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002 一度失った信頼は戻らない

 剣士ミカは私の前に立ちながら言葉を続ける。


「ダンジョンの奥地で仲間を裏切り殺そうとするなんて、キミたちはそれでも冒険者なのか!」


 彼の言葉におっぱい二人は怯んだように眉をひそめた。

 黒翼のサリヤが反論するように口を開く。


「だ、だけどミカ……。殺すつもりなんてなかったの。これは少し脅してやるだけのつもりで……急所を狙ったりしてないの、わかるでしょ?」

「どちらにせよ、こんな奥地で一人取り残すのであれば直接殺すのと変わらないじゃないか」


 キッパリと言い切るミカの言い分に、サリヤは口を閉ざす。

 代わりに聖女アプリカが口を開いた。


「……ですがミカ様。彼女からは邪悪な力を感じるのです。この世の(ことわり)を外れた、おぞましき悪の力が!」


 ……やべー。

 間違いなく禁呪の力のことだ。

 特に聖なる力を持った奴らには、私が前世で会得したダンジョン魔法は技能を持っているだけでもめちゃくちゃ気持ち悪く感じるらしい。

 ど、どうしよう……。


 私がだらだら冷や汗を流しながら動揺していると、代わりにミカが首を横に振った。


「だとしても、正々堂々と街に帰ってから追求するべき話でしかない。こんな騙し討ちで殺す形など、まっとうな人間のやることじゃないだろう!」


 ミカの言葉に、アプリカは言い返せずに目を伏せた。

 彼は二人の顔を睨み付けながら、言葉を続ける。


「……彼女が気に入らないというキミたちの感情を責めはしないよ。でも彼女がボクたちとパーティを共にしたこの二週間、一度でも礼を欠いたことがあったか? ボクには彼女なりにできることを精一杯やっていたように見えたが?」

「それ……は……」


 ミカの言葉にサリヤもまた視線を逸らした。

 ミカは大きなため息をつく。


「彼女が未熟なのは理解している。でもだからといって、(しいた)げたところで冒険者として成長するわけでもない。……キミたちならそんなことぐらい、すぐに理解してやめてくれると思っていたんだけどな」


 彼は残念そうにそう吐き捨てる。


 ……いや待て。

 私がいじめられてたとわかってたんなら、止めろよ。

 まあ私自身、あんな嫌がらせぐらいで気が滅入ったりするほどヤワではないんだけども。


 それにしてもなんでこいつ、ここにきて突然こんなに庇ってくれるんだ?

 普段のこいつのゴミを見るような目、私の勘違いではないと思うんだが……。


 そんなことを考えていると、黒翼のサリヤが媚びるように声をあげた。


「……わ、わかったよ。あたしらが悪かったって。ちょっとした出来心で」


 彼女の言葉にミカは目を細める。

 そして忌々しげに言葉を発した。


「まだ嘘を重ねるのか」


 彼はそう言ってサリヤに射貫くような視線を送った。


「キミが彼女にギルドで保険をかけていたのを知っている。不自然でない程度に死亡時の受け取り金額を多くしていたね。計画的な犯行で、出来心で行ったとは到底思えない」

「え……!? それは……その」


 サリヤは視線を泳がせつつ、顔を青ざめさせていた。


 ……え? マジ?

 私、保険金掛けて殺されるところだったの?

 ていうか最近のギルド、そんな保険制度まで整備されてるんだ!?

 し、知らんかった……。


 ミカは剣を抜くと、二人に向かってその切っ先を突きつけた。


「……単刀直入に言おう。キミたち二人は、彼女よりも信用できない」


 ミカの冷たい眼差しに、アプリカはへたり込むようにその場に座り込んだ。

 その目はまるで私をいつも睨み付けてくるような目だ。

 私は慌てて彼に声をかける。


「ま、待てって。な? ほら私だって怪我したわけじゃないんだし」


 はっきし言って私はこのパーティのお荷物だ。

 たしかにこれから先、こいつらと一緒にパーティを組むことは願い下げだが、ここでパーティ解散するのは悪手だろう。

 サリヤのスカウト技能と、アプリカの回復魔法は私より戦力になる。

 せめてこのダンジョンに来た依頼を達成するまでは――。


 そう思っていると、彼は「チッ」と小さく舌打ちをした。

 え?


「……わかった。そこまで言うならこの場は剣を引こう」


 そう言ってその剣を鞘へとしまう。

 ……こいつ今舌打ちしたよな?

 なんだこいつ、怖い……。バーサーカーかよ……。


 私が困惑していると、彼はいきなり私の体を掴んでその肩へと担いだ。


「おわっ!?」

「……キミたちとはここでお別れだ」


 まるで荷物のように私の体を担いで、ミカはパーティメンバー二人へとそう告げた。

 か、勝手に決めるな!

 私の意志はどこに……って私が乗ってるとこ、さっきボウガンに撃たれたとこじゃん!

 血が気持ち悪い……って……あれ?


「傷が治ってる……?」


 見れば彼の肩からは既にボウガンの矢が抜け落ちており、多少の血は残るものの綺麗に傷痕は消えていた。

 回復呪文を受けたわけでもないのにこの傷の治りの速さは、異常だ。


「気持ち悪……」


 思わずそうつぶやくが、彼は私の顔を一瞬だけ見たあと、無視してそのまま歩き出した。


「お、お待ちくださいミカ様!」


 アプリカが後ろから声をかける。


「ミカ様がいなくては、私たちではモンスター溢れるダンジョンを抜けることもできません! 生きながら食われてしまいます! ここはどうか慈悲を――!」


 すがるように言った彼女を一瞥して、ミカは冷たい視線を向ける。


「それがキミたちがしようとしていたことなのだから、存分に味わえばいい」


 そう言うと彼は再び歩き出す。


 ……こ、こいつこえ~。


 正直さっき助けられたときは一瞬ドキッとしてしまったが……よく考えたらただの命の危険だったな。

 たしか吊り橋の上だと恐怖と恋愛感情を勘違いしやすいとかいう話だ。

 そして私が今もまだ少しだけ緊張しているのは、これからどうなるのかという不安によるものだろうな……。


 私が胸を押さえていると、アプリカがすがるように声をあげる。


「ミカ様、お考え直しを……!」


 なおも続くミカを引き留める声に、彼は振り返りもせず一言告げるのだった。


「ーーもう、遅い」

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