第九十六話 凶の悪運
ガチャは悪い文明ということを再確認した。
厄払いのお守りも買ったしこれで少しは厄を払って欲しい。
今引っ付いてくる十六夜美咲という最厄を。
「おれはそろそろ帰るぜ。早く寝ておせち作んなきゃだからな」
「確かに眠いな」
時刻は夜中の一時を過ぎて境内の中にも人が少なくなっていて寒さが際立つ。
一つ問題があるとすれば、これだ。
「間宮しゃん。好きでしゅ」
「誰だこいつに酒入りの甘酒飲ませたの」
加羅忍からはほのかに酒の匂いが漂ってきた。
おかげでこの甘えん坊加減に上気する頬はリンゴのように赤く染まっている。
普段は感情をひた隠しているためこうして感情をそのままぶつけられるとまた煩悩滅却ビンタが必要になってくる。
「この運営が謝ってました。雰囲気が大人だから年齢確認もせずに渡してしまったと」
「その大戦犯はどこに?」
「酔っぱらいの喧嘩の仲裁に行きました」
「はぁ......新年早々なにしてんだよ大人たちは」
「とりあえず家の人に電話しなきゃだけど......どうするの?」
「幸いなことに、加羅忍の執事の電話番号を知ってるから。かける」
修学旅行の時に非常時にと交換しておいて本当に良かった。
「出ない」
「なんで?」
「なにがあっても電話には出ないように言いつけておきましたぁ」
「置いて帰るぞ。酔っぱらいどうしオッサンと仲良くな」
そのままお持ち帰りされて自分がしたことを一生恨むがいい。
「連れてって上げないの?」
「なぜ男の俺が連れて帰るんだよ。元旦から女をお持ち帰りしたくない」
元旦以外でも嫌だけど。
「でもこのままじゃ風邪ひくぜ。確定で」
「誰か女の中で連れて帰ってやろうという優しい心の持ち主はいないのか」
「違いますよ」
「なにが」
「なんでアルコール入りの甘酒を飲んだと思う?」
「知るか。間違えたんだろうよ」
「それでも匂いで気づくって」
確かに、ほとんどの酒はアルコールの匂いがする。
鼻が詰まってない限りコップに口をつけた段階で気づくはずだ。加羅忍もきっと気づいただろう。
ではなぜ飲んだか。
「ただ単に俺に迷惑をかけたかったんだろうよ」
「それなら執事さんに電話に出るなって釘を刺す必要はないんじゃない?」
「もっと簡単に理由です」
「俺の家に泊まりたいからか」
「そうです」
なんて厄日。
厄払いのお守りの効力が既にキャパオーバーで発揮していないのかもしれない。
こいつ、諸悪の根源だしな。
「どうやって連れて帰ろうかね」
「お姫様だっこー」
「黙れ酔っぱらい。腕貸すから自分で歩け」
白山神社から俺の家まで徒歩で十分弱ある。
途中坂道もあるのに女子を抱えたまま移動ってのは不可能だ。
普通に重いしな。
十六夜達は不満そうではあったが一人酔っぱらいのため静かに帰ってくれた。
加羅忍の酔いが醒めた時が怖い。
家に帰ると当然真っ暗で俺の部屋に行くための階段すら見えない。
「重い!」
「ふへへぇ」
「今すぐ階段から突き落としてやろうか......」
虚勢を張っても加羅忍がいつもの様子に戻ることはなかった。
多分これ、作戦を立てたはいいが自分のアルコール耐性を見誤って本当に酔っぱらってる奴だ。
じゃなかったら相当な演技力だ。将来、悪役女優になることをお勧めする。
「重かった......腰が」
命と引き換えに腰を痛めたがこれでもう安心だ。
俺のベットに加羅忍を寝かせると俺は押し入れから敷布団と掛布団を取り出した。
時雨の時も十六夜の時も敷いたはずなのに二人とも一度も入ることはなかったこの布団。
着替えて布団に潜る頃には疲れが一気に押し寄せた。
そして、押し寄せたのは疲れだけではなく物理的な温かさもだった。
「お前......ベットに折角運んだのに」
「いや。いっしょ」
「臭いから近寄るな。酔っぱらった女と一緒に寝られるか」
匂いで気持ち悪くなる。
将来俺は酒飲みにはならないだろう。
「間宮しゃん。すき。だいしゅき。こんな私でも優しくしてくれるから」
「喋るな。寝ろ」
「最初は自信がありませんでした。人が良くしてくれるのは加羅忍家だからだと思ってました。でも......違いました。違うと証明してくれました」
「なんども言うが、特別扱いを知らなかっただけだ」
知ってたとしてもやらなかったけども。
「ふへへ。ありがとうございます」
酔っぱらっても笑い方は柔らかい。ふらりとした笑いではなくへにゃと幼く笑う。
こんなん好きにならない方がおかしい。
そう。だから俺はおかしいんだ。こんな無防備に素を晒していてもなんとも思わない。
せいぜい呼吸が大変そうだなということくらいだ。
当然手を出そうなんて恐ろしい考えも浮かばない。普通の男なら秒で手を出しただろうに。
酔っぱらっているせいか、加羅忍の寝つきはものすごく良かった。
その代償として、俺の寝つきはものすごく悪かった。




