第25話 灰被りの秀才 その9
灰被りの秀才残り2話です。
第25話 灰被りの秀才 その9
―宮本明日香―
目が覚めた時、私の服はびったりと汗で張り付いていた。
気持ち悪い……。
これが夢のせいなのか汗のせいのかわからないけど
これ以上考えると本格的に吐きそうなので、シャワーを浴びることにした。
「あ……あぁ……あ゛あ゛あ゛!」
一度、口から出たうめき声が留まることなく流れ出る。
排水溝に流れていく水を見つめながら、何度も壁に拳をたたきつけた。
憎悪というにはあまりに幼稚なその感情を掻き抱くように
自分の身体を抱いて蹲った。
「誰か……おねがい……」
ガチャ
「ねーちゃただいまー!」
末の妹、明日美が帰って来た。
急いで顔を洗って、表情を取り繕う。
何度、顔を洗っても
何度、頭を振っても
止まることのない涙。
あふれる大粒の涙が、止まるころにはすでにバイトの時間が差し迫っていた。
「……ねーちゃ大丈夫?」
明日美は聡い子だ。
いつもとは様子の違う私に気づいたようで心配そうな表情を浮かべている。
天真爛漫なこの子にこんな顔をさせてしまった。
「大丈夫。ねーちゃちょっと疲れてて、バイトだからちゃんと鍵かけてお留守番できる?」
「うん!がんばってね!」
「おぉ!えらいぞぉ明日美!」
頭をガシガシとなでると明日奈がニシシと眩い笑顔で答える。
私はダメだった。
だけど、この子はこの子だけは私が体を壊してでも、やりたいことを目一杯させてあげるんだ。
そんな決意を胸に彼女を強く抱きしめた時、止まったはずの涙が再び溢れ出しそうになった。
心配させないように顔を少し隠して私は急ぎ足で家を出た。
―旭野朽―
胸糞悪い。
この世界に生まれて、初めての激情に駆られている。
身をジリジリと焦がすような怒りが、沸々と心の底から湧き上がってくる。
この男……佐山浩平。
この屑を八つ裂きにしてやりたかった。
でも、この感情は、この怒りは、この憎しみは……偽善だ。
彼女のために怒っている。
そんなお題目を掲げて、復讐を遂げるなんて、そんな権利俺にはない。
所詮は他人事。
彼女のためにできることは、現状俺には何もない。
「朽様」
姫子さんが心配そうにこちらを伺う。
「朽様は大変お優しく、こんな事件を見た時、どういうとらえ方をするのかもう少し考えるべきでした。申し訳ありません」
「……姫子さんが謝ることじゃないよ」
「こうした事件になることはそうそうありません」
「……」
「ですが朽様かこの男かで言うと、世の男性はこの男寄りです。朽様や加藤先生のようなお方は少数派といっても差し支えありません」
悔やむように顔をうつむかせる姫子さん
「それでもっ!それでもどうか……」
「!?車止めて!」
彼女の発言を最後まで聞き届けることはできなかった。
見覚えのあるお店。
ハンバーガーチェーン店。
そこにできた人だかりを見つけてしまった。
「朽様!?危険ですっ!」
車から飛び出るように店に向かう。
確信はなかった。
全く関係のないただの人だかりかもしれない。
それでも多くの客が、店内に向けて携帯電話を向けている姿が妙に不安感を煽った。
「どけっ!!」
思わず大声で叫ぶと人だかりが割れて、騒ぎの中心が目に入る。
そこには土下座に近い恰好の宮本明日香と
彼女の頭を今まさに踏みつけようとしている佐山浩平がいた。
【読者の皆様へ】
「続きが気になるっ!」「面白いっ!」「佐山クズ過ぎっ!」など思っていただけましたらブックマーク登録・感想の投稿よろしくお願いします。また、この下に☆マークの評価欄がありますのでこちらも押していただけると、更新速度がUpします……多分。
どうぞよろしくお願いします!




