第23話 灰被りの秀才 その7
残酷表現があります。
閲覧注意です。
第23話 灰被りの秀才 その7
―宮本明日香―
見覚えのある風景。
あぁそうかこれは夢だとすぐに気づいた。
だってこの景色は随分と昔に住んでいた家の物。
いや、違う。
この家には住んでいたんじゃない。
私は……私たちは……飼われていた。
まだ、小さかった妹たちを親族に預け住み込みであの男の家に家政婦として雇われた。
男性保護区の中にある豪邸。
その一室で私たちは寝泊まりすることになった。
毎朝、6時に起きて朝食を作り、掃除洗濯と一般的な家事をこなしていた。
男の母親と妹はなぜか一緒に住んでいなかった。
今思えば当然だ。
実の家族とは言え、あんな狂人と一緒に住むなんて土台無理な話……。
「おい1号」
奴は私たちの名前を奪った。
母が1号で私が2号。
「午後から家を出る。服を見繕え」
「畏まりました」
奴は私たちの言葉を奪った。
必要最低限の語句で会話することを強制した。
「おい2号」
奴は私たちの……私の……。
「部屋に来い」
「……」
泣きそうな母の表情につられて私も泣きそうになった。
別に、奴の事が怖かったんじゃない。
母に心配させている無力な私が情けなかったのだ。
「返事はっ!!」
大きな怒鳴り声に二人で肩を震わせた。
「……畏まりました」
不愉快そうに鼻を鳴らして彼は自室に戻った。
そのあとについて行くように部屋に入ると奴は不思議そうな顔を浮かべた。
「どうした?早く脱げ」
私はゆっくりと仕事着を脱いだ。
午後には外に出ると言っていた。
この地獄のような時間が、1秒でも短くなることを期待して上半身裸になる。
僅かに残った反抗心と羞恥心で腕で胸を隠す。
「誰がてめぇみたいなクソガキに欲情するかよいいからさっさと床に寝ろ」
奴は楽しんでいた。
私が抵抗することさえも奴にとっては娯楽だったのだ。
だから折れるのに折らない。
奴はいつも私の心を寸前のところでへし折らない。
「よーし。んじゃ今日はこれを使いまーす」
ガシャガシャと音を鳴らしているのは画鋲の入ったクリアケースだった。
「針治療ってあるんだわ。あれさ、不思議なことにあんまいたくねぇのよ」
「だからさ、画鋲でも行けると思うわけ」
「ほらんじゃ始めるぞー画鋲が100個刺さるかなぁ~チャレンジ―!」
「あ、声上げたらペナルティな。数えなおしだから」
1つ画鋲が刺さる。
声が出そうになった。
思わず口を押えて堪える。
2つ画鋲が刺さる。
背中の痛点が増えて熱を持ち始めた。
鼻から漏れる息が激しくなった。
3つ画鋲が刺さる。
痛い…熱い…誰か……。
終わって……。
それからどれくらい時間が経ったろう。
一つ一つは小さいけど鋭い痛み。
それが背中の全体を覆って、大きな痛みになって私に襲い掛かった。
頭が痛い。
背中の痛みのせいか、
歯を食いしばりすぎたせいか、
わからない。
男は100数え終わると私の背中にカメラを向けた。
「うはーきっしょ。なにこれコラ画像見たい」
一人でゲラゲラと笑うと突然興味をなくしたように
「声出さねーし飽きたわ」
奴はそういって部屋を出て、当初の予定通り外出した。
部屋の惨状を見た時、母は私に縋りついて泣いていた。
今思えば、学校なんて諦めてさっさとこんな仕事辞めればよかったのだ。
でも、強気で強情で高慢な私は絶対に耐えてやると誓っていた。
何よりもいい大学を出ていい所に就職をして、末の妹には同じ思いをさせたくなかった。
「ごめんね、ごめんね、明日香ごめんなさい」
画鋲を一つ抜くたび母は涙を一つ流して謝罪した。
「お母さん私平気だよ。生きて……生きてっ!お金貰ってっ!出ていくんだっ!」
「そ、そしたらっ!私の……私たちのっ!勝ちっ!私は負けないっ!」
そう強く宣言した。
そんな発言を奴が聞いていたとも知らずに……。
あと、2話ほどシリアスが続くといったな?
あれは嘘だっ!もうちょい続く!
はいごめんなさい。
いっつも予定ガタガタなみぞれパンダです。




