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005 本気出しちゃってもいいよな?

「な~、ミカちゃんさ~」

「誰がミカちゃんだ。誰が」

「おっぱい勇者」

「なお悪い。普通に名前で呼んでくれ」

「わかったよ。……じゃあ私の方は『ルルちゃん』で頼む」

「調子に乗るな」


 私とミカはそんな会話をしながらダンジョンの奥へと進んでいた。

 そもそもの依頼はここに迷い込んだらしい女性を探し出して連れ帰る依頼だったはずだ。

 せめて死体の一つでも見付けられないと、依頼をこなしたことにはならない。


「もうそろそろ最奥だなぁ。ここまで来たらダンジョン攻略も一緒にしちゃった方がいいかもしれん」


 私はミカの背中へそう投げかけた。


 ダンジョンはその最奥に、ダンジョンコアとなる魔石が存在する。

 それを破壊するまでダンジョンは変異を続け、モンスターやマジックアイテムを生み出し続ける。

 それを目的としてわざとダンジョンを攻略せず、産業にする町なんかもあるようだが……。


 モンスターも生み出し続けるということは、逆に言えばダンジョンを放置するとモンスターが溢れ出て近隣の村や町を襲うということでもある。

 なので集落の近場に生まれたダンジョンは、討伐隊が組まれ攻略されることがほとんどだ。


 ちなみに今いるここは、つい先日町の近くにできたばかりのDランク帯のダンジョンだ。

 駆け出し冒険者向けのもので、近々討伐隊が組まれるはずだった。


 ミカは私の言葉に少し悩んだ様子を見せると、頷いて見せた。


「ワープゲートがあるタイプのダンジョンだといいが……」


 ダンジョンコアを破壊すると、周辺に外に出る為のワープゲートが発生することがある。

 親切設計の帰り道で、普通に帰るよりも断然早い。


 そうでなくてもダンジョン攻略自体も結構な金になるので、ここまで来たならダンジョンコアを破壊していきたいところだ。

 ダンジョンコアの破片はマジックアイテムを作る為の魔石として利用できる為、高値で取引されるのである。


 それにしても、だ。


「なあミカ、一つ質問があるんだが」

「なんだ」

「お前の能力って自動発動なのか? ずっと私の禁呪の力を吸収し続ける感じ?」

「……いや、意識的に抑える事はできるが」


 歯切れ悪そうに言うミカの言葉に、私は思わず笑みを浮かべた。


「ってことは、その力を抑えてくれれば私は禁呪を使えるってことだな?」


 私の言葉に、ミカは嫌そうな表情でこちらを見る。


「でもお前の禁呪って……あれだろ。気持ち悪いやつ」

「い、いや、そういうのだけじゃないって……ホント。ダンジョン関連の術式全般だからさ。昔お前に使ったようなヤツは、ほんの一部だけだよ」


 たしかにあんなことやこんなことをしたりする魔術もあるのだが、それだけではない。

 ダンジョンの中で使える便利な魔術もたくさん開発したのだ。


 しかし私の説得にも、ミカは首を縦に振らなかった。


「……使わないでいいならそれに越したことはないと思う」

「ちぇー」


 まあミカが一人で薙ぎ倒してくれるならそれでいいか。

 何もしなくていいのは楽だし。


 そう思いながら歩いていると、私たちの前に立ち塞がる影があった。

 ミカが私の前に立つ。


「オークだ。しかも数が多い」

「待ち伏せだな」


 私が周囲を見回すと、六体のオークが洞窟の物影から出てきた。

 合わせて八体、どうやら私たちを取り囲む為に隠れていたらしい。

 私はミカへと尋ねる。


「……で、どうする? 一人で対処できるか?」

「難しいな。お前を囮にしたらその間に片側の集団は殲滅できるとは思うが」

「バカ、私が死んだらお前の能力は十分に発揮できなくなるんだろ?」

「残念ながらその通りだ。普通のダンジョンから漏れる程度の力では、ボクの審判の門(ヘヴンズソード)は発動しない」


 このままだと四方からオークに襲われ、私たちは各個撃破されるってわけだ。


「ならしょうがないよなぁ。ほら、さっさとその能力を引っ込めてくれ。ここは私に任せろ」

「……裏切らないだろうな」

「大丈夫だ、お前は私にとっても利用価値がある。それに――」


 私は自作の禍々しい形状をした杖を抜いた。


「――男を(なぶ)る趣味はない」


 ミカはため息をつくと、その剣を収めた。


「わかった。思う存分やってくれ。……これでいけるはずだ」


 私は杖を回転させて宙に魔方陣を描く。

 身振りも含めた詠唱により、魔力効率を上げる技術だ。


()(つかさど)るは深淵(しんえん)なる混沌(こんとん)()(たわむ)れるは豊穣(ほうじょう)(ことわり)。イドの慟哭(どうこく)、ゲノムの螺旋(らせん)、満ち足り溢れるは逆月(さかづき)の祝杯――!」


 詠唱と共に、私の目の前に液体が生じる。

 その水は円となって、召喚門となった。

 ごぽり、と水面に泡が立つ。


「――(うつ)し身に()ちろ! 醜悪なる魔触の化身(テンタクルザッパー)!」


 呪文の発動と共に、水の門から無数の触手が放たれた。

 ぬるりとした粘液をまとった赤紫の触手は、私たちを取り囲むオークへと向かっていく。


 鎧袖一触(がいしゅういっしょく)


 オークの肉体は飛びはね、肉がちぎれ、骨がひしゃげる。

 オーク八匹が全滅するまでには、わずか六秒で十分だった。


「……うおっ」


 途端、膝の力が抜ける。

 さすがに魔力の消費が激しかったらしい。

 私はとっさに杖を振って、触手の門をなぎ払った。

 瞬間、まるでその触手が幻だったかのように消え失せる。


「大丈夫か」


 膝を着きそうになった私をミカが支えた。


「す、すまん。久々だったんでやり過ぎた」

「……気を付けろ。そして今のは軽々しく使わない方がいい。見た所随分と体に負担がかかるようだしな」

「……わかったよ」


 情けない話だが、ミカの言う事は理に適っている。

 ……しゃーない。

 まだこの体は私の魔力に馴染んでないのだろう。

 面倒くさいが、慣れていくしかない。


 私は体勢を立て直すと、杖の先を地面に着いた。


「さて今の呪文、実は少しばかり感覚のフィードバックがあるんだが」


 私は洞窟の岩陰、ちょうどここからは見えない位置へと近付く。


「――ここで何してんだ? お嬢さん」


「……ひえっ!」


 私が見下ろす先にいたのは、年の頃十六、七ほどの可愛らしいポニーテールの女の子だった。


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