。
もう一つは、水色をした西洋型の竜だ。
「あ。あれは何だ?」と思わず呟くと。
【戦闘中の精霊王と竜王です】と少知スキルが教えてくれるけど。
俺から数キロ以上離れた森に巨人が下り、竜に燃え盛る火炎球を幾つも打ち込んでいる。
5キロ以上離れているのに、熱さを感じるほどの光と熱だ。
それを避けながら、竜がブレス攻撃。
それを巨人は飛んで避けるけど、森はあっという間に凍り付き、砕け散った。
すると、今度は寒さがここまで届く。
空気って、熱伝導率が悪い筈なのに、どれだけの冷気なんだ。
あんな戦いに、巻き込まれたら……。
すると、竜が魔法を唱えたのだろうか。
天からの雷が巨人を打ち据え、動きが止まったところに、竜が光のブレスを撃ち込み、巨人が消滅した。
それを見た竜は、しばらく滑空をしていたかと思うと、満足そうに飛び去っていく。
けど、俺は……。
俺は、この世界で生存競争をしなければならないはずだ。
「あ。あんなのに勝てないと駄目なんだ」
【いいえ】
「戦う必要は無いのか?」
【はい】
「生き残りさえすればいいのか?」
【……】
はあ。どうすれば良いのか。
途方に暮れながら、街道へ出ようと、もう一度歩き始める事に。
その後、彼らの戦いの余波で、強い魔物がこの辺りから逃げたり警戒して隠れたりしたので生き残れた、と言う可能性にも気が付いたけどね。
人の居る場所へ移動途中、圧倒的な存在を見ました。
それに絶望に近い感情を持たされてしまいましたが、現時点で自分の存在の小ささを自覚できたのは良かったのでしょう。