第九十一話 煩悩滅却ビンタ
十二月二十五日というのは世間が最も愛と嫉妬と憎悪で溢れる日だろう。
間宮家でも愛と憎悪が渦巻いていた。
「べたべたするな。邪魔くさい」
「今日はいいの」
「胸が当たってるんだけど」
「当ててるの。いや?」
「嫌」
「ツンデレさん」
同じ国の言語でもコミュニケーション取れないってどうすればいい。
仕方ないと割り切っているとはいえ、べたべたされるのは普通に嫌なんだ。
動きにくいしむにゅっと胸が当たるたびに心臓が跳ねる。
「今日一日、このままくっつく気か」
「うん。こうしてダラダラしながらスマホいじったりするの」
「なにが楽しいんだか」
「間宮も誰かを好きになったら分かるよ。その時にわたしを選んでくれたらもっと分かると思う」
「そうかよ」
たとえ誰かを好きになってもこの時間だけは分からないと思うが。
ま、ぎゃあぎゃあと騒がれるよりは全然いい。
このまま何事もなく今日を終えよう。
「このまま今日を終えようって思った?」
「思ッテナイヨ」
「なら良かった。間宮のところはクリスマスパーティーする?」
「しないな。颯太にプレゼントは用意するけど」
「ならやらない?わたしも手伝うし間宮もやればそれなりに出来ると思うけど」
「面倒な。一度やったら颯太が覚えるだろうが」
「そうなったら来年もやるの。どっちかが死ぬか......家庭を持つまで」
死ぬか家庭を持つまでね......なんの得があるのやら。
颯太に得はあっても十六夜に得はないように思えるんだが。
「やるのは構わないぞ。俺はな」
「やった!なら色々用意しなきゃ!」
部屋でダラダラするというのはなんだったのか。思いついたらすぐ行動に移せるのその行動力は見習いたいもんだ。
着替えて外に出ると冬の冷たい風が体全体を撫でた。
寒すぎる。この風だけで外に出るのが嫌になる。
「ほら、行こ」
嫌になるのはどうやら俺だけらしい。
十六夜に手を引かれ近くのスーパーにやって来た。
「なに作るんだよ。料理は出来なくはないがそんな凝ったものは作れないぞ」
「大丈夫。わたしもそうだから」
「不安しかない」
夏鈴の力がない分、慣れない人同士でやらなきゃいけない。
となると自然と買うものは決まった。
「お肉ってどっちがいいと思う?」
「安い方」
「どっちが安い?」
「百グラム当たりの値段を見れば簡単にわかる。中身が同じ肉ならな」
豚と牛でだいぶ値段が違うし高校生が買うとなると牛には手が出しずらい。
それを人数分集めるとなるとどうしても金額がかかってしまう。
「ケーキは親が買ってくるから......すき焼きでもするか?」
「クリスマスぽい?」
「豪華であればなんでもよくないか?それともなにかやりたいことが?」
「......間宮と料理がしたい」
俺は重い一撃を自分の頬にぶつけた。
パンっ!という音と共に俺はしゃがみこんだ。
「な、なにしてるの!?いきないビンタしてどうしたの!?」
「煩悩滅却のビンタだ気にするな」
「煩悩?......わたしに欲情したの?」
「違う。ただ、可愛いと思ってしまっただけだ」
「え、どの仕草?どこで可愛いって思った?」
「......そればっかやったらうざいだけだからな」
「ほどほどに適度にやるから教えて!」
「嫌だ」
「クリスマスぽい?」
「やり直しはしない」
もし俺のツボが知りたいならタイムマシンで過去に戻るか死に戻りの力でも手に入れたらいい。
俺はいいや。地獄を何度も巡るほど暇じゃないしマゾでもないんでね。
「野菜でも買えば形作るなりで一緒に出来るだろ?」
「デレた!やっぱりツンデレじゃん!」
「やかましい。早く買って帰るぞ」




