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021 相棒

「今度は王宮にまで入れてくれたな」

「ええ。今回皆さんは表向きも功労者ですし、私も以前のダンジョン攻略の評価によって一応王女扱いされるぐらいにはなりましたので」


 私たちは王女の私室へと招かれていた。

 王宮の中だけあって装飾なども凝ったものにはなっているのだが、家具は質素で彼女の私物は少ないと見える。

 それは王宮内での彼女の立場が表されているようだった。


 動きやすい冒険者のような恰好から正装であるドレスに着替えた王女は、椅子に座って口を開く。


「今回はご苦労でした。報酬は事前の契約よりも多くなります」


 王女はいつもと違う硬い口調でそう言った。

 本来は十人分の報酬なので、三人で割るとなれば二倍以上だ。


「……そして、ここからは個人的なご相談なんですけどぉ」


 王女の喋り方が持ったのは数十秒だけだった。

 彼女は言葉を続ける。


「正式に私に仕えません? 王宮内も自由に出入りできるようになりますよ」


 王女の言葉に、私とミカは目を合わせる。

 先にミカが口を開いた。


「いえ、お断りします。現在我々はまだDランク冒険者の身。こちらのレニスならまだしも、ボクとルルでは逆に王女様が他の者に(あなど)られることになるかと」


 ミカの言葉にレニスも言葉を付け加える。


「いやいや! うちも結構ですっ! 恐れ多いっていうか!」


 二人の返事に残念そうな顔をする王女。

 それに私は笑って見せた。


「ま、すぐAランク冒険者ぐらいにまで名を上げてやるよ。そしたら大手を振って『王女専属のダンジョンマスター』とかなんとか名乗ってやるから、安心しな」

「……ふふ。頼もしいですね」


 王女は私の言葉に笑ったあと、再びさきほどの真面目な表情へと切り替わった。


「……それで、あなたたちお二人は何者なんですか? Dランク冒険者の実力ではありませんよね」


 もう一度ミカとアイコンタクトをしつつ、今度は私から名乗った。


「正直言って私もなんでこうなってるのかはわからん、というのは事前に言っておくぞ?」


 私はそう断りながら、自身の名を名乗る。


「私の記憶にある前世の名前は、ルルイエ。ルルイエ・ディーパ。ダンジョンの研究家だ。大賢者なんて呼ぶヤツもいたけどな」


 私の言葉にレニスが反応した。


「ルルイエ・ディーパって……あの『ダンジョンの賢者』とも言われた、『魔王ルルイエ』!?」

「どの魔王かは知らんが、たぶんそうだ」

「帝国の崩壊を招いた原因っていう……!」

「おいちょっと待て。自信なくなってきたぞ。それ本当に私か?」


 私、そんなことした覚えないぞ?

 困惑する私に、隣にいたミカがため息をついた。


「……あってるよ。そいつは間違いなくそのルルイエだ」

「マジ?」


 尋ねる私に、ミカが答える。


「当時、『閃光の勇者』と呼ばれた女将軍がいた。彼女は度重なる戦いの末、魔王ルルイエの討伐に成功する。しかし魔王に残された傷痕は深く、帝国一の騎士はすぐに命を失った――」

「おいおいちょっと待って!? 私そんな呪いみたいなもの残して……いや、そりゃちょっとは残したけど」


 淫紋とか……感度開発とか……。

 しかしミカはその口元に笑みを浮かべる。


「安心しろ。べつにお前が原因だったわけじゃない。実は当時の貴族たちにとって邪魔だった女将軍は、彼らの謀略(ぼうりゃく)によって殺されていただけだ。その事実を隠蔽(いんぺい)するために、彼女と因縁のあったはた迷惑なダンジョン研究家ルルイエを魔王ルルイエと呼ぶことにして、女騎士はその毒牙にかかって死んだとされた。『勇者が死んだのは魔王と戦ったせいだったんだ!』という理由を後付けして、真実を隠したかったんだな」


 ミカの説明を聞いて、王女がその視線を移した。


「ではあなたがその女将軍――王家の伝説に残る閃光の勇者、ミカエル・クレスト……?」

「……はい。その通りです。ボクもルルイエと同じく、気が付けばこの時代のサフラン家の長男に生まれ変わっていた」


 説明し終えて、王女が息を吐く。


「……たしかに突拍子もない話ではありますが、お二人の実力を考えれば信じざるを得ませんね」


 王女は苦笑する。

 それにレニスがうなだれた。


「やっぱうち、なんでここにいんのかわかんない……。うちはただの一般人なのに……」


 私は彼女の肩を叩いて励ます。


「ははは、大丈夫だ。お前には回復術士(ヒーラー)として、これからも何かあったら活躍してもらうつもりだから」

「いや……だからうちを巻き込まないで……」



 王女はそんな私たちの様子を見ながら微笑んだ。


「きっとあなた方のような(いにしえ)の英雄たちに出会えたのは運命なんでしょうね。……であればわたしも、やはり決断するべきかもしれません」


 そう言って彼女は立ち上がった。


「ルルイエ・ディーパ……いえ、ルル様。あなたの『お願い』、聞き入れましょう。私はこれより王座を目指します」


 王女はまっすぐにこちらを見つめてくる。


「ですからご協力ください。……代わりに、以前の契約はそのままにしておきます。それがわたしがあなた方に見せられる誠意です。なので、その……」


 王女は少しだけ頬を赤らめる。


「あまり無茶なお願いは、しないでくださいね? ……できるだけ頑張りますけども」


 王女の言葉に私は口の端を吊り上げて笑った。


「……ああ、最高の夢を見せてやんよ。覚悟しとけ」


 そうして私たちは取引をする。

 私たちが彼女に提供するのは王座。

 代わりにもらい受けるのは、その権力によってもたらされる利益だ。


 そうして私のエロトラップダンジョン製作の野望は、一歩前へと進むのだった。



 * * *



「あ、あのっ……ご主人様……」


 王女の部屋を出て廊下を歩いていると、後ろからリッカが声をかけてきた。


「おう、そっちは順調か?」

「は、はい……大丈夫……ですけど」


 リッカには二重スパイをしてもらうことにした。

 どうやらダンジョンでその正体がバレたことには気付かれなかったらしく、引き続き第三王子の部下からは王女の従者を続けるよう言われているらしい。


 そんな彼女が吐息を漏らしつつ、声をひそめる。


「あの……これを外してくれるという……約束は……」

「あ? 後ろの方は外したじゃねーか」

「で、ですが……前は……その……」

「ん? 前の方を外して欲しかったのか? 後ろを残したいならそれはそれでも……」

「ち、ちが……! うぅ……なんでもないです……」


 まあいくらこっち側に寝返らせたとはいえ、飼い犬に首輪は必要だ。

 私はリッカに別れを告げて、王宮を出る。

 外の光を浴びたところで、ミカに声をかけられた。


「……下衆(げす)

「あんだよ。アイツの処遇については前に話合って決着着いてたことだろ?」

「品性が最悪だ、と言ったんだ」

「ふーんだ。お前がちょっと潔癖過ぎるんだよ」


 私たちの言い合いに、レニスが口を挟む。


「……結局、あの子に何してたの?」

「今度教えてやるよ。……それとも体に直接教えてやろうか?」

「う、うーん……。興味はあるけど、戻れなくなりそー……」


 レニスは少しだけ怯えた表情を浮かべながら、足を止めた。


「……じゃ、うちはこれで」

「あ? 逃げんのか?」

「違うって。本当は逃げたいんだけど、何されるかわかったもんじゃないし……」


 レニスは苦笑しつつ、言葉を続ける。


「……三人のお墓、作っときたいんだ。なんだかんだ、一番長い間パーティ組めたのあいつらだったから」


 レニスはそう言って彼らの遺品が入った革袋を掲げた。

 私は頷いて、彼女から目を逸らした。


「ああ、そっか。……ごめんな。私たちがもっと強けりゃ、守れたんだが」

「え? いやいや、そんなことないよ。……冒険者だからさ。自分の身を守れなかったのは、自分の責任だよ」


 レニスは手を振って私の言葉を否定する。


「あいつらだって、二人を恨むようなことなんてしないから。絶対ね」


 レニスはニッと笑った。


「……ま、なんかあったら呼んでよ。二人の初夜のときとか、魔法かけてハッスルさせてあげたいし?」

「うるせー。私たちがそんな関係になることは、天地がひっくり返ったって絶対に()ーから諦めろ」

「なーんだつまんない。……じゃーねー♪」


 レニスはそう言って、手を振りながら去って行った。

 彼女の背中が見えなくなるまで手を振っていると、隣でミカがつぶやいた。


「……まったく。お前は純粋なんだか邪悪なんだかわからないな」

「あー? なんだよそれ。褒めてんのか? (けな)してんのか? 皮肉ならもうちょっとわかりやすく言え」

「……さあな。自分で考えろ」


 そう言ってミカは歩き出す。


「は? おい、どういうことだよー」


 私はその後に続く。


「王女もその気になったし、結果オーライじゃん。何が不満なんだよ」

「……そうだな。べつに文句はないよ」

「ふふん。だろ? ならもっと褒めてくれてもいいんだぞ」

「誰が褒めるか」

「なんでだよ」

「……褒めて欲しいのか?」

「はー!? そんなこと言ってないし!」

「じゃあいいだろ」

「いや……だってさ、その……」


 私はなんだか恥ずかしくなって、言い淀んでしまう。


「……私は体力ないだろ? どうしても迷惑かけっぱなしというか……だから少しでも交渉とかで活躍して、お前とは対等な立場になっておきたいな、と……」


 私の言葉にミカは笑う。


「最初から対等だよ。……仲間なんだろ?」


 ミカの発言に、一瞬言葉が詰まる。


 ……利害関係じゃねーのかよ。

 私は内心そう思いながら、歩幅を大きくしてミカの前に出た。


「……ならさっさと宿に行くぞ! 今日は美味いもんいっぱい食うからな!」

「はいはい。道端で騒ぐな。子供みたいだぞ」

「私が子供なんじゃなくてお前が老人なんだよ! もっと若者らしくしろ!」

「年相応だと思うけどね」


 私たちは二人で歩いていく。

 宿に続く道は、夕陽に赤く照らされていた。


 その先に何が待ち受けているかはわからない。

 だけどきっとそこには、今よりちょっとはマシな未来が待っているのは間違いないだろう。


 ……なにせ、この私が行く道なんだからな!

 私のエロトラップダンジョンを作る為の冒険はここからだ!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

本作は一旦ここで完結となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一旦の完結、お疲れ様でした。唯一一般人のレニスさん大変だなぁ。
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