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007 ダンジョン魔法って便利なんだぜ?

「ひひ……これでよし、と」


 ミカと王女と離れ、私は一枚の羊皮紙を広げていた。

 何かあったときの為に用意していた物だが、まさかこうも早く役に立つとは。

 私は文章を書いたそれに、指先を切って採取した自分の血液を少量まぶす。

 インクに被らないよう注意しながら血を染みこませたそれに、魔力を込めた。


「何してるんですか?」

「うわぁああああ!?」


 耳元からかけられた声に思わず絶叫をあげてしまう。

 見ればそこには王女がいた。


「お、王女様!? 全然気付かなかった」

「ふふー♪ わたし気配消すの得意なんですよ! 執事にお説教されてるときもいつの間にか消えていると評判でした」

「わーお、それはそれはお転婆であらせられて……」


 私はそう言いながら、魔力を込めたスクロールを隠す。 

 しかし彼女はめざとくそれを見付けた。


「それなんです?」

「これは……その」


 この人、王族より斥候(スカウト)とか盗賊(シーフ)の方が向いてんじゃねぇかなぁ……。

 私はそう思いながらも、紙をすり替えて地図を出した。


「……これはこのダンジョンの地図だ。本当は斥候(スカウト)の仕事だが、私もマッピングしながら歩いてたんだ」


 これは本当のことだ。

 黒翼のサリヤから押し付けられた雑用の一つで、大まかなダンジョンの形状が記載されている。

 前世でダンジョン研究をしていただけあって、これぐらいなら私は寝ながらでもできる。

 王女は首を傾げて尋ねる。


「それで、どうして一人で地図を見てたんです? みんなで見たらいいのでは?」

「それは……事情があるんだ」

「それはどんな事情ですか?」

「は、はは。王女様は好奇心旺盛だな……」

「はい! よく言われます! 生まれが生まれなので、わからないことをそのままにしておくと自分の立場に直結するんで……」


 し、しつけぇ……!

 王女ともなれば暗殺の危険などもあるだろうから、この対応は正しいんだろうが……。

 ……だが役者としては私の方が一枚上手だってこと、見せてやるぜ。


「……実は私の魔術は特殊でな。ミカから離れたところじゃないと使えないんだ。じゃあ一旦あいつの所に戻るか」


 私はそう言って王女と一緒にミカに合流することにした。

 歩きながら、私が使う禁呪とミカのスキル『ヘヴンズソード』について説明をする。


「……じゃあルルさんのダンジョン魔術は、ミカさんの近くでは使えないってことなんですか?」

「ああそういうことだ」


 休憩がてら保存食の干し肉を噛んでいたミカのもとへと戻り、説明を続ける。


「だがちょっと試した結果、軽い物ならミカの近くでも使えそうだ」


 そう言って私は二人の前に地図を広げた。


「これはこのダンジョンの地図だ。これに少しだけ私の血液を垂らして……」


 やり方はさっきと一緒だ。

 紙に血を染みこませて、私の魔力と相互反応させる。

 こうして紙を肉体の一部と認識させた後で、魔術を発動する。


階層終端計算図(フロアターミネイター)


 呪文を唱えると、私の指先から小さな光の玉が現れる。

 そしてそれはダンジョンの地図上をふよふよ動き回った後、一点へと移動した。


「……よしできた。地図のここ、最奥地。ここにダンジョンコアがある」


 私の言葉にミカが驚いたような表情を見せる。


「探査魔法……か?」

「いや、探査というよりは予測だな」


 私はその魔術の構成を説明する。


「ダンジョン全体の規模、地質、構造なんかから魔力の流れを推定して、ダンジョンコアの在処を導き出す魔術だ。何階層もあって入り組んでたら使えないし、ある程度は地図を作ってからじゃないと発動できないが、こいつの正答率は99%以上だぜ」


 私の言葉に王女が「すごいです!」と手を叩く。

 ミカは呆れたような表情を浮かべた。


「……いったいどれだけのダンジョンを調べたらそんな魔法作れるんだ」

「私はダンジョン研究家だからな」


 ふふん、と鼻高々に胸を張る。

 エロトラップダンジョンの製作には、普通のダンジョンの研究が必須だからな。


「さて、それじゃあ先へ進もうぜ」


 私の言葉に二人はうなずく。

 ……よし、もう一つのスクロールについてごまかせたな!

 計画達成まであともう少しだ……!


 そう思いながら、私は地図を手にダンジョンを案内する。

 私はさらに話を逸らすべく、口を開いた。


「ダンジョンってのは一定のパターンがある。もちろん上位ランクの危険度のダンジョンとなれば複雑さが増して話は別だが、ここみたいな低ランクダンジョンは似たようなものが多い」


 私は初級魔法で洞窟の天井を照らしつつ、言葉を続けた。


「ここはさしずめ『オークの巣穴』ってとこかな。放置したら際限なくオークが溢れ出てくるヤバいダンジョンだ。町の近くにできたら早いとこ攻略しないと、オークが野に出て定住しちまう。今じゃ外で普通に見かけるゴブリンや山に住むオークたちも、元はダンジョンから出てきたのが最初だとされてるしな」


 もちろん諸説あるが、地層を調べた研究者に言わせればその説は濃厚らしい。


「だがダンジョンにはそれに見合うだけの魅力もある。ダンジョンコアを破壊して手に入る魔石に、各種マジックアイテム。このダンジョンはハズレだったが、中にはダンジョンで拾ったマジックアイテムを売り払って億万長者になった冒険者もいるぐらいだ」


 そして忘れちゃいけないのがエロトラップダンジョン――。

 そう続けようとしたところで、王女が口を挟んだ。


「……ダンジョンってなんなんでしょう。突然現れてモンスターやマジックアイテムを生み出す、不思議な迷宮。まるで生き物みたい」


 私はその言葉に肩をすくめる。


「さあな。『地脈に溢れた魔力が行き場を失いダンジョンコアを形成し、それに反応して周囲の環境を変化させたものがダンジョンである』――というのは定説だが、正直怪しいところだ。地下を掘ったところでダンジョンコアがぽこぽこ発掘されるような事もないし、モンスターが生み出される理由も説明できない。正直信用できない、大昔に考えられた俗説だな」


 そもそもダンジョン研究なんてやっているヤツは、正直私以外に見た事がない。

 ……前世で私がもう少し生きていられれば、学問になるぐらいには発展させられていたんだろうが。


「そうそう、モンスターといえば」


 私は洞窟の奥へと視線を向ける。


「ダンジョンコアはダンジョンの魔力の源だ。その魔力に長く晒され続けた魔物は変異し強化され、それを奪われまいと守護するようになる」


 一般的に『ダンジョンボス』と言われる存在のことだ。

 中には存在しないダンジョンもあるので、楽々攻略できることもある。

 しかし、大抵の場合は――。


「ぐ……ぶお゛お゛……」


 洞窟の奥からその声が聞こえてくる。


「――残念だが、この洞窟にもダンジョンコアを守るヤツがいるみたいだぜ」


「ぶお゛お゛おおーーー!!」


 三メートルに届きそうなほど巨体の、銀色に変色したオーク。

 このダンジョンのコアがあるはずの場所には、その巨大なオークが立っていた。


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