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019 大乱交テンタクルシスターズ

「ああ……! マルトまでやられるなんて……! そんな……!」


 レニスが頭を抱える。

 ……まずいな、一気に仲間を三人も失って戦意を喪失してる。

 そんな彼女を見て、アプリカが笑った。


「あら? ……まずはあなたから遊びたいんですか?」


 そう言って、彼女が操る触手の一本が鎌首をもたげる。

 その矛先は地面に膝を着くレニス――!


「いただきまぁす……」

「ひっ……!?」


 アプリカの声と共に、勢いよくその触手が迫る。

 触手の先端がレニスの心臓へと近付き――。


「――個人的に、浮気は感心しないな」


 その攻撃をミカが受け止めていた。

 ミカの右腕に、深々と触手が突き刺さる。


「……ああ、ミカ様。ようやく私を見てくれるのですね」

審判の門(ヘヴンズソード)


 彼の左手に握られた剣は、軽々と彼女の触手を切り落とした。

 すぐに光の力により、ミカの右腕が再生していく。


「残念だが、ボクとキミは相容れないようだ」

「そんなことはありません……。きっとすぐに良くなります。私の中へと導いてさしあげましょう」


 アプリカの後ろに、四本の触手が現れる。

 ……まあ多少相手の手数が多くとも、ミカなら防ぎきれるはずだ。


「ミカ! 少しだけ魔法を使うぜ!」


 私はそう宣言し、詠唱を開始する。

 だがアプリカはその言葉に反応してこちらに視線を向けた。


「……『ミカ』?」


 その額に青筋が浮かび上がった。

 げぇっ。

 私は詠唱を続けるが、アプリカの触手のうちの一本がこちらへと向く。


「――呼び捨てですって? 私のミカ様になんてなれなれしい!」


 詠唱中の私の元にその触手が向かってきて――。

 私に届く直前、それは切り落とされた。


「……あ、のぅっ……!」


 荒げる息に、潤んだ瞳。


「ご主人様っ、これ外してもらえませんか……! 戦いの最中ぐらいっ……!」


 そこには腰を震わせながら剣を構えるリッカの姿があった。

 私は剣で触手を弾いたリッカに笑みを向ける。


「よくやった! だがダメだ!」

「そんなぁ……!」

「終わったら考えてやるよ! だから私のために存分に働け!」


 そして杖を掲げて、ようやく唱え終わった呪文を発動した。


「――醜悪なる魔触の化身(テンタクルザッパー)!」


 空中に水で出来た魔法陣から、異界の触手が這い出てくる。

 それは勢いよく飛び出して、アプリカの方へと向かった。

 同時に膝から力が抜ける感覚。


「リッカ! ついでに私のことを支えとけ!」

「ひゃ、ひゃいっ」


 彼女に肩を貸してもらい、私は倒れそうになる体を踏みとどまらせる。

 その間に私の放った触手はアプリカのもとへと到着して、その身へと襲いかかった。


「へえ、あなたも触手とは――面白いですわね!」


 アプリカが吠えると、彼女の触手が私の触手を迎撃する。

 絡み、交わり、引きちぎり、再生し。

 触手対触手の激しい戦いが始まった。


 私の触手がアプリカに負けるはずはない。

 ……ないのだが。


「ぐっ……!」


 魔力の消費が大きい。

 どんどん力が抜けていくのがわかった。

 そのうちリッカに支えられても立てなくなりそうなぐらいだった。


 ……早いところ決着を付ける必要があるな。


「――マリン!」


 王女に声をかける。


「命令だ。『レニスを使い物になるようにしろ』」

「……はい!」


 その言葉が言い終わるが早いか、王女はレニスのもとへと駆け寄った。


 ……さて、あっちは任せといてと。

 もう少し持ってくれよ、私の魔力……!


 私は自分の体に声をかけつつ、新たに呪文を詠唱した。



 * * *



「ああ、こんなの嘘……! 嘘だよ……! みんな死んで、あんな化物にやられて……! きっとうちもここで……」


 うずくまって泣き出したレニスの前では、それを守るようにミカが戦っていた。

 アプリカの触手が時折レニスの方へ向かってくるだけでなく、稀に触手の打ち合いに流された私の触手もやってくる。

 ミカはそれを打ち返すのに手一杯で、攻めあぐねいているようだった。


 そんな恐慌状態に陥っているレニスの背中を優しく叩く者がいた。


「――大丈夫、前を向いてください」


 レニスが顔を上げる。

 そこにいたのは第六王女マリンだった。


「王女……様」


 レニスの言葉に、マリンは穏やかな笑みを浮かべる。


「あれは異界の化物です。あなたの仲間はその犠牲になってしまった。ですが、逆に言えば彼らがあなたの身を守ったのです。もし彼らがいなければ、死んでいたのはあなただったのかもしれない」

「うっ……」


 仲間の死体を思い出したのだろう、レニスはその胸を押さえる。

 マリンはその手に重ねるように手を置いた。


「辛いでしょう。怖いでしょう。ですが今はうつむいている時ではありません。彼らの仇を、そして異界からの侵略者を打ち倒すにはあなたの力が必要です」

「そんな……うちは……」

「今は戦力が拮抗しています。ですが時間が経てばこちらの体力が持ちません。今戦況を変えられるのは、あなただけなのです」

「うち……だけ」


 マリンの言葉に、レニスは前を向いた。

 その背中をマリンが叩く。


「さあ立って。大丈夫、あなたのことは絶対に守り切ります。この王家の血に誓って、必ず」

「……王女様」


 マリンに支えられて、レニスが立ち上がる。

 そうして立ったあと、彼女は自身の頬を両手で思い切り叩いた。


「……っだぁー! あんな触手女(スキュラ)もどき、なんぼのもんじゃー!」


 そしてまっすぐにアプリカを見つめる。


「うちだって、何度も死線をくぐり抜けてきたBランクの冒険者なんだ! ……マルト、レオ、バンガン! みんなの力を貸して……ほんの少しだけ、うちに勇気をちょうだい!」


 気合いを入れたレニスは腰から短いステッキを抜く。


「みんなの仇は――うちが取る!」


 彼女は後ろを向き、マリンへと尋ねた。


「それで王女様、うちは何をしたらいいの!? ヒール!?」


 レニスの問いかけに、マリンは首を傾げる。


「え? さぁ……?」

「え?」

「わたし、言われただけですし」




「――いや、それでいい。完璧な仕事だ。さすが王女だ……いや、逆かな。王女の才能があるぜ、マリン」


 リッカに支えられた私はそう告げる。

 これで駒は揃った。

 あとは王手(チェック)をかけるだけだ。


 そんな私たちのやりとりを見ていたアプリカが声をあげる。


「一人二人動ける人間が増えたところで――」


 その背後に、また二つの触手が生えた。


「――何も変わりません! 活きの良い悲鳴が増えたと思えば、悪くありませんけどねっ!」


 合わせて六つの触手がそれぞれ別々の方向から襲いかかってくる。

 それによって私の出した触手たちが弾かれた。


「ぐっ……限界か」


 これ以上は無理と判断して、大半の触手たちの召喚を解除する。

 触手たちは幻であったかのように、すぅっと透き通るとゆっくり消えていった。


「これで終わりです!」


 アプリカが触手の矛先をこちらへと向ける。

 それは勢いよく私の方へと伸びてきて――。


 そして、止まった。


「……なっ……!? これは……!?」


 アプリカが声をあげる。


「そんな……なぜ……? 私には無限に近いダンジョンコアの力があるはず……なのに……どうして……」


 その表情に困惑の色が広がっていく。


「どうして体が重いのっ!?」


 私はそれに笑った。


「……自分の体のこともわかってねーのか? そりゃあお前、ダンジョンへの愛が足りないな」


 私は中指を突き立てながら、アプリカを笑う。

 アプリカが自身の触手へと視線を向けた。


 瞬間、アプリカの触手が先端から白く濁った液体を吐き出した。


「こ、これは……!? この液体はいったい!?」


 驚きの声をあげるアプリカの前で、私は最後に追加で召喚した一本の触手を懐から出した。


「これは私がこっそり仕込んでいた触手だ。こいつは他の触手とはちょいと種類が違ってな。細い注入針を持ってるんだよ。触手同士で豪快に絡み合ってたせいで気付かなかったろ?」


 その触手の先端にはさらに細い触手が伸び、そこから液体が漏れ出る。

 アプリカはその場に膝をついた。


「注入針……!? まさか……毒!?」

「おいおい、人聞きの悪いこというなよ。こりゃあただの薬だ。……初産の母親なんかに注射して、胸を大きくしたり乳を出やすくさせる薬さ」

「母乳……薬……!?」


 私はそれに頷く。


「そうだ。その液、舐めてみたらいいぜ。ママのおっぱいの味がするからよ。……まあ構成成分はほとんど血液なんだけどな。白いだけの血みたいなもんだ」


 この薬は過剰投与時の副作用が危険すぎて、作ったはいいが安易に使わないようにしていた。

 それを今回仕込んだわけだ。


「さて、この薬を一度に大量に投与したらどうなるかっていうと――」


 アプリカの触手が大量の白い液体を噴き出しつつ、どんどんとしなびていく。


「――干からびちまう。いやあこんなとこでこの薬が役に立つとはなぁ。研究ってのは奥深いもんだぜ」


 触手と一体化しているアプリカが、その体を震わせ始めた。


「そんな……! こんなことが……!」


 愕然とするアプリカをよそに、私はレニスに向かって叫んだ。


「――レニス! お前、『男の機能を強化できる魔法』が使えるんだったな? そいつをあの触手どもにかけてやれ!」


 私に言われて、レニスは困惑の表情を浮かべつつも急いで詠唱を始める。

 それはダンジョン探索中、彼女が私に話しかけてきたときに教えてもらった話だった。

 『バンガンのじいさんのアレにかけても無理』――とかなんとか言ってたか。


 つまりそれは体力を与える回復魔法(ヒール)系統の魔法じゃない。

 体に負担をかけながらも、むりやり闘える状態に奮起するための魔法。

 それを今、あの状態の触手にかけたらどうなるか――。


 アプリカがレニスの方を向いて声をあげる。


「や……やめなさぁああい!!」

「よくわかんないけど……!」


 レニスの短杖の先に、緑色の魔力が灯る。


「――おっ()て! 『精力倍増(バイ・アーラグ)』」


 その光がアプリカの触手へと降り注いだ。

 それを受けた触手たちは、震えながらその干からびた先端を空へ向ける。

 私は天を指差した。


「――あの世まで! ()っちまいなぁ!」


 プシュゥ、と派手な音を立てながら、アプリカの触手たちは噴水のように白色の血液をうち上げた。

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