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016 悪い子にはお仕置きが必要だよなぁ?

 リッカの一撃を防ぎ、私は勝利を確信した。


 杖を地面に突き立てる。

 一見無防備に見える姿ではあるが、すでにカウンター魔術を仕込んでいる。

 不意打ちにこそ対処できないが、次に彼女が踏み込んだときにその身体を拘束できるはずだ。


 しかし彼女は一瞬、チラリと横を向く。

 その先には立ち尽くす王女の姿があった。


「リッカ……!」


 王女がその名を呼ぶ。

 王女が用を足しているというのは嘘だ。

 私が裏切り者を釣るために、一芝居うたせたに過ぎない。


 ……ちなみにリッカが何もしなかった場合、一人ずつ誘い出すつもりだった。

 私と王女というか弱そうな女たちと一緒になったら、行動を起こすと思ったからだ。

 実際こうしてリッカは行動を起こしたわけだが……。


 リッカは一瞬こっちと王女の方を交互に見つめて迷ったような表情を見せたあと、地面を蹴った。

 その行き先は王女の方向。


「――姫様! ごめんなさい!」


 リッカの剣が王女へと向かう。


 王女にまともな戦闘能力はない。

 かといってリッカの攻撃を防ぐために私が呪文を唱えている暇もなかった。

 ――それなら!


「マリン!」


 私は叫ぶ。


「――『お座り!』」


 私の命令に従って、王女はその場にしゃがみ込んだ。

 同時にリッカの剣が、それまで王女の上半身があった空間を斬る。


「なっ……!?」


 リッカの顔に驚愕の表情が浮かぶ。


 ……良い反応速度だ!


「次! 『リッカにじゃれつけ! 全力で!』」


 王女はまるでタックルをするかのようにリッカへと飛び跳ねた。


「ひゃあぁっ!?」


 体勢を崩したリッカは、そのまま後ろに倒れ込む。

 私は指示を続けた。


「犬の真似は終わりだ! 『立ち上がってリッカの手首を掴み、内側に捻り込め!』」


 王女は無言で素早くそれを実行し、リッカの手を捻り上げる。

 リッカは地面に剣を取り落とした。


「痛い痛い痛い痛いっ!?」

「よーし、いいぞマリン。『そのまま膝で背中を押さえ付けろ』」


 王女は私の指示通り、無言でリッカを拘束する。

 地面に組み伏せられたまま、リッカが声を上げた。


「そんな……! 姫様、いつの間に護身術を……!」

「……え?」


 リッカの言葉に、王女が困惑の声をあげた。


「……わたし、どうして」


 王女はリッカに体重をかけながらそうつぶやく。


「そりゃあ、王女様は『私のお願いならなんでも聞いてくれる』からな」


 私は笑いながら、ゆっくりと二人に近付く。


「以前王女と交わしたダンジョンコアの取引契約は今も有効なままだ。だから王女は、『私のお願いならなんでも聞いてくれる』状態になっている。……知ってるか? 人間ってのは普段、筋力の三割ぐらいしか使ってないんだ」


 100%の力を出すと反動で筋肉が傷付くため、人間は無意識に力をセーブしている。

 だが私が王女に『全力で』と命令すれば、その無意識すらも意のままに操ることができるのだ。


「……ネタばらしはこんなとこだ。暗殺者さんよ」


 私はそう言ってリッカの頭を踏みつける。


「ぐっ……!?」

「王女の腹心が裏切り者かぁ。まあそうだよな。冒険者に依頼するよりも、王宮に常日頃からいる人間を抱き込む方が手軽だ。それとも何か? 最初からそう仕込まれて王女の従者に入り込んでたのか? どっちかは知らないが……残念、私の方が強い」


 私の言葉にリッカは顔を歪める。


「くっ……殺せぇ!」


 リッカは叫ぶ。


「……わたしは何をされたって、何も喋ることはありません! 失敗した以上、もうわたしは帰れないのです……! だからここで殺しなさい!」

「ふーん。あっそ。お前の事情になんて興味ないね」


 私はぐりぐりと彼女の頭を軽く圧迫する。


「お前は暗殺者としては三流だ。一流なら一度目の攻撃が失敗した時点で撤退してる。二流なら組み伏せられた時点で即座に自害する。……つまりお前、ちょっと雇われただけの素人だな? 金か情か脅迫か、何で釣られたのかは知らないが……」

「う……」


 私の言葉に図星を突かれたのか、彼女は地面に視線を向けた。


「ま、そんなことはどうでもいいけどな。事実は一つ、お前が王女を狙う謀反人(むほんにん)だということだけだ」

「……そんな……リッカ、どうして……」


 王女がギリギリとリッカの腕を締め上げながら悲しみの表情を浮かべる。

 ……私がやらせてることとはいえ、シュールな構図だな。

 リッカは痛みに顔をしかめつつも、静かに言葉を発した。


「姫様……もしもわたしに慈悲を与えてくれると言うのでしたら、せめてあまり苦しくないよう一息に……」

「……はぁ? 何言ってんだ? お前。おい」


 私は彼女の頭を足で軽くつつく。


「勝手に命を狙ってきて負けた方が、慈悲だぁ? 都合が良すぎるんじゃないか? 裏切られた王女がどんな気持ちだと思ってんだ。迷惑なんてもんじゃないぞ。なのにお前がお願いできる立場だと思ってんのか? お前の生殺与奪の権利は私が握ってるんだ。その体にどんな苦痛を与えるも与えないも、私と王女が決めるのが筋ってもんだろ。違うか?」

「……う、うう~……!」


 リッカはぽろぽろと涙をこぼす。

 王女がそれを見て言葉を続けた。


「可哀想なリッカ……。大丈夫。今のリッカの泣き顔、とっても可愛いから……!」


 よくわからない励ましをする王女。

 ……この王女様も、結構良い性格してんな。

 私は言葉を続けた。


「……まあ、誰も殺すとは言ってないけどな」

「……え?」


 リッカが目だけでこちらの方を見る。


「第一お前には首謀者を吐いてもらわなきゃいかん。冒険者なら仲介者を通して金で雇われただけかもしれんが、王宮の中の人間なら結構な手がかりを持ってそうだし。知っていることは洗いざらい教えてもらう」

「だ、だからわたしは何も言わないと……!」

「言っただろ? お前に何かを決める権利なんてないんだって」


 私は自分のマントの下に手を入れる。

 そしてそこにこっそり反撃のために仕込んでいた切り札を取り出した。

 それを見て王女とリッカが声をあげる。


「わお」

「な、な、なんだそれは……!? 気持ち悪い……!」


 私が取り出したのは、手のひらサイズの触手の断片だった。

 その形状は以前戦ったワームの形が近い。

 赤桃色の触手は、表面が粘液によりぬらぬらと光っている。


「これはここに来る前に召喚しておいた小型の触手さ。わたしに何かあったときに飛び出すよう命令(プログラム)している。さっきは後ろからの不意打ちだったから対応できなかったけどな。……そしてこいつの命令を少し書き換える」


 うねうねと動く二本の触手を両手に持つ。

 リッカの頭から足を下ろして、私は彼女へ向けて満面の笑みを浮かべた。


「……お前が正直に言えないって言うなら、お前の体に聞くとするよ」

「へ……?」

「なに大丈夫だ。お望み通り、苦痛はないぞ。痛かったとしても最初だけだから」

「え? え? え?」

「あ、早めに諦めて言っちゃうことをオススメするぞ。体にクセがついちゃうともう戻れなくなるからな」

「あの、ちょっ……え???」


 にこやかな私の表情と相反するように、リッカの顔はどんどん青ざめていく。


「まさか……ちょ、お待ちを! ひ、姫様っ!? こいつを止めてください! こいつなんかおかしいです! え? 女ですよね!? ……えっ!?」

「ああ、リッカ……なんて可哀想な顔……とっても可愛い……」

「姫様っ!? 姫様もおかしい!?」


 焦るリッカとは対照的に、王女は恍惚の表情を浮かべていた。

 ……あー、なるほど。こいつもいける口か。

 なら話は早いな。


「よしじゃあマリン、しっかり抑えておいてくれよー」

「はーい!」

「おまえらっ……やめっ……!」


 うねうね動く触手に顔を引きつらせながら、リッカは声をあげた。


「やめてぇぇーーーーー!!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] EDにロリコンにホモ、 特徴のある奴らばっかだなーと思ってたら、 (いやじいさんが立たないのは仕方ないけど) Sとレズの混血までいたよ なんならリッカは、 王女と一緒に拷問部屋に閉じ込めた…
[一言] 姫、そっちのくちだったか。
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