第12話 入学式 その2
第12話 入学式 その2
「入学生代表 日野美波」
「はい!」
厳かな式の会場に凛とした声が響いた。
声の主は堂々とした歩で壇上に登る。
その姿は華麗なようでどこか鋭い雰囲気を纏っていた。
ピンと伸びた背筋と真っすぐと前を見る姿勢は、大衆から見つめられる壇上に上がっても少しも微動だにしない。
その強い眼差しが人前に立つことになんの抵抗もない事を雄弁に物語っていた。
「春の日差しに思わず目を細めてしまう今日……」
朗々と語り始めた代表挨拶はどこでも聞くテンプレートの文面だった。
しかし、その姿勢、声、目線が一流のそれであったために誰にもありきたりなものだとは思えないほどであった。
日野美波
大日ノ本帝国を、皇家を擁立することで統一し、現在も国政の多くを担う国府四家の一角、日野家の嫡子。
大衆を魅了するカリスマと美しい容姿。
そして、その生い立ち。
彼女が並外れた人間であることは誰の目から見ても明らかなものだった。
「最後に……本校には今年度より特定選別優良男子が入学いたします……が、彼は私の夫になる予定ですので決して変なちょっかいをかけないでくださいね」
その爆弾発言にただでさえ静かな会場はさらに静まりかえった。
―旭野朽―
「……やべぇよ」
そんな感想しか出てこない。
入学式に普通に出席していただけなのに、突然公開プロポーズを受けてしまうというハプニングに巻き込まれた。
公開プロポーズというよりも
こいつ私の男だから
発言といった方が正しい。
確かに彼女レベルの美少女であれば正直なところうれしい。
陳腐な表現かもしれないが本当に天使のような美しさだった。
しかし、問題は彼女にどう思われるかではない。
今日は入学式。
そう、母が参観していたのだ。
「日野の女狐が……糞女の子供はやはり糞という事ね……ふふふ」
絶賛ヤンデレ母モードである。
相変わらず目のハイライトを消して微笑んでいるのだ。
「母さん。いいからいいから、これからHRやってそのまま帰るからさ少し待っててよ」
「朽さん気をつけてねぇ~悪い女に襲われないようにねぇ~」
「はいはい。それじゃ行ってくるね」
母をひとまず冷静に戻して、教室へと急ぐ。
道中やはりというかそうだろうなとは思っていたが、見覚えのある顔が廊下で待っていた。
「旭野朽様。初めまして、先ほどは突然の発言失礼いたしました」
深く深くお辞儀する姿勢でこちらに話しかけてきたのは、件の人日野さんだった。
日野美波……こいつもヤンデレ臭がするのはなんでだろう。
評価・感想は今後のモチベーションになりますので
是非よろしくお願いします。




