第八十九話 謎マウント
十一月も中盤になり保健室も寒いはずなのに、俺の周りはとても暖かかった。
「離れろ貴様ら。暑いんじゃ」
「離れたら寒いよ?」
「寒いくらいが丁度いい」
寒いなら下にヒートテックだとかセーターだとか着る。
「体温調整くらい自分でしっかりしろ」
「温めて」
「すり寄ってくるなぁ!」
人が集まればその分気温が上がる。
加羅忍真尋というお嬢様が一歩前に出たことにより、他の三人が過激化してしまった。
所かまわずくっついて来たり、アピールが露骨になった。
まあ、露骨になったのは騒音兎だけだが。
「ちょっとは時雨たちを見習ったらどうだ」
「不安なの!あんな場面見せられて!」
「おれたちは見てないからな。どうせいつものからかいだと思ってるぞ」
「真尋さんからそういう意識というのを感じないので」
この性悪女を侮るな。
自分の真意を隠すことだけならこの中の誰よりも上手い。
真意を隠し相手に近づき一撃で仕留める。それが加羅忍真尋のやり方だ。
「そんなこと言ってると私がもらっちゃいますよ?」
「余裕だな。狼斗の性格もよく知らないくせに」
「わたし知ってる!教えてもらったから」
それは情報漏洩という不正に手に入れた情報だろうが。
「狼斗さんのことで私に勝てますか?」
「コレ、なんのマウントの取り合い?」
「これから知ればいいのです。天月さんだって、一年前に好きと伝えたわけではないんですから」
「俺の話聞いてる?」
「そうだよ!情報ならわたしが勝つもん!」
「聞いてないと」
それなら俺のことは開放して四人で仲良く推しのアイドルのことでも語り合っててくれ。
四人全員が同担でしかも同担拒否という魔境さよ。俺なら居づらすぎて、瞬間スケープする自信がある。
俺のことを話しているのに本人のいうことはガン無視という矛盾。
「間宮さんに聞きますね」
「なに」
「この四人の中で付き合うとしたら誰と付き合いますか?」
「ノーコメント」
「つまり頭一つ分でも飛び出ている人がいるということですね」
「なんでそうなる。普通に居ないからだ。誰が欠点だらけの女子を好きになる男がいる」
「好きでなくとも認めさえすれば気にならなくなります」
「認められる努力をした覚えがある奴はいるのか?」
俺が問いかけても全員気まずそうに顔を少しそらした。
誰も変えようと思ってないわけだ。
「わ、私はしました。皆さんと触れ合ってコミュ障を克服しようとしました」
確かに時雨は極度の人見知りだったが今はただの人見知りまで落ち着いている。
ま、普通の人とはちょっとばかし違くて話すのに体力を消費するから慣れるのには丁度良かったんだろう。
そこは時雨の努力だ。俺はあまり人見知りしないが大変さは少し理解出来る。
「時雨は分かった。あとの問題児ABCはどうなんだ」
「こ、これからやる。頑張る」
「私は直す気はないです。これが加羅忍真尋という女ですから」
「おれはどう直したらいいのか分からない。から無理だ!」
なにを思うかは自由だし直す直さないも自由だ。
俺がどうこう口出しする箇所でもないし、好きにしたらいい。
好きにすればいいとは思うが、その面倒さを持ったまま俺に絡んでくるな。
俺と仲良くしたいならその面倒さを直してからにしてくれ。
「では直すので協力してください。他の人では頼みにくいことでも間宮さんなら頼めることもあるので」
「直せっていうからには協力しろよ」
「俺は結構協力してるつもりではあるが?足りないか」
「まったく足りないですね」
「ずるーい!わたしも間宮使う!」
「人を道具みたいに言わないで」
十六夜達から人間として見られなくなったら俺の体はぼどぼどになってしまう。




