DIABLE×BALLE ~死ぬのが趣味な変態とヘタレな運び屋のハードボイルドアクション~
『俺女子高生に興味ないから、君達とは結婚できません!!』が、1万PV突破しましたので、その記念作品第一弾です。
※本作品にはグロテスクな表現、下ネタが含まれています。それと本作は自殺を推奨する作品ではございません。
――この世に神様なんていない。
俺はいつだってそう思ってきた。
結局頼れるのは己の力のみ。
誰の力も必要ない。
だが変だな、人は窮地に追いやられるとどうしても神頼みをしたくなってしまう。
何故なら、もうそれしか出来ないからだ。
でも祈ったところで、神様って奴は助けてくれやしない。
やっぱり神様なんて居ないんだな。
「この世に神様が居ないって?」
そう思っていた。アイツと出会うまでは――
「だったらよぉ、オレがお前の神様になってやる」
● ● ●
「はぁ……はぁ……あぁ、くそ!」
男は追われていた。後ろから拳銃をバンバン撃ちまくるチンピラ風の男二人組に。
「テメェ! よくも俺達にあんな物届けやがったな!」
「『運び屋』なら物のチェックぐらいしろや!」
チンピラ二人からの怒号と銃声にビビりながら、追われている男はヤケクソに答えた。
「し、知るかバーカ! 恨むなら依頼人の『ケイン』を恨めよ! 俺は中身を見ないことを条件に物を届けただけだっつーの! 何が入ってたかなんて知るか!」
男は路地裏に逃げ込み、チンピラ二人もその後を追う。
「へ、バーカ。その先は行き止まり……あれ?」
チンピラ二人が路地裏に入ると、そこは行き止まりなのに男の姿はなかった。
「ふーっ、やれやれ」
チンピラから逃げ切った男はスーツの埃を払いながら路地裏を歩いていた。
「この街の抜け道なんていくらでもあるんだよ。これでしばらくは時間を稼げるか」
男は周囲を確認し、安全が確認出来てからポケットからタバコを取り出して一服した。
「はぁ~、ケインの奴、俺に何運ばせたんだよ……まったく、この仕事も楽じゃないねぇ……ん?」
タバコを味わっていると、何やらタバコの煙に混じってタバコとは別の異臭がする事に気付く。
「なんだ?」
この先の曲がり角から謎の匂いがする。気になった男はその曲がり角を覗き込むと……。
「うっ!?」
そこには死体があった。しかも全身が十本ぐらいある鉄パイプで串刺しにされ、そのまま壁に磔にされていた。
そして鉄パイプから夥しい量の血が蛇口のように流れ出ていた。
死体は女性で、小柄な少女であった。顔面は潰されていて原型を留めていない。
女性だと分かったのは胸に膨らみがあったからだ。
「ひ、ひでぇ、なんだこの殺され方……」
とても人間がやったとは思えない。何故なら、鉄パイプがコンクリートの壁に突き刺さってるからだ。
人間の膂力で出来る芸当とは思えない。
「くそ、チンピラに追われるわ。訳の分からん死体に遭遇するわ。今日はツイてなさすぎだろぉよー」
不可解な死体を前にしても男は冷静であった。
何故なら男は死体を見馴れているからだ。
この街は現在2つのマフィアが抗争を繰り広げている街。死体なんて珍しくもない。
だが、こんな死体を見るのは初めてだ。
「もしかして、人間以外の化け物でも迷い込んだのかな……ん?」
今、磔にされてる死体が動いたような……。
「……気のせいか、どこの誰か知らんがすまんね。弔ってやれそうにない、なんせ俺今追われてるから、あの世で元気でな」
そう言い残し、死体と別れを告げた後に立ち去ろうと、近くの曲がり角と曲がり角を歩くと、そこには銃口があった。
「あ、ありゃりゃ?」
「追い詰めたぜ運び屋ぁ」
追い付かれてしまった。さっきのチンピラ二人に。
「ま、まぁまぁ、ここは話し合お……ぶげぇ!?」
そのまま顔面を殴られて男は尻餅を付いてしまった。
「ま、ままままま待て待て! 冷静になれよ! まず事情だけでも聞かせてくれよ! 俺が運んだ物に何が入ってたんだよ! あの中には拳銃と弾丸しか入ってないとしか聞いてないぞ!」
「俺達もそう思ってた。だが、弾丸が入ったケースの中に『黒い弾丸』が混じってたんだよ!」
「それに触ってしまったうちのジョニーがおかしくなって、うちのファミリーの者を三人殺して逃げたんだよ!」
黒い弾丸? なんだそれは、と言うか。
「て、それ結局八つ当たりじゃねぇか! 俺は本当に知らなかったんだよ! なんだそれ、薬か何かか!?」
「知るか! 本当に知らないようだが、あの弾丸を持ち込んだのは紛れもないお前だ! お前をぶっ殺した後にケインも殺してやる!」
今までミスは最小限に、マフィアを中心とした運び屋稼業をしていたのだが、どうやらここまでのようだ。
(え、待てよ、俺マジでここで死ぬのか? こんな所で? 嘘だろ、俺にはまだ、やらなきゃいけない事が……)
こんな仕事してる時点で覚悟していた筈だが、いざ自分が死ぬ事に直面すると、全身の力が抜けて立つことすら出来ない。
「あ……ひ……」
まともに声も出せない。自分に向けられた銃の引き金がゆっくりと引かれる。
「じゃあな、運び屋の『ジャン』。あの世で元気でな」
『ジャン』と呼ばれた運び屋のジャンが目を瞑り頭を抱える。
(ちくしょぉ! ちくしょぉ!)
「う……る……せぇな……」
「「!?」」
撃たれる直前、掠れたような女の声と、ガチャガチャと鉄と鉄がぶつかり合う音がその場に響き渡る。
「だ、誰だ!」
チンピラ二人が周囲をキョロキョロしていると、曲がり角の奥から声と音の正体が姿を見せた。
「オレ……だ……」
チンピラ二人は驚愕した。全身に鉄パイプが大量に突き刺さり夥しい血を垂れ流すシルバーブロンドの女が姿を見せたのだ。
「ひぃ!?」
「なんだコイツ!?」
チンピラ達の声を聞いて我に返ったジャンは恐る恐る目を開けて女の姿を見て更に腰を抜かして後退りした。
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
動いてる、さっき壁に磔にされてた女が動いてる。
死んでいると思われていたが、まさか生きていたのか?
いや、あり得ない、何故なら複数刺さってる鉄パイプの一つが心臓に突き刺さっているからだ。
「人が……気持ちよく……死んでた……ところに……ピーチクパーチクとよぉ……そんなにオレの……邪魔がしたいのか……テメェら……?」
「ば、化け物だぁぁぁ!!」
「う、撃てぇぇぇぇ!!」
チンピラ二人がパニックになりながら銃口を女に向けてバンバン撃ちまくる。
女は避ける素振りも見せず銃弾を全身で受け止めながら自分の両肩に刺さっている鉄パイプ二本を引き抜いて、そのままチンピラ達との間合いを詰めて鉄パイプでチンピラ達に殴りかかった。
「ぐぇ!?」「げぇ!?」
数発殴った後、最後に二人まとめて鉄パイプ二刀流で壁に叩き付けて、チンピラ二人は気を失った。
「ひ、ひぃぃぃぃ……」
目の前の出来事が理解できず、ジャンは四つん這いになりながら逃げようとしたら、背後からスーツの襟を鷲掴みにされてしまった。
「うわぁぁぁぁごめんなさいごめんなさい! 殺さないでぇぇぇぇ!!」
「うる……さい……」
そのままジャンは後頭部を鉄パイプで殴られて気を失った。
「ほげぇ!? ……………がくっ」
「……………………ハァ!?」
ジャンが目を覚ますと、そこは人通りが多い街の広場であった。
道行く人がこちらをジロジロ見ながら通りすぎて行く。
(な、なんだ、あの後何が起こった?)
今自分が置かれている状況を整理しようとした時であった。
(ん? この柔らかい感触はなんだ?)
頭に柔らかい感触があったので恐る恐る触ってみると。
(太腿……?)
「すー、すー」
今度は上の方から寝息が聞こえてきたので視線を向けると、そこには整った顔立ちのシルバーブロンドの美少女の顔があった。
(え、誰? てか、この状況……)
ジャンはようやく今の状況を理解した。
自分は今広場のベンチの上で横になって、見知らぬ女の子の膝の上で寝ていたのだ。
「すーすー……んお? 目が覚めたか」
「ど、どうも……て、誰だアンタ!?」
ジャンは起き上がろうとしたら、顔が少女の下乳に当たって、そのまま反動で再び膝の上に戻ってしまった。
「むぉ!?」
「くくく、落ち着けよ、お前『運び屋』なんだって? お前に聞きたい事があったからここまで連れてきたんだよ」
見た目とは裏腹に男っぽい喋り方に困惑してるジャンの頭を少女は優しく撫で始めた。
「聞きたい事はあるが、今は少し休んだらどうだ? お前死んだような顔してるぜ? 疲れてんじゃねぇの?」
「お、おう……なら、せめてアンタが何者なのか教えてくれねぇか?」
「オレか? オレは『トレイズ』。ついさっきこの街に来たらいきなり殺されちまってよぉ……くくく、笑えるぜ」
「? ……あ! お前!?」
ジャンは今度こそ起き上がって、『トレイズ』と名乗った少女に向き合うように立ち上がって指差した。
「ま、まさかさっきのゾンビ女か!? い、いやいや待て待て、あり得ねぇ、だってお前顔が潰れてたし、それに身体中に鉄パイプが刺さって……へ?」
トレイズの全身をくまなく観察してみると、体の傷どころか、着ている服やロングコートに穴一つ空いてない。ほぼ新品の状態の服を着ていた。
「なんだぁ? そんなにオレの体に欲情したか? 運び屋ってのは女の中に精○まで送り届けるのか?」
「ちげーよバカ! お前本当にさっきのゾンビ女なのか!? 傷どころか服も破れてねぇじゃねぇか!」
「おいおい、こんな人通りが多い場所でオレの裸でも見たいのか? 物好きだねぇ」
「すぐに下ネタに持ってくるのやめろ!」
くくく、とからかうように笑いながらトレイズはベンチから立ち上がった。
改めてみると小さい。身長は160cmぐらいだろうか? こんな小さな体で大の男二人を伸したのか?
「悪いねぇ、オレエロい事が好きでな。さて、お遊びはこの程度にして本題に入ろうか運び屋」
「……ジャンだ」
「あぁ?」
「『ジャン・デュ・リュシュナー』それが俺の名前だ。いつまでも運び屋運び屋言われるのは癪に障るもんでね」
「ふーん、あっそ、お前の名前なんかに興味ないが、お前がこの街のマフィアに運んだ物の中に混じってた『黒い弾丸』を追ってここまで来たわけだが……あれ、誰から受け取った?」
一瞬にして空気がピリつく、さっきまでの軽い態度だったトレイズから寒気がする。
「し、知ってどうするんだよ?」
「無論、その弾丸をバラ蒔いてるクソ野郎どもを見付けて殺すんだよ。オレはその為だけに生きてると言っても過言じゃないね」
口調に変化はないが、殺すときたか。
「あー無理無理、どんな事情があるにせよ、お客様の個人情報は他者に教えられないんだ。そう言うルールでね……いっ!?」
いきなりジャンのネクタイを掴んで、トレイズは自分の額にジャンの額を押し付けた。
「ジャァァンンン、お前オレに貸しがあるよな? さっき殺されそうだったところを助けてやったろ?」
「お、おいおい脅迫か? 随分焦ってるようだなトレイズ。そんなに黒い弾丸とやらにお熱なのかよ?」
「良いから、さっさと黒い弾丸の出所を教えろ、さもなくば……ん?」
唐突であった。ジャンの背後にある広場の噴水から大量の水飛沫が飛んできたのだ。
「冷た!?」
何事かとジャンは振り返ると、噴水の上に両手に鉄パイプを握り締めた男が居たのだ。
その男の顔にジャンは見覚えがあった。
「お前……ジョニーか?」
さっきのチンピラ達と同じファミリーに所属しているジョニーの姿がそこにあった。
だが、いつものジョニーではなかった。鬼のような形相で周囲を睨み、そして異常な程発達した筋肉が露となっていて、獣のような唸り声を上げる。
広場に居た人達はジョニーを見て動揺する中、ジョニーが噴水から飛び上がり、手に持っている鉄パイプの一つを近くの女性に向けて突き刺した。
「ぎゃあ!?」
女性の腕に刺さった鉄パイプに口を付けて、そのままストローのように女性の血を吸い始めた。
「あ、か、は……」
ジュルジュルと音を立てながら、ジョニーが血を全て飲み干すと、女性はミイラのように干からびてしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
近くの男性が悲鳴を上げると、それに呼応して周囲の人達も悲鳴を上げながら逃げ始めた。
広場はパニック状態。そんな中、トレイズは悠々とジョニーの元へと歩いて行く。
「おいトレイズ! あぶねぇぞ! 戻れ!」
ジャンの制止も聞かず、トレイズはジョニーの目の前まで来た。
「よっ、さっきぶりだな。よくもオレを殺してくれたな木偶の坊、次はオレがお前を殺す番だ」
そう言って、トレイズは懐から二挺の拳銃を取り出した。
45口径半自動式拳銃『ハードボーラー』をベースとした拳銃の銃身の先にアサルトライフルのような放熱用の穴が大量に空いてるバレルジャケットを装着したロングバレルが付いた、かなり大きめな拳銃だ。
(な、なんだあの銃? まるでハンドガンとアサルトライフルが合体したような銃じゃねぇか……かなり反動がデカそうだが、トレイズの細腕で撃てるのか?)
ジャンが疑問に抱いていると、トレイズは不敵な笑みをこぼす。
「くくくはーははははは!! さっきはよくも穴だらけにしてくれたな! 次はテメェが蜂の巣になる番だぜ!!」
トレイズがその巨大な拳銃の引き金をジョニーに向けて撃とうとした瞬間であった。
「あっ」
ぶつかった。広場で逃げ惑っている群衆の一人がトレイズにぶつかって、そのまま体勢を崩したトレイズにジョニーは鉄パイプでトレイズの胸を串刺しにした。
「ぶげっ」
そのまま先程の女性と同じように鉄パイプをストローのようにしてトレイズの生き血を飲み干してしまう。
「お、ほぉ……」
そして、トレイズはミイラになってしまった。
「……トレイズ?」
ジャンが呼び掛けても返事がない、ただの屍のようだ。
「どぇええええええええ!? ちょ、おま! あんだけ殺る気満々だったのに何あっさり死んでんだよ! ほら、どうせ生き返るんだろ? どういう原理で復活するか知らんが早く起き上がれ!」
だが、ジャンの呼び掛けに応える事はなく、トレイズはそのまま横たわったままで、さっきみたいに生き返る事はなかった。
ジャンが一人で騒いでいると、トレイズを殺したジョニーと目が合ってしまった。
「あ、あははは、よ、よぉジョニー、随分と雰囲気変わっちまったけど、俺達仕事上の関係とは言え友達だよな? な?」
「■■■■■■■■■ッ!!」
人間とは思えない雄叫びを上げながら、ジョニーはジャンに襲い掛かって来た。
「ギャアアアアアアア!! トレイズのバカァァァ!!」
泣き喚きながらジャンはジョニーから逃げ、その後をジョニーが追うのであった。
く、くくくく、ははははははは。
良い、実に良い。
まさか同じ奴に二回も殺されるとは愉快愉快。
やはり何度味わっても死ぬことはやめられねぇ。
死んで命が、魂が肉体から溢れ出る感覚は病み付きになる。
オレにとって『死』こそが、オレを絶頂させる最高のオ○ニーだ!
「S○Xなんかよりも気持ちいい……あ、オレ処女だからS○Xの快感なんて想像でしか分からねぇか……まぁ実質『死』と何度もS○Xしてるようなものだよな……」
干からびたミイラのような状態となったトレイズの肉体が見る見るうちに膨らんで、傷口もふさがり、元の瑞々しい白い肌と肉体へと再生し始めていた。
「ジャンの奴も今頃『死』とデートしてる最中かねぇ、くく、邪魔してやろうかねぇ、オレに死を二回もプレゼントしてくれた奴にもお礼言わなきゃいけねぇしなぁ」
そして、完全に元の姿へと再生したトレイズは地面に転がっている愛銃二挺を拾ってゆっくりと立ち上がる。
「さぁて、次はオレから死の花束を送ってやるか」
「はひー! はひー!」
ジャンは必死に逃げていた。今日はなんだか逃げてばかりのような気がする。
「もうやだ! もーやだ! 何なんだよ一体!」
半泣きになりながら逃げていると、前方からパトカーが数台やってきて、中から警官が数人現れて拳銃をジョニーに向けた。
「た、たす、助けてくれぇぇぇ!」
そのまま滑り込むようにジャンはパトカーの影に隠れた。
「よぉジャン、また揉め事かよ?」
ジャンと顔見知りの警官がジャンに語りかける。
「そんなのいいからベン! さっさとジョニーを何とかしてくれ! アレ絶対ヤバい薬物に手を出したに違いねぇ!」
「確かにな、説得は無理そうだ。本部からも発砲許可は降りてる、全員撃て!」
警官全員がジョニーに集中砲火する。
そして蜂の巣になったジョニーはそのまま悲鳴も上げずに倒れた。
「あーもー、今日は散々だよー」
「はは、災難だったなジャン、今度何かおごりゃ」
「?」
何かが起こった。そう感じてジャンは顔を上げると警官のベンの首が吹き飛び、血の噴水を上げ、それをジャンはモロに浴びながら絶句した。
たった今蜂の巣になったジョニーが素手でベンの殺したのだ。
「あ……」
慌てて他の警官達は発砲するのだが、ジョニーは銃弾などお構い無しに次々と警官を殺害し、その場に居た警官は全滅してしまった。
「あ、わわ、わ」
一人残されたジャンと血塗れとなったジョニーの目が合う。
化け物。
目の前のこいつはジョニーではない。不死身の怪物だ。
(もう何がなんだかさっぱり分からんが、俺はここで死ぬのは分かった)
死を悟ったジャンは走馬灯を見ながら叫んだ。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!! なんで俺がここで死ぬんだよ! やっぱりこの世には神様なんていないのかよぉぉぉ! 理不尽だぁぁぁ!!」
その理不尽な運命であるジョニーだったものがジャンを殺そうと拳を振り上げる。
それを見て最後の悪足掻きとして目を瞑って両手で頭を覆うジャン。
心の中で何度も「ちくしょぉ、ちくしょぉ」と叫びながら、ジョニーは無慈悲にジャンに拳を振り下ろした。
(……………………あれ? 痛くない? 死ぬことって、こんなにも何も感じないものなのか?)
「この世に神様は居ないって?」
聞き慣れた声を聞いて恐る恐る目を開けると、そこには長いシルバーブロンドをなびかせ、ロングコートを羽織った見覚えのある小さな背中があった。
「だったらよぉ、オレがお前の神様になってやる」
トレイズだった。死んだはずのトレイズの背中がそこにあった。
トレイズはその細腕でゴリラのようなジョニーの拳を片手で止めていたのだ。
「ヘイ! オレと力比べするか木偶の坊? 悪いがお前が悪魔と混ざっていようが、純粋な悪魔の力の前では無力なんだよ!!」
トレイズはジョニーの拳を腕力だけで押し戻して、そのままジョニーを片手で投げ飛ばし、ジョニーは数メートル吹き飛ばされてしまった。
「トレ……イズ……なのか? お前やっぱ死んでなかったのか……てかお前何者だよ?」
「何者かって? そいつは、あの木偶の坊ぶっ殺してからだな」
トレイズは懐から先程の大きな拳銃二挺を取り出し、くるくる回しながらジョニーに銃口を向けた。
「待てトレイズ! アイツには銃弾は効かねぇ!」
「知ってるよ。だから特別性の銀の弾丸をプレゼントだ」
そう言うと、トレイズの拳銃に黒い霧みたいなものが発生したかと思うと、赤い稲妻みたいなものがほとばしる。
「さぁさぁ木偶の坊、裁きの時間だ」
放たれた。二挺の拳銃から二つの光線のような弾丸がジョニーの頭と心臓に命中する。
「…………■■■■■■■ッ!!」
だが、それでもジョニーは怯みもしなかった。
「だ、ダメだ……」
「いいや、ここからお食事の時間さ」
「■■■■ッ!?」
ジョニーに命中した弾丸は、ジョニーの中で強く発光して、目視でも見える程に輝いていた。
「人を化け物に変える醜き悪魔よ。その薄汚れた魂はオレの弾丸が食い散らかす」
「■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!」
ジョニーは悲痛な叫びを上げながら、頭と心臓が爆発して、そのまま息絶えた。
「悪魔に狂わされし哀れな魂よ。安らかに眠れ」
トレイズは拳銃を額に当てながら目を閉じて祈るのであった。
「ディアブルバーラ?」
「あぁ、あのジョニーって奴を怪物に変えた黒い弾丸の名前さ」
ジャンとトレイズは、あの後ジョニーと警官の死体が転がる現場から離れて、ジャンの事務所の前に居た。
そこは目の前に海が広がっていて、丁度日が沈みかけていた。
「あの弾丸の中には悪魔の魂が内蔵されていてな。生身の人間が素手で触ると悪魔に体を乗っ取られて不死身の怪物になってしまうのさ。おまけに理性を失う。今回のは最弱の悪魔だったがな」
「えぇ……あれで最弱なの? と言うか悪魔とか言われても信じられねぇよ……ん? そういやトレイズ、お前さっき『純粋な悪魔の力』とか言ってなかったか? お前も悪魔の力が使えるのか?」
まぁアレで何の力もないって言ったら、それこそ信用できない事だ。
「あぁ、オレは不幸を司る悪魔『トレイズ』と契約して不死身の肉体と悪魔を殺せる力を手に入れたんだ」
「悪魔トレイズ……え? トレイズ、お前と同じ名前じゃん、もしかしてトレイズは本名じゃないのか?」
「まぁな、トレイズとの契約条件が『契約者の名前を差し出す』だからな。トレイズに取られた名前はこの世から完全に消滅する。故に誰もオレの名前を覚えていないし、名を残すことはできない。それだと不便だから今は『トレイズ』を名乗ってんだよ」
「……辛くないか?」
「いんや、名前取られたぐらいでどうってことはないさ。それよりオレはディアブルバーラを作ってる悪魔を追ってんだ」
「復讐か?」
「そんなところだねぇ」
あまり多くは語らないが、トレイズは悪魔と契約してまで、ディアブルバーラを作る悪魔を追っている。
トレイズの実年齢は分からないが、たぶん16歳ぐらいだろうか? その歳でジョニーのような怪物と戦ってるのか……。
「トレイズ、お前さんの過去に何があったかは知らんが、その悪魔が見付かることを祈ってるよ。達者でな」
ジャンはトレイズに背を向けて事務所に向かおうとしたら、トレイズに手首を掴まれてしまった。
「何言ってんだよ。お前も手伝うんだよ」
「……はぁぁぁぁ?? なんでぇ?」
「だってお前が例のディアブルバーラを何処で仕入れたのか聞いてないし、それに運び屋ってのは人脈が広いんだろ? なら、お前の元でオレも運び屋稼業をすれば色んな情報が入ってきて、いずれ真相に辿り着けるはずだ」
「無理無理無理無理! もうあんなのと関わりたくない! ちょ、手離せ!」
「は~な~さ~な~い~」
ニヤニヤ笑いながらトレイズはジャンの手首を強く握り締め、ジャンは必死に暴れる。
「あ、そうか。オレのおっ◯いでも揉むか? そんなに大きくないが揉めばアソコが元気になるぞ?」
「なんでそうなる!」
「くく、冗談だ。それよりジャン、言っとくがお前はもう無関係じゃないぞ? 昼間のチンピラに追い掛けられたように、お前はこの街のマフィアに目を付けられてる。また殺されそうになると思うが、一人で自分を守りきれるかなぁ?」
「う、ぐ……」
「ここに最高のボディーガードが居るぜ? 雇ってみる価値はあると思うけどなー」
「……はぁ、お前、俺の神様になるとか言ってたけど、とんだ疫病神だな」
トレイズはジャンから手を離し、もうなんだか色々と諦めたジャンはトレイズの隣に来てタバコを口に咥えた。
「もうどうにでもなれってんだくそったれ」
愚痴をこぼしながらジャンはライターを取り出そうとしたが、トレイズは拳銃でタバコの先だけを撃って、それで火を付けてあげた。
「どうだ? 神様を名乗る悪魔から貰った火の味は?」
「あぁ、今までの人生の中で最高に不味いな」
こうして、トレイズはジャンと共に運び屋稼業をしながらディアブルバーラの行方を追うのであった。
この作品が出来た切っ掛けは、昔ゲームやってるとすぐキャラクターが死んでしまって、それを何度も繰り返していると「あーもう、なんで何度も死んじゃうんだよ。死ぬのが趣味なのかよ」て、変な独り言を言った事があったのが始まりです。
少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。