018 悪堕ちってエロくね?
私たちとアプリカはダンジョンの中で別れている。
仮にアプリカが普通にダンジョンを脱出できたとしても、別のダンジョンの最深部で出会うなんておかしなことだ。
物理的にありえない。
そしてもう一つ、見逃せない事実があった。
――めちゃくちゃ……エロい……!
おっぱいがこぼれ落ちそうなほどに胸元が開いたドレス!
ていうかうっすら透けてない!?
お堅いアプリカの性格からは考えられない服装だ!
本当にアプリカなのか!?
いやでもそんなことはどうでも良くなるぐらいに……エロい!
私が思わず前のめりになりつつアプリカの恰好を凝視していると、ミカが口を開いた。
「どうして……キミがここに……!」
「あら……ダンジョンで別れたのですから、ダンジョンで再会してもおかしくはないでしょう?」
「おかしいに決まっているだろう……! 前のダンジョンとここでは、場所も違えば種類も違う!」
ミカの言葉はもっともなことだ。
物理的に距離が離れている以上、このダンジョンの奥深くまで迷い込むことなんて普通はありえない。
……だがダンジョンには例外がある。
「……ワープゲート」
私の言葉にアプリカは笑った。
「ええ。なかなか勘が鋭いですね、おチビさん」
たしかに以前のダンジョンでも私がワープゲートを作ったし、ワープゲートはもともとダンジョンコアの外殻を壊したときに滞留する魔力で自然発生することもある。
だが……。
「他のダンジョンに繋がるワープゲートなんてのは、聞いたことがないな」
ダンジョンに出来るワープゲートは、ダンジョンの外へと繋がるものだ。
だがアプリカはそれに首を振った。
「そうでしょうとも。私はダンジョンの『神』に導かれたのですから」
「……ダンジョンの神だぁ?」
私は鼻で笑う。
「モンスターにでも犯されて頭がイカれちまったのか? 都合よくダンジョンで迷って神様に助けられた話なんて聞いたことないぜ?」
「それはそうです。なにせ私は、助けられた訳ではないのだから」
「……は?」
アプリカは穏やかな微笑みを浮かべる。
その笑みには慈しみのような感情と、幾ばくかの狂気が見えた。
「私はダンジョンのモンスターに取り込まれました。体を穢され堕とされて――そして神の物となった。私は神の祝福を受け、ダンジョンの一部として生まれ変わったのです」
彼女はその両手を広げる。
「そして神と一体化し、神の声を聞きました。私は今、神そのものなのです」
私は思わず苦笑しつつ、自身のこめかみに人差し指の先端を当てた。
「……イっちゃってるぜ、お前」
私の反応にアプリカは目を細める。
「ではあなたはなぜダンジョンがこの世界に誕生するのか、ご存じですか?」
「……はぁ? 地脈の魔力がコアになって、それが周囲の環境を変化させるからだろ?」
私は一般論を口にする。
それは以前、王女に説明した話だった。
だがアプリカはその言葉に首を横に振る。
「いいえ、違います。ダンジョンコアとは……侵略兵器なのです」
「なっ……!?」
驚きの声をあげたのはミカだった。
ミカは私の方を見る。
……あれ? なんか聞いたことある話のような……?
アプリカは話を続けた。
「異世界の神々が自らの尖兵を送り出すための船……それがダンジョンです。ダンジョンコアが侵入した空間では、コアは周囲の物質からダンジョンを作り上げる。そしてダンジョンはモンスターを召喚し、トラップを作り、マジックアイテムという餌を撒く。中に入った人間たちを喰らい神の贄とする……その一連の機構が『ダンジョン』という装置なのです」
アプリカの説明に、ミカが驚愕しながら私に目を向けた。
「……お前が言ってたことは、真実だったのか……!」
……あ。そうだ。
そういえば、それ前にミカに言った嘘八百の内容とそっくりじゃん……。
隣にいたレニスも私の方を向く。
「ルルちゃん、知ってたの……!? いったい何者……!?」
そしてなぜか王女が胸を張る。
「ふふ、ルルさんは前からわたしが目を付けていたダンジョン研究家ですからね。それぐらいの真実、気付いていたに決まっていますよ」
そんな周囲の反応を受けて、私は内心叫ぶ。
……そ…………そうだったのか~~~~~~!
以前ミカと話したときに言ったことは全部その場の口から出任せの嘘だった。
でも実は真実だったなんて……!
今更あれが嘘だったなんて言える空気じゃないし……。
私は少し考えたあと、腕を組んで平静を装いつつ、アプリカに向かって言い放った。
「……そ、そんなことはとっくに知ってるぜ!? 今更うだうだ長ったらしく説明しやがって! 『レジデントオブサン』の女冒険者たち四人も、そこの二人も、殺したのはお前だな!?」
あからさまに話を逸らすための私の言葉に、アプリカは笑顔で頷いた。
「ええ。あなた方が来たと知って、私はこのダンジョンの防衛のために神の力でワープしてきたのです。つまり私がこのダンジョンのボスモンスターの代わりを務めさせていただきます……ふふ」
アプリカはその手に乗せた人間の頭サイズの真っ赤なダンジョンコアを撫でながら、私たちをまっすぐに見据える。
「直接この手で殺してあげようと思ったんですが、なにぶん人数が多かったので各個撃破させていただきました。ワープゲートを使えるとはいえ、頻繁には使えませんし、あまり長い時間ダンジョンコアから離れることもできませんしね。……だから早くここに来て欲しくて、少しずつ少しずつ誘導してたんです」
「そうかい。熱烈なラブコールどうも。残念だがその気持ちに応えてはやれないけどな」
こいつの目的は最初から私とミカだったってことだ。
……となれば王女たちは巻き込んだ形になるか。ちょっと申し訳ない。
「……ふふ。ミカ様とおチビさんは、ずっとずっと可愛がってさしあげますわ。自ら『殺してくれ』と懇願したくなるように……。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。ふふ、ふふふ。うふふふふふ」
目を見開いたまま笑うアプリカに、私はため息をつく。
「……ミカ、ああいうの得意だって言ってたよな? 私はパス」
「そんなことボクは一言も言ってない。捏造はよせ。それに好きか嫌いかで言うなら、お前は豊満な胸が好きだと言ってたじゃないか」
「たしかにアプリカのおっぱいは良いものだし、あの悪堕ちファッションもなかなか来るものがある。だけど中身がヤンデレじゃあなぁ……」
「死ぬまで愛してくれると思うぞ」
「愛が重すぎて胃もたれしそう」
私がミカ相手にため息をついていると、横でマルトが胸元から短刀を取り出した。
「……この化物め! 俺のレオを、よくも!」
……俺の?
私の疑問をよそに、彼は駆け出す。
タタタタッと一息にアプリカへ近付いた後、彼は宙へと跳んだ。
「秘技――分身の術!」
瞬間、彼の姿が四つに分かれる。
光の屈折を利用した幻覚魔法だ。
精神操作の類いではないので、周囲から見ても彼の体は四つに見える。
詠唱破棄した上に本体と分身の見分けがつかないその精度は、Bランク冒険者としてはトップクラスのものだろう。
四方に分身した彼の短刀がアプリカへと迫る。
「――取った!」
きっと彼を含めた全員がそう思ったことだろう。
……アプリカを除いて。
「あらあら……あらあらあらあら」
「あ……ぐ……」
四人のマルトの腹部に、赤黒い色の触手の先端が突き刺さっていた。
「お……あ」
マルトの体がだらりと垂れ下がる。
四つのうちの三つの分身が消え失せた。
「化物だなんてひどいです……こんなに美しい体を手に入れたのに」
その触手の根元はアプリカの下半身、スカートの中へと繋がっている。
「『ダンジョンの一部として生まれ変わった』、ねぇ」
私はアプリカがさきほど言った言葉を復唱する。
それはきっと、そんな生優しいものじゃない。
「とんでもねーな。もうすでにダンジョンのモンスターそのものじゃねーか……お前」
下半身から触手が生え、化物と化した奴の肉体。
アプリカは微笑みながら、こちらを見つめた。
「お相手遊ばせ、おチビさん」
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