第3話 例のあれ Another side
第3話 例のあれ Another side
―鬼塚姫子―
警護対象との初対面はいつでも緊張する。
距離が近すぎてもダメ、離れすぎてもダメ。
いつだって見守る距離感で……とは、新人研修の初手で習う事だ。
しかし、そうした信条を守り通すことは決して簡単ではない。
警護対象によって男性保護監督官は伴侶として選ばれることも少なくない。
体力基準、容姿基準、技術基準
あらゆる選考基準を突破した我々は、世の一般女性から見てもハイスペックである。
どのみち5人も娶らねばならないのなら、男性保護監督官をその候補に入れておくのも悪くない
と考えてもらえる程度には社会的な信頼がある。
合法的に男性と多く知り合える環境であり
合法的に男性に近づくことが可能で
合法的に男性と結ばれる可能性が高い。
こうした期待感を心の中で押しつぶし、仕事として男性の側に侍る。
つまりは生殺しの状態が少なくとも何年と続くのである。
途中で心が折れ保護対象者へ情欲的な行動をとろうとする者もいるという。(まぁその多くは別のMPIに袋叩きにされ更迭されるのだが……。)
『心頭滅却すれば火もまた涼し』
座右の銘を今日も心の中で唱えながら、保護対象者の自宅へと訪れた。
警護対象の情報は完全にインプットしている。
旭野朽
15歳 身長174㎝ 体重58kg
品行方正で成績優秀。
類まれなる容姿で特区では男性のファンもいたほど。
母親は国府四家筆頭筋の次女で華族。
今時少女漫画でもここまで属性てんこ盛りではないという程の人物だ。
そんな彼の男性保護監督官として働けることを誇りに思いながら、4度の検問を通り玄関前に到達した。
ピンポーン
「こんにちは、こちらは旭野様のお宅でお間違いないでしょうか?」
「はいそうですが。」
清涼感と重厚感を併せ持つ甘い声に、思わず口角がつり上がりそうになるのを我慢しながら、要件を告げる。
「私、男性保護団体の鬼塚と申します。本日より男性保護監督官として警護任務に就任いたしました。」
「あ!少々お待ちくださーい!」
明るい声音からして気難しい性格ではないようだ。
わずかばかりの安心感を胸に初対面の瞬間を今か今かと待ちわびる。
「いらっしゃいませ。引っ越したばかりで散らかってますがどうぞ中に」
そこに天使はいた。
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