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013 ダンジョンは見付けた奴の名前がつくらしい

「え~……諸君、では今回の任務の説明に入りたいと思う。担当は俺、Bランク冒険者パーティ『メメントモリ』のリーダー、マルトだ。一応これからは俺の指揮下に入ってもらうことになるので、ダンジョンの中では言うことを聞いてくれ。でないと、その……まあ、困る……」


 頭に手を当ててそう言った彼の言葉に、周囲から失笑が漏れた。


 私とミカは王都の周囲に発生した新たなダンジョンの入り口へとやってきていた。

 そこには第六王女マリンとその従者、そして私たちの他に四人パーティが二つ……合計十二人の部隊が揃っている。

 全てがこのCランクダンジョン――『ソリッズの森林』の攻略のために集まったメンバーである。


 今絶賛売り出し中の調子の良いBランクパーティ『メメントモリ』、Cランクとしてはベテランのダンジョン探索者である女性パーティ『レジデントオブサン』、そして二人しかいない崩壊寸前のDランクパーティ『ゴールデンクロウ』……こと私とミカの二人が、今回の攻略メンバーだ。

 戦力だけでみればCランクダンジョンぐらい余裕で攻略できる豪勢なメンバーと言えるだろう。

 ……普通ならば。


 リーダーのマルトは周囲の笑い声に苦笑しつつ、言葉を続けた。


「まあ命令無視して何かあっても責任は取れないのでそのつもりで……ってことだ。事前情報はCランクでも、ダンジョンによっては変化することもあるからな。特に今回は『森林型ダンジョン』だ。他のタイプよりも地形などは変わりやすい」


 彼の説明を聞いていたミカが私に耳打ちする。


「『森林型』のダンジョンってのはどんな物なんだ? 見ての通り、『森』なことはわかるが……」


 ミカの言う通り、私たちがいるダンジョンは森そのものだ。

 一見したらダンジョンには思えないただの森だが、通常の森よりも木々の枝や葉がひしめき合って密度が濃くなっている。 

 私は説明を邪魔しないように声をひそめつつ、ミカの質問に答える。


「普通の洞窟型は内部形状が変わるまで数ヶ月から数年レベルの月日が必要になる。しかも変わるときには地殻変動レベルの地震があるからわかりやすい。だが森林型はそれがない。何せ木がダンジョンの壁や天井を構築しているからな」


 森林型のその特徴から、古来より森林型ダンジョンは各地で『迷いの森』とも呼ばれていた。

 昔はそれがダンジョンの一種だと気付かれていなかったからだ。


「同じような地形が続き、方位磁針(コンパス)も狂うから方向感覚を失いやすい。他のダンジョンと違って階層の概念がない点は楽だが、面積は広大ですぐ増えるし、形もよく変わる。今回は見つかってすぐのダンジョンだから、そこまで広くはないがな」


 ちなみに本当の発生初期に見付けた場合、ちょっとした畑程度の苗木の中心にダンジョンコアがあるという場面に遭遇できるらしい。

 見付けたら儲けものだ。


「森は燃やそうにも所々に水分を多く含んだ木があるせいで、燃え広がらないようになっている。そのぶん他のタイプのダンジョンよりも水や食料が豊富で、中には共存するエルフもいるらしいぞ」


 とはいえ、ダンジョンコアに近付き過ぎるとダンジョンに取り込まれてしまう。

 そういうタイプのエルフはダークエルフと呼ばれ、エルフたちからは忌み嫌われているようだ。


火吹き竜(ファイアドラゴン)でも味方にいれば取れる手段も増えるだろうが、基本的には他のダンジョンと同じく地道に攻略するのに変わりはないよ」

「なるほど……。以前のように道を自動計算することはできないのか?」

「できる。……できるんだが、難易度は高い」


 私は腕を組んで言葉を続けた。


「言った通り森林型は面積が広い。だからマップの形を予測しようにも、結構歩いて形を特定しなきゃいけないんだ」


 私は周囲に視線を向けて誰も聞き耳を立てていないことを確認しながら、続きを話す。


「……それにあまり早く攻略しちゃうと、王女を狙っている奴らの尻尾を掴めないからな。もしいるならここで正体を掴んでおいた方が都合が良いだろ?」

「……王女を囮にするのか?」

「人聞きの悪いこと言うなよ。ちょっとした釣り(フィッシング)さ」

「お前にそんな渋い趣味があるとは思わなかったよ」

「これでも昔はいろいろやってたんだ。今度無心で釣り糸垂らしにいくか?」

「……考えておく」


 私たちが無駄話をしている間にリーダーからの挨拶は終わったようで、各々は出発する準備を整え始めていた。

 そんな様子を観察しつつ、ミカが口を開く。


「何かがあってからでは遅い。お前は常に王女の近くにいるようにしておけ」

「ええ? 私がぁ? でもとっさの対応ならお前がいた方がよくないか?」

「男のボクがいたら警戒されるだろう。何かあったらお前が代わりに犠牲になれ」

「弾よけかよ……」

「その間、ボクの方でも不審な者がいないかは調べておく」

「まあそれが妥当な割り振りか」


 ミカの言うことも一利ある。

 仕掛ける側の油断を誘うなら、私が護衛に回った方がいいだろう。


「ミカ、お前も変に探ったりして気付かれるなよ」

「何がですか?」

「そりゃ私たちが王女の妨害をしようとする奴らを見付けようとしていることに――ってうわぁああ!?」


 予想外の声が耳元からして思わず大声を出してしまった。

 気付いていないのはミカも同じだったようで、驚きの表情を浮かべている。

 

 私たち二人の間に挟まるようにして、そこには栗色の髪の美少女がいた。


「……マリン王女、気配を殺して近付くのはやめてください」


 私の言葉に王女は苦笑する。


「ごめんなさい……。王宮内では存在感を消さないと面倒に巻き込まれやすいので、小さいころから物音を立てないようにするのがクセになってて……」


 気配を消すのがクセになってる暗殺者などはよく聞くが、王族でそんな人がいるなんて初耳だった。

 よほど王宮の中はドロドロしていて居心地が悪いんだろうな……。


 そんなことを考えていると、また別の方から声がした。


「姫様! どこに行ったのかと思ったら……!」


 声の主は王女と同じ歳ぐらいの少女だった。

 黒髪にメイド服。服の上からは軽鎧を身に着けており、腰には剣を差している。

 駆け寄ってきた彼女に私は声をかけた。


「あーと、あんたは……?」

「姫様の従者をしています、リッカです。……姫様、いつものようにすぐ姿を消されては困ります。これからダンジョンに入るのですよ」


 彼女の言葉に王女は頭をかいた。


「ご、ごめんごめん。守ってもらうんだから、交流を深めておいた方がいいかと思って……」

「なりません。下賤(げせん)な者の中には姫様に良からぬ思いを向ける(やから)もいるかもしれません。どうかお控えください」


 下賤てお前。

 私の不服な視線に気付いたのか、リッカは「ハッ」とこちらを見ると頭を下げた。


「申し訳ありません! つい本音が……!」

「『つい本音が』じゃねぇよ! そこは『口が滑った』とか言い(つくろ)うところじゃないのか!?」

「す、すみませんそうでした……! 私昔から正直過ぎていろいろな奉公先をクビになったぐらいで……! 決して悪気はないんです! ちょっと冒険者のような荒くれた方々を見下しているだけで!」

「悪意100%じゃねぇか!」


 私とリッカのやりとりを見つつ、王女はクスクスと笑う。


「ルルさん、ミカさん。今回は依頼を受けてくださりありがとうございます。期待してますよ!」


 王女はそう言って笑うと、私たち二人にだけ聞こえる距離まで顔を近付けてきて声をひそめた。


「……暗殺の危険についてはわたしも承知してます。だからこそ、ここを乗り越えれば他の王族へ力を示すことになります」


 王女の言葉に、私とミカは息を呑む。

 彼女は静かに言葉を続けた。


「父が王位を退けば、わたしや周囲の者たちはほとんどの権力を取り上げられ、僻地(へきち)へと幽閉されることになるでしょう。わたしだけならまだしも、周りの者を巻き込むわけにはいきません。……なので、あなた方には是非協力して欲しいんです。対価は可能な限り支払います」


 低い声色でそう言った後、彼女は一歩後ろへと下がって軽く礼をする。


「……ではでは! 他の方たちへの挨拶もありますので、わたしはこれで! よろしくお願いしますね~!」

「――あ、姫様ーっ! お待ちくださいー!」


 マリン王女は私たちに向かって手を振ると、そのまま他パーティへの方へと走っていった。

 従者もそれに続いて駆けて行く。


 残された私たちは、彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。


「……悪くない。芯が強い女は好みだ」

「たしかに、協力したくなる御人だな」

「ああ……少なくとも、ここでは死なせらんねー」


 私たちはそう言いながら、森の入り口を見据える。

 やる気を新たに湧かせつつ、私たちは攻略を開始するのだった。

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