第17話 灰被りの秀才 その1
灰被り……一体、何デレラなんだ……。
第17話 灰被りの秀才 その1
―宮本明日香―
どうしてこうなったんだろう。
私は今、人生の中でも1,2を競うほど不可解な出来事に直面している。
「宮本さんも一緒にお昼どうかな?」
私のクラスというか学校で唯一の男子生徒。
旭野朽。
彼はにっこりとした表情を浮かべて私に声をかけてきた。
普通の男の子なら昨日みたいなことがあれば、遠ざけるんじゃないの?
入学式、つまりは前日に私は結構なやらかしをしてしまった。
日野の嫡子と揉めたのだ。
問題はその事の発端が彼に関係するという事と仲裁してくれたのも彼だという事だ。
勢いであんな発言したとはいえ、陸軍の一大派閥を持つ日野家ににらまれたら、私みたいな一般市民ひとたまりもない。
正直なところ、彼が旭野家かつ男性かつ日野美波の思い人で助かった。
彼女は駄菓子を買うように私の当たり籤に300万円もの大金をポンと出した。
男性が苦手な私はそのお金に思わず飛びつきそうになった。
だって300万円もの大金だ。
母が10カ月まじめにコツコツと働いて手に入る金額。
私のアルバイト時給の何千倍。
しかも彼女はそれ以上出してもいいような口ぶりだった。
伸びかけた手はプライドに邪魔された。
バカにしやがって!
かっとなって、啖呵を切ってしまった。
昨日の対応は高慢な態度だったと思う。
彼に直接暴言を吐いた訳ではなかったけど、男性を軽視するような発言だ。
この先、クラスで友人ができるとは思えない……。
最悪だ。
でも、そんな状況の中で平然と声をかけてきた彼。
どういうつもりなんだろう。
彼の真意が見えない。
「はっ!私があなた達と?冗談でしょ?」
「そっかごめんね。また今度」
「同情なら周りの連中にでもくれてやったら?」
思わず口から出る言葉に彼はシュンとした表情だ。
罪悪感が沸いてくるがこれでいい。
彼たちと私は住む世界が違うのだ。
「何?あの態度。信じられない」
「何様のつもりって感じ……待って宮本さんって」
「あぁ特待奨学生の子じゃない?」
「勉強できるからって調子乗ってんじゃない?」
「ま、でもそれでも入学試験の成績は日野さんがトップだったんでしょ?」
「え?じゃ日野さんが奨学生辞退してなかったら彼女特待じゃなかったの?」
こそこそと噂話している集団を睨め付ける。
でも、何も言い返せない。
彼女たちのしている話はぐうの音も出ない事実なのだから。
私は熱くなった目頭を隠すようにして、教室を走り去った。
私の家は裕福な家庭ではない。
母は毎日夜遅くまで工場で働いてるし、2人の妹は小学生で食べ盛り。
節約に節約を重ねる中で、私は努力し続けた。
故にプライドもあった。
財力・知力の両方がなければ入学できない金見山高校に特待生で入学できたことで、今までの努力が報われた気がした。
でもそんな自信もすぐに打ち砕かれることになる。
日野美波。
紛うことなき天才だ。
噂じゃもうすでに大学の博士課程並みの学力があるらしい。
家柄も財力も容姿も、そして自信のあった勉強も……。
私は彼女に何一つ勝てない。
今まで積み上げてきたものも、おそらくこれから積み上げていくものも。
孤独感と憂鬱な気持ちを携えて私は一人でご飯を食べた。
本日はあと1話投稿予定です。
多分、おそらく、きっと22:00までには投稿できる。




