第九十七話 来年は出来るようになろうな
元日の朝、清々しいはずの朝は一つの悲鳴から始まった。
悲鳴が聞こえたかと目を覚ませば胸を思いっきり押されベットから落下。
強制的に起床する羽目に。
「ど、どうして間宮さんと一緒に!ここは......?」
「落ち着け加羅忍。昨日自分がなにしたか思い出してみろ」
そうすれば自分がしたことの重大さくらいは分かるだろうよ。
昨日はここまで計画通りじゃなかったのか?
まあ、酒に酔うなんて非常事態は予測できなかったか。
「昨日は初詣に行って......間宮さんに無理やりお酒を飲まされ目が覚めたら」
「そんな少年探偵みたいな筋書きはいい。加羅忍は酒入りの甘酒を故意が偶然か飲んで酔っ払ったんだろうが」
「わざと用意出来るわけないじゃないですか」
「どうだかな」
加羅忍という権力を振りかざせば酒くらい用意するのは簡単だろうよ。
「流石に、法に触れることは出来ないので。あまり不自由だと変えるだけですけど」
「法を変えるなんて言えるのは加羅忍だけだろうよ」
「ともあれ、酔っぱらった私を放置しなかったんですね」
「ああ。仕返しが怖いんでな」
「そうですね......間宮さんを女子高校に特別に編入させて差し上げましょう。私が通う予定だった高校です。お嬢様しかいないので外の穢れを知らない、上物ぞろいですよ」
「奴隷商みたいなこと言いやがって。自分が出来る最悪な仕返しだな」
だが女子に慣れつつある俺を女子高に送ったところである程度の会話は出来るようになってるはずだし楽しく過ごせると思うけどな。
「間宮さんは人とどれくらい一緒に居られますか?」
「一日が限度じゃないか。家族は別だが」
「一日で済むといいですね」
「そこまで俺が人気者のなるとは思えないけどな」
「お嬢様ばかりが集まる女子高というのは男というだけでも希少価値なんですよ。顔つきから声や性格、好みなどなど知りたいと思っている人は多いでしょう。それでもそんな余裕の笑みを浮かべられますか」
「それでも近づくなって威圧したら来ないだろ」
「好奇心は十六夜さんと同等かそれ以上でしょう」
「昨日の俺。マジナイス」
十六夜が複数いるとか遠まわしに俺を殺しに来ている。
ストレスで抜け毛が増え、さらには自殺に追い込む気だ。もし俺が普通の男子高校生だったら楽しめたんだろうけど。
「でも家に泊めてもらった挙句添い寝までしてもらって」
「悲鳴あげて人のことをベットから突き落としたのに?」
「傷つきましたか?」
「いや、颯太が起きてないか不安なだけ」
あと警察を呼ばれてないかということだけだ。
「なにか服を貸してもらえますか?」
「なんで。帰れよ」
「寝汗をかいて気持ちが悪いんです。サイズが合わないってことはないので」
「帰れば全て解決する問題だろうが。お前が口封じしたじいやにでも頼めよ」
「夏鈴さんが後で来ると思いますけど、全員呼びましょうか?もし服を貸してもらえれば私は隠れますよ」
「俺は部屋を出る。そこのタンスに入ってる服を好きに着ろ」
残念なことに俺の体力は有限なんだ。元日から疲れたくはない。
颯太に付き合って疲れるなら全然嫌じゃないのに。
深層心理って不思議。
加羅忍が着替えている間、俺は加羅忍の靴を隠したり消臭スプレーなんかで偽装工作をした。
女は匂いに敏感っていうし、相手は夏鈴。気配で知られてもおかしくないから念のため。
「にいに。あそぼ」
正月の特番でライダーシリーズをやっていたせいか、颯太は俺が買ってもらったライダーベルトを腰に巻き「へんちん」と繰り返していた。
「いいぞ。なにして遊ぶ」
「へんちん!」
「ライダーごっこか」
俺も昔やったよな。唯一駄々こねて買ってもらったのがライダーベルトだ。
俺の世代のものだから当然颯太は知らないが、今も楽しそうに腰に巻き付けて遊んでいる。
いつか見せてやりたい。
「へんちん!」
颯太がおもちゃのスマホをベルトに近づけると独特の機械音と共にベルトが光出した。
「楽しいか」
「うん!にいにもやる!」
加羅忍は......まだ着替え中か。
やるなら今だな。
構えを取って手を腰にやる。そしてこう言う。
「変身!」
ベルトは颯太の腰にあるが俺の頭の中では昔に何度も再生された変身シーンが繰り返される。
あの時は純粋に楽しめてたなー。今は「スタントマン大変そうだな」とか思っちゃったりするのに。
「にいに!もっかい!」
「いいぞ。颯太も一緒に」
兄弟そろって元日からリビングでライターに変身した。
普段あまりかまってやれない分、今は存分に遊ぼう。加羅忍もすぐには降りてこないだろうし......。
「どうぞ続けてください」
俺が顔を上げるとカメラを構えた加羅忍の姿が。
今から撮る予定なのか、それとももう撮った後なのか。それは加羅忍のスマホが教えてくれた。
「可愛いですね」
「出ていくか消すか選べ」
「これを拡散されるか元日という日を私に献上するか選んでください」
あれ、いつの間にか立場が逆転してしまった。
仕方ない。あまり使いたくない手ではあるが。
「悪いな。今日は颯太と遊ぶ日なんだ。普段遊べてやれてないからな」
「やた!」
「では颯太くんも一緒に遊びましょうか」
「あーも一緒!」
颯太。そこは目を輝かせる場面じゃないぞ。侮蔑と嫌悪の目で見る所だ。
だが三歳児には難しいか。
来年は出来るようになろうな。




