第37話 ゴールデンウィーク その8
次話、閑話を挟む予定です。
ちなみに加奈子の話は2話で終了予定です。
第37話 ゴールデンウィーク その8
―旭野朽―
明日香の家族に挨拶をした翌日。
残り少なくなったゴールデンウィークを指折り数えながら
残る予定を確認する。
日野美波と深山加奈子とのデート。
家族団欒の暖かい時間を過ごしたばかりにもかかわらず、
違う女性とのデートを楽しみにしているあたり
中々のクズであることは自覚している。
が、やはり楽しみなものは楽しみなのだ。
そして、今日は加奈子と映画デート。
あべこべ世界とは言え女性がラブロマンスを好む傾向にあるのは変わらないようだ。
『俺様の美学』なんていうぶっ飛んだタイトルであるだろうが、
こちらの世界でのモテ仕草や言動を学べるいい機会である。
それにしても加奈子とのデートか……ぐへへ
―深山加奈子―
「朽君とデート♪デート♪」
小躍りしたくなるほどにはしゃいでる自覚はある。
けれども今まで生きてきて、初めての男性とデートだ。
それほどのテンションになることは大目に見てほしい。
家から駅の道のりも
電車の中も
駅前のとおりも
スキップするような歩調で
決して髪や服装が乱れないように進んだ。
待ち合わせの1時間も前についてしまったことを少々後悔しつつ
朽君の到着を待つ。
駅で買った紅茶のペットボトルの水滴を払う。
5月の頭でも天気は良く、それなりに気温も高い。
汗ばみそうな天気なのでどこかで涼もうかと思案していると、通りの向こうが騒がしい。
朽君だっ!
そんな期待に胸をときめかせながら騒がしい一角に目を向けた。
紺のジャケットに真っ白なTシャツ。
少し細身のデニムに革靴と、およそ高校生らしからぬシンプルな装い。
しかし、彼のスタイルの良さを活かしたさわやかな格好に見惚れてしまう。
周囲の女性たちも同様で、彼が通り過ぎたそばから目を潤ませ視線で追いかけている。
「あの子激やばじゃない?」
「超イケメンじゃん!?え?男の子が一人!?」
「よく見なよ周りMPIだらけだよ多分」
「そりゃそうかー。でも、声かけてみる?」
「馬鹿!MPIが極力離れてるってことは……あれはデートよ!」
「うっそ!あのイケメンが!?どんな美女連れてくるんだろう……」
ひそひそと会話しているはずなのに丸聞こえだ。
期せずして高まる周囲の期待で胃がきゅっとなる。
(ごめんなさい。こんな普通な女で……)
「おまたせ!加奈子。かなり早くつくようにしたんだけど、もしかして待った?」
「全然!わ、私も今来たとこだよっ!」
緊張のあまり、首をぶんぶんと横に振って髪が少し乱れた気がした。
そして予想通り周囲からはひそひそと声が聞こえる。
「あの子が……なんか普通じゃない?」
「へぇーあんな子がタイプなんだ……私にもワンチャンあるんじゃ……」
「なんか拍子抜けだよねぇー」
女の嫉妬程怖いものはない。
それに彼女たちの気持ちは痛いほどわかる。
(私みたいのが朽君とデートなんて……やっぱりおこがましいよね)
少しだけ、ほんの少しだけだけど泣きそうになってしまう。
そんな私の顔を覗き込むように見てくる朽君。
「加奈子……外野は気にしなくていいよ」
そういうと朽君はぐっと私の肩を抱き寄せる。
彼の胸に強く抱きこまれバランスを崩して、頭から朽君の胸に飛び込む形だ。
(あぁ~ダメだよっ!朽君破廉恥だよぉ~)
朽君は周囲をキリッとした眼差しで見渡し、口元に指をあてわずかな呼吸音で注意をする。
「しぃー」
周囲の喧騒が止んだ。
ギャル風のお姉さんも
OL風のお姉さんも
MPIのお姉さんたちでさえ
朽君の口元を注視しているように見える。
「さぁ行こうか加奈子」
脳髄まで痺れるようないつもよりも大人っぽい声で微笑む朽君。
気絶しなかった私をほめてほしい。
【読者の皆様へ】
「続きが気になるっ!」「面白いっ!」「朽そこ変われっ!」など思っていただけましたらブックマーク登録・感想の投稿よろしくお願いします。また、この下に☆マークの評価欄がありますのでこちらも押していただけると、更新速度がUpします……多分。
どうぞよろしくお願いします!




