第5話 MPIのお姉さん その2
第5話 MPIのお姉さん その2
―旭野朽―
男性保護団体とはざっくり言うと男性を守ろうという組織だ。
——さすがにざっくりしすぎなので義務教育範囲での説明を行うと……。
財団法人つまり国内の様々な企業がスポンサーについている組織だ。
前世でいうところの環境保護団体や動物保護団体のようなものである。
弊社は環境に配慮して生分解性プラスチックを使用しています。
弊社は動物に配慮して動物実験を行う製品開発を行っておりません。
弊社は男性に配慮して男性保護団体を支援しております。
的な感じで企業は、消費者の感心を買って購買意欲を高めている。
もちろんそのほかにも多額の公的資金が投入されているのは言わずもがなであるが……。
そうやって集めた資金を男性保護に費やしている。
具体的に言うと……。
男性保護特区の整備や
授精研究所の管理や
男性保護教育制度の整備などである。
そして、それらの活動の中で最たるものが男性保護監督官の派遣だ。
高度な教育と訓練を施し男性保護の最前線を担う彼女らの、給金を支払い福利厚生を充実させているのは男性保護団体の活動成果なのだ。
そんな、絶対男性守る団体の一人である鬼塚姫子さんは現在、俺に膝枕されている。
そう、俺が膝枕しているのである。
時は遡りあれは彼女を家に招き入れた時のことだ。
「し、失礼ひます!」
緊張のあまり呂律の回っていない彼女は体も固まっているのか、手と足が同時に出ていた。
美しい女性のほほえましい姿に、思わず笑みを浮かべてしまう。
「あ、あのー大丈夫ですか?」
「はひ!大丈夫です!」
一瞬、こいつ狙ってんのか?という思いが浮かばないでもないが、極端に綺麗な人があざとい言動をとっても、反感なんて微塵も浮かばないもんだなと漠然と思う。
そんな益体もない事を考えていると、ふと悪戯心が芽生える。
黙って手を差し出し、軽い会釈とともに……。
「段差があります。よろしければお手をどうぞお嬢さん。」
極力、気障ったらしい表情と声音で挑戦的な目つきを心がける。
前世では恥ずかしくて絶対にできなかったであろう行動だ。
しかし、今世の俺は絶世の美男子(母曰く)!
これで落ちない女はいないっ(自称)!
「ふへっ」
何とも言えない擬音語を口から絞り出した彼女は、玄関の段差に片足を掛けていたこともあって、物理的に後ろに落ちていった。
ゴツンともゴチンとも言えない鈍い音は彼女が後頭部を大理石の床に頭を打ち付けた音だった……。
想定外だった。
少しばかり顔を赤らめてくれたらうれしいな程度の悪戯だったのに。
まさか、気を失い受け身も取れないまま後頭部を強打するほどまでに強烈なインパクトを与えてしまうとは……。
あべこべ世界の絶世の美男子おそるべし……。
そんな冗談が言えるのも、彼女のケガが大した事なさそうだと母が判断したためである。
「あらあらまぁまぁ。朽さんだめよ。女の子には刺激が強すぎるわ。」
事のあらましを聞いた母の一言だ。
あわあわと玄関先で焦っていた俺の手を取りおっとり口調で注意してきた。
「か、母さんどうしよう?救急車呼ばなきゃ!」
「大丈夫よぉ~男性保護監督官はしぶといからぁ~ふふふ~」
仄暗い笑みを浮かべる母の姿に戦慄を覚える。
(昔、絶対なんかあったんだな……。この話はやめよう。)
「まぁ~朽さんがどうしても気になるなら~膝枕でもしてあげるといいわぁ~」
(いや、それ目覚めた時にもう一回気絶するんじゃ?)
そんな疑問も飲み込み相変わらず薄っすらと怖い雰囲気を醸し出す母さん。
そんな雰囲気に気圧されて、ひとまずはコクコクと頷く。
そうした経緯で居間のソファーまで姫子さん運び、膝枕で彼女を労わっているのだ。
目覚めた時、どうするかなぁーと漠然と考えていると、ひざ上にある彼女の頭がもぞもぞと動き始めた。
「んー、イテテ……ここ……?」
「おはよう。マイスウィートハニー。気分はどうかな?」
今度は気障ったらしいを通り越して甘ったるい声を意識して作った。
やるからには全力だ!!!
「……ふへっ」
2秒ほど耐えたがやはりこうなったか……。
しかし、どうしたものか……段々と面白くなってきたぞぉー。
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