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ミッシングリンク  作者: さんくす
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ミッシングリンク-6

「ナんだ!高熱源反応だト!」

 瞬間、大地が大きく揺さぶられる。まるで地面の下に大きな怪物がいるかのように、地鳴りはさらに大きくなった。

「アラヤさん!なんですか、これいったい!」

 オレンから悲鳴が届く。

「資料デしか知らなカッたが、おそラク地震ってヤつだ!こっちハかなリヤバい状況ラシいな!」

 アラヤも負けじと怒鳴り返すと、地治拠点「アトラス」の入り口を、光剣でバターのように引き裂く。途端にアラートが鳴り始めるが、異常を知らせるサイレンにかき消され、現場はまさに混乱の渦中にあった。

 正常な警備ロボットと、暴走した警備ロボットが、いっせいにアラヤめがけて突撃してくる。アラヤは派手に爆発させないように注意しながら、肉弾戦でそれらを制圧した。

「チッ。面倒こノ上ナい」

 アラヤはひとまずの進入用拠点を確保し、オレンへ通信を飛ばす。

「オレン、そっちモ大変だト思うガ、こちらのサポートも頼む」

「ひぃぃ!新米にやらせる仕事じゃないですよ!」

 オレンは泣き言を言いながらも、アラヤの端末にエリアの簡易マップを送信した。

「アラヤさんが現場に到達してから、明らかに強大な反応が一つ、エリア内で確認されています。おそらくは敵性個体“イヴ”と同系列のロボットかと。……ほんとにいましたね」

 オレンは感心とも哀愁ともつかない声で状況報告を締めくくる。アラヤは自分のパワードスーツの調子を確かめると、両手を握ったり開いたりして血流を促した。

「了解。こレよりアトラス内部に進入。ミッションを開始スる。……そっチも気を付ケロよ」

「了解です……!」

 オレンの声と共に、アラヤはアトラス内部へと一気に突入する。ひときわ強力な反応は、アトラス内部に入った瞬間から、アラヤ自身も補足していた。

(トいうことハ、俺も向こうニバレているはズだ)

 暴走した警備ロボットたちが、アラヤを補足するとノータイムで発砲してくる。本来ならば一時的な麻痺効果を持つだけの無害なレーザー銃だが、今は銃身が熱で発光し、本体から過負荷で煙が発生するほど、異常に強力なものになっていた。

「アトラス」内部には、正常なロボットはほぼ残されていないようで、異様な電子音をけたたましく鳴らしながらアラヤに敵意を向けてくる。次々と襲いかかる敵を軽々といなしていたアラヤだったが、徐々に処理が追い付かなくなり始めていた。

(極地適応型ばかリだ。装甲が厚イ!)

 敵のレーザー銃を奪って攻撃しても、大したダメージを与えられず、結局接近して叩く必要がある。アラヤは歯噛みした。

「フィンガーバルカンじゃ威力が高すギル……。面倒ナ!」

 アラヤは目の前に迫った大型の警備ロボットに蹴りを入れ、体勢を崩させる。胸部装甲を無理やり剥がし、内部のコアを直接破壊して、ようやく一機の活動を停止させた。だが、その間にもエネルギー弾が容赦なくアラヤを叩く。

「グぅ……!」

 装甲から聞こえたわずかな異音に戦慄しつつ、アラヤは柱をカバーポイントとして射線を切った。

「前に進メナい!」

 時間と共にどんどん厚くなる弾幕に、アラヤはなすすべがない。

(もうやっテシまうか――!)

 焦りから言い訳ばかりを考えるアラヤの耳に、突然異様な地響きが飛び込んできた。アラヤは視界の端にハザードアラートを認め、頭から一気に血の気が引くのを感じる。地下から、異常なまでの熱源が、激流のようにこの場に迫ってきている。

 アラヤは、分厚いロボットたちの壁を見やり、一気に廊下内に視線を巡らせて、ダクトに繋がる鉄格子を見つけた。その瞬間、ドパッと水が壁にぶつかるような音と共に、赤い光と熱が一気に迫ってくる。もはや一刻の猶予もなかった。

 アラヤはとっさにグラップリングアンカーを射出し、無理やり天井に張り付く。そして、光剣でダクトの鉄格子を切断した。そのままダクトに上半身を突っ込むと、サイコマグネメタルの変形機構を使う。

 キャタピラのようなものを発生させたアラヤは、ダクトをスライムのように滑らかに駆け上っていった。

「あ、危なカッた……」

 アラヤは息も絶え絶えに通気口から身体をひねり出す。幸い、強力な反応には近づけていることから、アラヤは胸をなでおろした。

(もう完全にシステムの掌握を済まセテいるノか。事件発生から一時間も経っテイないはズだが、侮っタか)

 通信状況も悪く、先ほどからホワイトノイズが聞こえてくるばかりで、アラヤは外との連絡を断念する。

「マグマが万が一漏れ出しテも防衛装置が働く……ハズ」

 そこまで口に出してから、アラヤは廊下へ飛び出した。

「システムが掌握サレてるんだバカ!」

 もはや一刻の猶予もないと判断し、迫りくるロボットたちを光剣でまとめて薙ぎ払う。壁が直線に引き裂かれた後、焼け爛れて塗料が雫を作ったが、気にする余裕すらなかった。

 地治拠点のシステムが掌握されている現状、すでに階下で見たマグマが外に漏れ出てしまっている可能性が非常に高い。加えて悪いことに、それを堰き止めるための最初の門であるこの場が正常な動作を行える状況にないのだ。

 わずかな遅れによって最大の被害を生みかねない状況は、ともすれば先に制圧したエネルギー供給施設よりも逼迫していると言えた。

「そこカッ!」

 地治拠点「アトラス」中心、アースコアが存在する心臓部。アラヤは一も二もなく扉をけ破った。

「ウッ!」

 同時に凄まじい熱波がアラヤを襲う。サイコマグネメタルの防御機能が働き、活動できないレベルの暑さではないほどに緩和されたものの、バイザーにレッドシグナルが表示される。鉄格子の足場の下では、マグマが得物を待ち構える獣のようにうごめいていた。

「コンソールが生キテさえいれバ、マダ……」

 アラヤが顔をマスクで覆って歩を進めようとした瞬間、わずかな振動を検知する。アラヤがすぐさまその場から離れると、マグマの柱がそこへ突き立った。

「おやおや、避けられてしまいましたか」

「予想はシテいたが!」

 アラヤが憎々しげに叫ぶ。マグマの柱が引くと、そこには半分がヒト、半分が蛇のようなパーツで構成されたロボットがとぐろを巻いていた。

「お初にお目にかかります。わたくしは、ガルデューラと申しま――」

 ガルデューラと名乗ったロボットが突然頭を下げる。直後、すさまじい勢いで振り抜かれた光剣の軌跡が、赤い尾を引いた。

「おや、名乗りを上げているときに不意打ちとは感心しませんね」

「お互い様ダ」

 アラヤは短く言うと再び光剣を構える。ガルデューラは不敵に笑った。

「そこはほら、ご愛嬌というものです!」

 突如視界の外から出現した尾の先を、アラヤはすんでのところで受け止める。

「グッ!」

 足元が浮かびかけ、アラヤは背中に暑さとは違う汗をかいたのを感じとった。

(イヴとはパワーが段違イダ……!)

 足がずり落ちかける寸前のところで、アラヤはガルデューラの尾を飛び越える形でやり過ごす。振り抜かれた尾が再び狙いを定める前に、アラヤは相手の懐へと飛び込んだ。

「いいスピードをしていますね!」

「もラった!」

 アラヤは光剣をガルデューラに振り下ろし――瞠目する。ガルデューラは、人間部の手、その長く伸びた爪のパーツでもって、アラヤの攻撃を防いでいたのだ。

「バカな!」

 アラヤは慌てて飛び退ろうとする。だが、ガルデューラの反応の方が遙かに速かった。アラヤに巻き付いてきた尾が、そのまま万力のように締め上げはじめる。

「ぐ……!コの……!」

 アラヤは必死にもがくが、ガルデューラの尾はびくともせず、アラヤは圧迫でわずかにだが呼吸が苦しくなり始めているのを感じた。

「んー、思ったよりも硬いですね」

 ガルデューラが突然、アラヤを振り上げるとマグマへと投げ捨てようとする。

「グぉ!」

 それを察知したアラヤは、すんでのところでガルデューラの尾を掴み返し、それを足掛かりにガルデューラの人間部分を渾身の力で蹴り飛ばした。

「ぬう!おのれ!」

 何度も命の危機に瀕したことで、アラヤの呼吸は乱れている。酸素が上手く脳に回らず、アラヤは軽い視野狭窄すら起こしていた。

(こイツは……危険だ。破壊スる……!)

 一歩の踏み込みで懐に飛び込み、身体を打ち据えてくる尾はもはやアラヤを足止めすることすらできない。さながら濁流のごとき勢いでガルデューラに肉薄すると、アラヤは光剣を一切の遠慮も配慮もなく振り回した。

「こ、この!芸のない真似を!うぐぁ!」

 その甲斐あってか、ガルデューラの右腕が胴体を離れ、宙を舞う。アラヤは光剣を振り抜き、空いた手で振りかぶってきていたガルデューラの左腕を掴んだ。

「捕まエた……!」

「この、ガキがぁ!」

 ついに余裕をなくしたガルデューラが、すさまじい膂力でアラヤを弾き飛ばす。

「大人しく狩られてりゃあこんな無様を曝さずに済んだってのによぉ!もう許さねえぞ!」

 ガルデューラがそう叫ぶと、左腕が奇妙に蠢いた。金属音がひしめき合い、徐々にその長さが異様なまでに伸びていく。爪が足場をこする程の長さになって、ガルデューラは感触を確かめる様にその指を動かした。

「ナナキ様には生け捕りするようにご命令をいただいたが、お前は命を繋ぐギリギリまで痛めつけてやる!途中で死んじまったら知らねえけどなあ!」

 突然振るわれた爪を、すんでのところで回避する。アラヤの肩を掠め、甲高い金属が擦れ合う音が響いた。

(ワカってはイたが、リーチが段違いダ!)

 アラヤはフィンガーバルカンを構える。もはや周囲の安全すら、頭から抜け落ちていた。

 狙いを定めずに放ったことで、指先からエネルギー弾が乱れ飛ぶ。ガルデューラ自体が巨躯であったこともあり、大半がそのボディに叩き込まれたものの、いくらかの弾は後ろの防壁に穴を開けてしまった。そのことに、アラヤの注意がほんの僅か奪われる。

「どこを見てやがる!」

 ガルデューラの爪が、アラヤを強かに打ち据えた。

「ガっ……!」

 あまりの衝撃に、アラヤの意識が一瞬飛びかける。サイコマグネメタルの装甲、防御本能によるカバーが入ってなお、とてつもないダメージに、アラヤの頭は困惑で支配された。

(なンダ?衝撃?違ウ、爪で――痛い。呼吸ガ。胸と、腰ト、肩――グッ!)

 思わず膝をついたアラヤに、ガルデューラは毒気が抜かれたような様子で見下ろす。

「想像以上に軟弱だなあ。まあ生け捕りしやすくて助かるがよ」

「チィ!」

 白くなっていく世界でがむしゃらに振るった剣は、むなしく空を切った。

「はは!そうこなくっちゃ、なあ!」

 ガルデューラは喜色に染まった電子音を奏で、尾でアラヤの全身を地へと叩きつける。

「ゴっは!」

 アラヤはまともな声を出すことすら叶わなかった。背骨が折れんばかりの衝撃を受け、肺から空気が全て絞り出されたような錯覚に陥る。しかし今度はそれだけでは終わらなかった。ガルデューラは高笑いしながら、何度も、何度も、執拗に尾をアラヤに叩きつける。

「無様!実に無様!私の溜飲も下がるというものですよ!」

 余裕を取り戻したらしいガルデューラは、勝ち誇ったように普段の口調に戻っていた。事実、みるみる抵抗力をなくしていくアラヤを見て、ガルデューラは己の勝利を確信していた。怒りから愉悦と至った感情のふり幅は、例え人を模した考えをする機械であっても、その舌を滑らかにするには十分すぎる魔力があった。

「はは!ははははははは!この程度の分際でナナキ様に至ろうなどと考えていたとは!ははは!実に、実に愚かしい!愛らしすぎて愛想が尽きそうです!」

 ゆえに、ガルデューラは、まさに余計な一言を口にする。

「やはり、貴方ではナナキ様のお考えを理解するには至らない!直々に目をかけられていたから何事かと思えば、ただの感傷にすぎなかったわけですねえ!」

 ガルデューラは、とどめと言わんばかりの思い一撃をアラヤ目掛けて振り下ろした。そして、ガルデューラはようやく自らの犯した過ちに気づく。

(俺の被造物である以上、俺を最上とするのはまあいい。だが、アラヤだけは気を付けろ。あいつは――)

 ガルデューラの尾が、しかとアラヤに捕まれていた。先のように振り回そうとしても、今度はまるでびくともしない。巨岩を素手で動かそうとするかの如く無謀に思えてしまう、それほどの圧力。

「お前ゴトきが……ナナキを、語るナ」

 みしり、という音と共に、ガルデューラの尾が握りつぶされた。装甲にひびが入り、ガルデューラの尾の配線があらわになる。

「ぐ……なんだ、急に!離せテメエ!」

 ガルデューラはがむしゃらに暴れながら叫んだ。ガルデューラの認識機関と判断機能では明らかなエラーを吐き続けている。処理を超えた恐怖は、人にほど近い処理機能をもつ知能であったがゆえに、致命的なバグとしてガルデューラを蝕んでいた。

「ナナキの被造物……スペックだケヲ見るなラそうかもしレナい」

 一歩、アラヤが踏み込む。ガルデューラの視界は、損傷個所、今なおダメージを受け続けているパーツ、論理思考回路の破綻、物体認識機関の異常といったエラーメッセージに埋め尽くされ、もはやアラヤを認識することすらままならなくなっていた。

「ダが、ナナキがこれマデに創り上げテキたもノは全て、人の役にタツための物だッタ!」

 ガルデューラの認識機能が、アラヤのバイザーの奥に隠れた表情を分析する。怒り、悲しみ、喜び……涙。

(解析結果。エラー。該当データなし)

 ガルデューラの身体は勝手に動き出す。エラーの原因を排除するために、アラヤの破壊を目論んだのだ。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 もはや言語機能までバグを起こしたガルデューラに、練達した動きなど望むべくもない。それはまるで、死に瀕した者の最後の悪あがきの様だった。

「そシテ今、ナナキの役にすラ立てテいないお前ハ!」

 アラヤはそれを軽々と弾きかえす。そして光剣にありったけの力を込め、振りかぶった。

「失敗作ダ!」

 金属同士が擦れ合うような音と火花が散り、ガルデューラが袈裟切りに溶断される。声すら上げることなく、ガルデューラが倒れ伏すと、アラヤは大きくため息をついた。

 それゆえに、突然襲いかかった衝撃に、アラヤは何の対処を取ることもできない。背から胸部にかけて、焼いた鉄ごてを押し当てられているかのような熱と激痛が走り、呼吸すらままならなくなった。

「ガ……」

 右胸に、何かが突き立っている。――否、背から貫通した物の先端が飛び出していた。

「くふ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 倒れ伏しているガルデューラの残骸から、壊れたおもちゃのような笑い声が響く。

「しししし失敗作、失敗作といわれ失敗作。ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ!」

 片膝をついたアラヤをあざ笑うように、ガルデューラの甲高い電子音が鳴り続けた。

(コレ、は。最初に斬り飛バシた……)

 アラヤは、己を貫いたものが何か、その時になってようやく思い至る。ガルデューラの斬り飛ばされた右腕が、本体の変身に合わせて、左腕のように凶悪化していたのだ。

(油断、シた……)

 朦朧とし始めた意識の中で、施設内のアラートの音がいやに大きく鳴り響いている。今すぐに安全装置の起動を行い、溶岩の流出を止めねば、甚大な被害が出てしまうことは想像に難くなかった。

「ヒ……ヒヒヒ……」

 ノイズ交じりに嗤い続ける残骸を踏み越え、アラヤはコントロールルームへと進入する。

「ハァ……ハァ……」

 脂汗が身体中を伝い、指が震え、痛みで今にも意識が飛びそうだった。アラヤは歯を食いしばると、最低限のシステムを掌握し、溶岩の流出を押し留めるための防壁の展開に成功する。

 すると、それまでけたたましく鳴り続けていたアラームが鳴りやんだ。だが、アラヤ自身もそこが限界だった。コントロールパネルにしなだれかかるようにして崩れ落ちると、それまで我慢していた汗と涙が一気に噴き出す。

「イ、たい……。痛イ……いタい……」

 アラヤはもはや一歩も動くことができなくなってしまっていた。暗くなっていく視界に、アラヤは歯を食いしばる。

「ウウ、アアアアアアアアアア!」

 アラヤは大声をあげ、一気に刺さっていた爪を引き抜いた。一気に噴き出す血をこれ以上失わぬよう、遠くなる意識の彼方でサイコマグネメタルに命じ、アラヤはそのまま後ろへと倒れた。

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