第15話 深山加奈子という女
この話を書いてる時がすごく楽しかった……。
第13話 深山加奈子という女
―深山加奈子―
私は今日という日を記念日制定した。
いや、確かに入学式という記念すべき日ではあるがそんな些細な催しはどうでもいい。
事の発端は、入学式1週間前に突然自宅に送られてきた書類からだった。
そこには特選男子が入学すること。
しかも私のいるクラスに来ることなどが事務的に書かれていた。
私は生まれてこのかた生で男性を見たことがない。
親戚や近所にはいないし、当然彼氏や友達もいない。
男性アイドルや俳優をテレビで見るぐらいだ。
だから、最初は実感がなかったけど、入学式が迫るにつれて期待がなかったといえば噓になる。
もしかしたら話しかけてもらえるかも……。
もしかしたら肩とかに触れられるかも……。
本当にもしかしたら彼女に選ばれるかも……。
なんて妄想ばかりしていた。
でも、ママはそんな私にくぎを刺すように何度も言い聞かせた。
「男性に夢を見るのは止めなさい」
ママも昔はなんかあったのかな……なんて暗い顔をして話すママの横顔を見ながら怖くなった。
そうして迎えた入学式当日。
式の会場で見たことある貴族の女の子がとんでもない発言をして本当に驚いた。
国府四家の日野様って未だに力を持ってるところだから関わらないように決めて教室に移動した。
だけど、座席表を見てびっくりした。
一番後ろの列で私は窓際角の席。
そして隣には日野朽と書かれていた。
多分、私は本当に人生の運をここで使い果たしたのだと思った。
それでもいいかもと思ってしまえるのは舞い上がっていたせいだと思う。
そわそわと落ち着かない気持ちで彼が教室に来ることを楽しみにしていた。
教室内のクラスメイト達も同じようでみんな男子生徒の話ばかりしていた。
もしかしたらあのアイドル君みたいな子かもしれないとか
いやいや、この間デビューした俳優みたいかもしれないとか
そんなありえない話ばかりしていたけど、正直アイドルとか俳優ほどでなくてもいいけどかっこよければいいなぁ。
なんて考えていたら、ぞっとするほど白い女の子と一緒に入ってきた彼を見て私の思考は吹き飛んだ。
彼はテレビで見るどんなアイドルよりキラキラしてて、どんな俳優よりもきれいな顔立ちだった。
きっとそう思ったのは私だけじゃない筈だ。
さっきまであんなに騒がしかった教室の中が耳鳴りがするほど静かになったのがいい証拠だ。
「……僕の席はっと」
そんな沈黙の中で彼の声は酷く響いた。
耳が痺れるような甘い声。
女性には出せない少し低い声が聞こえた時、私は飛び上がる様に自分の隣の席を指し示した。
「こ、こちらです!」
少しどもったことなど気にもならない。
彼の視線が今私だけに向いている高揚感で一杯だ。
やっとこともないのに思わず椅子を引いて彼をエスコートする。
「ありがとうね……えっと名前は?」
「は、い!私、深山加奈子といいます!」
彼が私の名前を聞いてくれた。
うれしいうれしいうれしい。
この場でぴょんぴょん跳ねてガッツポーズしたい気分だ。
「へぇかわいい名前だね!加奈子って呼んでもいい?」
その問いに思わず肩を震わせてしまう。
少女漫画でドラマで見たことある様な展開に思わず自分の頬を抓りそうになった。
全身の血が顔に集まっているんじゃないかという程、熱い頬の実感が夢じゃないと言ってくれてる。
とにかく返事をしないとという一心で首を振る。
「ありがとう!加奈子!僕のこともぜひ朽ってよんでね!」
「よ、よろしくてございますですか?」
素っ頓狂な日本語で返事をしてしまった。
でも下の名前で呼び合うなんて……これって既成事実ってやつでは?
なんて考えていたら、横から白い彼女が出てきてすべてを搔っ攫われた。
でもいい。だってこの教室で初めて名前を呼び合ったのは私なのだ。
そんな自信があふれてくる。
そこから先は、あまり覚えていない。
まるで本当に夢のようにずっとフワフワしていた。
そうして家に帰って……あれ?私、まだ朽って言えてなくない?
と気づいてからはベッドの上でずっと名前を呼ぶ練習をしたのだった。
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