第32話 ゴールデンウィーク その3
第31話 ゴールデンウィーク その3
―旭野朽―
前世でいうところの横浜に位置する軍港。
大日ノ本帝国海軍の本拠地でもあるこの街は、まさしく軍港街。
大型艦船が入港するたびに街の活気は盛り上がる。
しかし、現在は小型艦船がちらほらと見えるだけ。
いわゆる閑散期という奴らしい。
車内から眺める景色は少しだけ寂しい
商店街のような場所もその規模に対してまばらな人通りだ。
今朝がた突然迎えに来た軍用車。
白と青の迷彩が施されたハンヴィーのような厳ついSUVに揺られること2時間。
ようやく目的地と思わしき建物についた。
豪奢というには派手さに欠けるが、気品のある日本家屋。
周囲にこれでもかというほどの戦闘服姿の女性兵士が配置されている。
彼女たちはみなその手にアサルトライフルを携帯し防弾チョッキや無線なんかも装備していた。
パッと見ここが戦場だと言われても納得できるほどの厳重警戒。
俺の住む囲郭マンションにもゴム弾を装填したアサルトライフルを携行する警備員が居る。
しかし、今ここを警備している彼女らの持つのは実弾だろう。
いくつもの視線がこちらを向く。
彼女たち全員の右腕には共通の部隊章が縫い付けられている。
日の丸に八咫烏。
大日ノ本帝国海軍上陸作戦隊特殊工作群。
旭野家の当主を代々司令官に戴く特殊部隊だ。
一騎当千の彼女らが、ただ屋敷の警備に回されている事実に身震いしながらも、案内に従って屋敷内に入る。
「こちらでお待ちを」
時代劇で見るような謁見の広間で待たされること数分。
奥から現れた妙齢の女性はこちらを一瞥すると、鼻を鳴らしてドカリと上座に座り込む。
「弁えているようで結構」
特に座る場所を指定されなかったので、普通に下座に座った。
この世界基準の男性で考えると確かに珍しいかもしれない。
「今回のあらましは全て男性保護団体より聞きました」
「その節は多大なるご迷惑を……御祖母様のご配慮により万事解決いたしました」
「誠にありがとうございました」
ひとまず誠心誠意の謝意を伝る。
「それは重畳。雅の息子と聞いてどんな男かと心配していましたが……安心しました。今晩はゆっくりしていきなさい」
そんな言葉で締められ客室へと通された。
10畳ほどのこじんまりとした客室で寝転ぶ。
母さんの面影がある祖母の顔。
若かりし頃はさぞ美人だったんだろうと思いを馳せていると、襖の外側から声がかけられる。
「朽様。夕餉の支度が整いました」
「あ、はい」
廊下を歩いていると一人の少女が柱の陰からこちらを覗いている。
体を隠して精一杯気づかれないようにしているようだが、丸見えだった。
案内をしてくれていた人がくすくすと笑いながら呼びかける。
「光様、そのようなところで何をされているのですか?」
「ば、ばっか!おぬしのせいで気づかれたじゃろ!」
慌てて柱から身を出してこちらを指さし、ぷんすかと怒る幼女。
そんな中、俺は衝撃に身を焼かれていた。
のじゃロりだとっ!!??
―旭野光―
我が家に男を招くらしい。
おばあ様が私にひどく怖い顔で注意してきた。
曰く旭野家一の悪童の子供
曰く悪鬼羅刹の類の子供
曰く……。
とまぁわらわをひどく脅すものだから一目見てやろうと待ち伏せてやった。
和装に身を包み廊下を下女に従い静かに歩く様は百合のように美しかった。
朧げな表情は酷く儚げで、触れば壊れそうな華奢な図体。
屋敷に頻繁に出入りする兵士共とは比べるべくもない。
息を飲んだ。
確かにそうだ。
こやつは人を惑わす類の物の怪だ。
おばあさまの忠告も今ならおとなしく頷ける。
高鳴る鼓動を抑えて静かに見守るつもりが下女にあっさり見つかってしもうた。
うむ……要観察じゃ!




