第27話 灰被りの秀才 その11
いや、ほんと佐山君を書くとストレスがすっんごいのよ?
第27話 灰被りの秀才 完
―旭野朽―
「……助…け、て。助けてっ!旭野朽っっ!!!」
「わかった。今助ける」
いつも、気丈に振舞っていた宮本明日香。
彼女が泣きはらした目をしてこちらを見る。
その視線を受けて、全身の血が沸騰する思いだった。
「誰だよお前?部外者はすっこんでろよ」
「あ゛?」
だめだ冷静になれ……衆人環視の中で粗暴な真似は出来ない。
彼女の立場も自分の立場もあるんだ。
落ち着け俺。
「2号……俺はがっかりだ。昔のお前は誰かに頼るなんて弱っちい奴じゃなかったのに」
「……」
「それが、こんな男に尻尾振りやがって……なぁ2号」
「……ぶん……じゃねぇ」
「あ?なんか言った?」
「宮本をそんな変な名前で呼ぶんじゃねぇよっ!」
気づいた時には走り出していた。
全身のバネを使って大きく飛びそのまま蹴りを入れる。
しかし、放たれたドロップキックを受け止めたのは女性だった。
姫子さんとよく似たスーツを着る女性。
「男性保護監督官」
「はい。男性保護監督官の山科と申します。いくら男性同士の揉め事とはいえ、このまま見過ごせません」
頭に一気に登った血が急激に落ち着いていくのが分かった。
「彼を止めるのも貴女の仕事じゃないんですか?」
「私の職務は彼の身の安全を保障すること。つまり、職務範囲外です」
お役所仕事かよ!
そんな突っ込みもこの糞馬鹿真面目女の前では意味を成さないだろう。
「へぇ~。あ、そう」
大きく左足を引いて右足を軸にしっかりと踏みしめ、側頭部に蹴りをぶち込む。
寸前に彼女は両手で受け止めるも衝撃で右側によろめいた。
「姫子さん。そいつ任せていいかな?」
「承知いたしました」
車から降りてきた姫子さんはスーツの上着を脱ぎすてて腕まくりをしながら山科に近づいていく。
姫子さんが山科を相手にしてくれている間、再び佐山に向き直る。
「あのさ、特選男子って……なんでこの女社会に平然と入っていけるか知ってる?」
「と、特選男子?」
「そうだよ。知らなかった?あ、自己紹介しないとね」
「僕は旭野朽。国府四家が一つ旭野家の縁者。それで特選男子。で、答えはわかる?」
「知らねーよ」
「特選男子ってさ、身体とも健康であることと、成績が優秀なだけが条件だと思われてるけど」
「ある程度、自衛できないとダメなんだよね」
「だから護身術とか格闘技とかそれなりに修めてる」
「は、は?知らねーぞ!そんな情報!あの人に教えてもらってないっ!」
突然焦り始めた佐山を無視する。
「ねぇどうして女性にここまで酷いことできるのかな?」
「な、なに言ってるんだ……女だぞ?掃いて捨てるほどいる。僕ら男とは違うんだ!」
「いやいや、一緒にしないでもらえます?」
「いいじゃねぇーか!俺は男だぞ!?特別だ!この世界で特別な存在なんだよっ!」
会話にならない。
なんだこいつ?
薬でもキメてんの?
「つまり、君は男性で特別だから女性を玩具にしていいって言ってる?」
「あ、あぁそうだろ?お前も男ならわかるだろっ!」
「それじゃぁさ」
「僕は男で貴族だし……君より特別だ。だから、君を玩具にしてもいいよね?」
「は?」
「歯、食いしばれや」
間抜け面を晒している佐山の顔面に力いっぱいの拳をぶち込む。
メキリッと音がして何本もの歯と血しぶきをぶちまけながら吹っ飛んでいく佐山。
「だから、歯食いしばれって言ったろ?」
爽快感で胸がいっぱいの中、宮本さんに向き直る。
「宮本さん。後は任せて!」
遠くからサイレンが聞こえる。
取り調べコースかなこれは……。
―宮本明日香―
佐山が綺麗に吹っ飛んでいった。
私を4年間、悪夢に縛り付けたあの男が……。
旭野朽の手によって
悪夢ごと打ち砕かれた。
何時間も取り調べを受けて無罪放免となった。
後から聞けば、旭野家が相当手をまわしたらしい。
彼の事がわからない。
どうして私のためにそこまでしてくれるのか本気でわからなかった。
どうして私のためにあそこまで激怒するのか本気でわからなかった。
男性保護団体の施設を出た時、外に待っていたのは彼だった。
「おかえり宮本さん」
「た、ただいま?」
なぜかそのあと沈黙してしまい二人して笑ってしまった。
彼のエスコートで車に乗り込み、長く黙ったままだったが、話を切り出したのは彼の方だった。
「そのさ、今回の件。4年前の事も含めて全部聞いた」
「そっか……」
「学校やめちゃうの?」
「……うん。学費払えないし、妹の世話もあるし」
「そっかぁ」
「旭野君は?これからどうなるの?」
「え?どうもなんないよ。あ、でも本家に今回火消しでかなりお世話になったから挨拶に行かないと」
「……そうなんだ」
車内がもう一度静かになった。
「ねぇ宮本さん」
「何?旭野君」
「報酬おねだりしていい?」
言われてみれば確かにそうだ。
男性で貴族でカッコいい彼がなんの対価もなしに動いてくれるはずがない。
そう思うと妙に納得がいった。
「……私にできることなら、なんでも。あと、お金じゃない方がうれ」
言い切る前に私の口は彼の口で塞がれた。
「毎度~」
顔が途端に熱くなる。
これでは彼への報酬ではなく私への……。
「あーでも、これじゃ少し足りない」
悪戯っ子の笑みで旭野君が思案顔を作る。
「ということで家庭教師になってよ。でもそれじゃぁ僕の貰いすぎになるから、お釣りは金見山高校3年分の学費ってことで」
彼が口にした言葉の意味をゆっくりと咀嚼する。
お釣り?学費?それって学校続けられるの?
意味を理解し終えたとたんに涙溢れてきた。
と、同時に疑問も溢れる。
「ど、ど…う……しで!そん……な…に、やさしくするのっ!?」
「私っ!いっぱいあなたに酷いこと言ったっ!」
「私っ!あなたをバカにしてたっ!」
「どうして!」
一度吐き出した言葉は堰を切ったようにとめどなく流れ出した。
でも聞いておかないと不安だった。
言葉にしてほしかった。
旭野君の口からききたかった。
「……好きだから。宮本明日香が好きだから」
きっとこの先、彼は多くの女性に同じこと言う。
それだけ彼は優しく強くカッコいい。
でも今だけは、今この時だけは彼の視線が、私だけに向けられている。
その事実が妙に恥ずかしくて、妙にうれしかった。
私は彼に救われた。
それでいい。
それだけでいい。
彼に助けられ彼を助けよう。
ありがとう私の王子様。
灰被りの秀才 Fin.
無事、灰被りの秀才終えました。
次話より2日程休んで少し閑話を挟み新シリーズです。
まだまだ、金見山高校編は続きますので、これからもよろしくお願いします。
今後の執筆方針について明日活動報告に記載いたします。
もし、興味がおありでしたらぜひのぞいてください。
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