第18話 灰被りの秀才 その2
昨日、投稿できなかった分も含めて本日は3話投稿予定です。
第18話 灰被りの秀才 その2
―旭野朽―
「あの女……消しますか?」
美波は静かに怒っていた。
激怒といってもいいだろう。
『同情なら周りの連中にでもくれてやったら?』
苛烈ともいえる宮本さんの発言には少々面食らったが、それでも彼女を害そうという気は全く起きなかった。
そもそも精神年齢的に言えば、彼女と俺は親子以上の差がある。
これで怒るのは器量が狭いというものだろう。
「消すって怖いなぁ美波は」
アルビノの彼女は美しい見た目も相まって、お伽噺の魔女のような印象だ。
もちろんそれはえげつなさも含めてである。
国府四家の嫡子である彼女にとって宮本さんを社会的に抹殺することは十分可能だろう。
というか社会的にだけではないかもしれない。
「でも手は出しちゃだめだよ……あ、間接的にもダメ」
「で、ですが!?」
「ですがもかすがもないよ。彼女は……なんでもない」
「そうですか……差し出がましい申し出でした」
「いや、美波は僕のために怒ってくれたんだよね。ありがとう」
手をしっかり握って彼女を見つめてお礼を言う。
見る見るうちに白い肌がまだらに赤くなっていき彼女はうつむいた。
いやはや、それにしても宮本明日香…………素晴らしい逸材だ。
やや釣り目の強気な視線。
おそらく西洋の血が入っているのか金髪は地毛だろう。
陽の光に当たった時なんて、眩しいほどきらきらするんだ。
そして、何よりあの孤高感のあるツン。
最高だ。
ただ、彼女はまだ未完成。
だってそうだろう。
いつの時代もツンの後にはデレと続く。
古事記にもそう書いてある。
「あれ?お二人ともご飯食べないんですか?」
「あぁ加奈子。今から食べるところだよ。こっちおいで」
こうして3人で昼食を取る。
どうやらクラスのルールとして、俺へ無闇矢鱈に声かけしてはいけないというものが制定されたらしく、しばらくはこの三人でご飯を食べるという事になった。
できれば、いろいろな女子と喋りたいので機を見て、順番に誘っていこうと思う。
「あ、そうそう。美波に頼みたいことがあるんだけど」
「はい!何なりと!」
跪きそうな勢いで席を立った美波を抑えて頼み事を告げる。
「宮本さんの身辺調査ってできる?」
頼みごとを聞いた美波はそれはそれはあくどい笑みを浮かべた。
絶対勘違いしているが、訂正も面倒くさいので美波の返事を待つ。
「えぇそれはもちろん。家の住所から彼女のスリーサイズ、果ては彼女の趣味嗜好まで」
彼女は自信ありげにそう言ってのけると顔を近づけて囁くように告げた。
「そうですよね。殿方ですもの……朽様が直接手を下すのですね」
仄暗い笑みを浮かべる彼女に俺は曖昧な笑みを返した。
―宮本明日香―
学校が終わり、逃げるように帰宅する。
すでに高校生活が始まって1週間。
私はクラスに溶け込むどころか完全にいない者扱いだ。
それはそうだろう男性に対しての度重なる悪態。
しかも相手は旭野朽。
国府四家筆頭格の旭野家の一人息子で
女性にも優しくて紳士的
顔は恐ろしいほどの美形で
勉学もおろそかにしていない。
クラスの女子が国宝だのなんだの騒いでいたけど
確かに、それぐらい貴重だというのもわかる。
本当にテレビで見る俳優や男性アイドルみたいだ。
でも彼らは人気商売だ。
裏の顔はものすごく酷いってよく聞く話だし、もしかしたら旭野朽も裏では下種なのかもしれない。
裏の顔……一瞬、旭野とは全然違う男が脳裏を掠めた。
「だめだ……バイト行かないと」
暗い思考と記憶の海に沈みかけて、それでも奮起するために呟いた一言。
アパートの駐輪場に向かいバイト先へとペダルを漕ぎ出した。
駅前のハンバーガーショップについたとき、いつもなら少し忙しい程度の店にはなぜか大行列ができていた。
「あ、宮本さーん!」
レジ横のカウンターには、にこやかな表情を浮かべる旭野朽が座っていた。
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