シークレット・ゲーム 【月夜譚No.139】
それは、一通の手紙から始まった。
授業中に教師の目を盗んでクラスメイトの手で回されてきた、何の変哲もない何気ない手紙だ。丁寧に小さく折り畳まれたそれには、丸みを帯びた字で自分の名前が書かれていた。
彼女はいつものように手紙を開いて内容に目を通し、そして動きを止めた。
そこに送り主の名前は書かれていない。だが、その字体を彼女が見間違えるはずがなかった。
教室の後方にあるその席を反射的に振り返りそうになって、すんでのところで堪える。今振り返ったら、クラスメイトにも教師にも不審がられる。
緊張と恐怖で蟀谷に汗が流れた。しかし彼女はそれを拭うこともできずに、ただ下を向いていた。
早く授業が終わって欲しい。けれど、終わって欲しくもなかった。
彼女の秘密を知っているそのクラスメイトが何をするか、正直判らない。それだけに、彼女の内で恐怖が膨らんでいく。
やがて、学校中に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
天国か地獄か――命運が決まるそのゲームの開始の合図だった。