第八十八話 ことごとく選択肢をミスする
ゆっくりと加羅忍の唇が離れ、それと同時に満面の笑みが見えた。
「おい。なんのつもりだよ」
「お詫びです」
「は。俺がそれで満足するとでも?」
「処女を寄越せと言うんですか?」
「そんなもの要らん。キスなどの親密な関係性でしか起こりえないことをして許されるのかって話だ」
「なんでそんなに難しく言ったんですか?」
「お前が揚げ足取りそうだったから」
ふわりと笑う加羅忍はさっきのキスはやはり許してもらうためのものだったようだ。
過去三人からやられた時は、キスの後に顔は赤らめるは目は潤むし一回じゃ済まないし色々な方面でよろしくない。
「重い。体重をかけるな」
加羅忍は俺の首にぶら下がるように体重をかけた。
おかげで加羅忍に壁ドンをしたような体勢になり動けなくなった。
腕でなんとか支えていると横からカタンという軽い音が聞こえた。
「な、なにしてるの?」
「十六夜。助け......」
「間宮さんにキスしました」
「っ!」
「あとで説明するから今はこいつを」
「そうなんだ」
「はい」
「あれ、俺のこと見えてない?」
俺の助けてはガン無視で二人はなにやら険悪な雰囲気に。
そろそろ首が痛くなってきたから助けて欲しいんだが。
「真尋ちゃんも間宮のこと狙ってるの?」
「違うぞ。十六夜これはな......」
「はい」
「おい。話をややこしくさせるな」
「なにもややこしくはしていませんよ?」
「お前さっきお礼だって言っただろ」
「そうですね。今のはお礼です」
話が全く見えない。
「では聞きますが、好きでもない人の彼女役になると思いますか?」
「いや、あれは友達として......」
「友達だからといって彼女役になるとは限りません」
いやまぁ、考えてみればそうか。
てっきり加羅忍は面白そうだから、協力してくれているものだとばかり思っていたがそうではないらしい。
加羅忍にも明確な目的があったようだ。
「私だって女子高生なわけですし、楽しみたいわけですよ」
「間宮狼斗という男の大事な時間を削ってな」
「美少女に削られるなら本望では?」
「やかましい」
そもそも女に時間を削られること自体が時間の無駄なんだよ。
俺が悪い又は、ライフセイバーの時なんかの致し方ない時以外は基本的には削られたくはない。
ま、そんな願いが叶うならこんなことにはなってないだろうが。
「間宮はどうなの」
「どうとは」
「えっと......ほら、真尋ちゃんは頭もいいし可愛いしお金持ちじゃん?だから本気出されたらわたし達は勝ち目ないの。だから......コロッといったりしない?」
「十六夜は俺のなにを見てきた。どんなに甘えられようと、どんなに俺だけに心を引かれようと、どんなに家庭的であろうと、俺は一度でも好きと言ったことがあるか?俺からの意見は全員横一線だ」
加羅忍と初対面の時にも言ったが、金持ちだからというのは異性に求めるものには入らない。
あるに越したことはないのは確かだが。
「よかった。やっぱ間宮だ」
「褒められてる感じがしない」
ほっと、胸を撫でおろす十六夜だが俺からすれば胸が詰まる思いだ。
情報魔で甘え上手、十六夜美咲。
俺の前だけふにゃふにゃ、天月時雨。
お金持ちで諸悪の根源、加羅忍真尋
外だけヤンキー、戸塚夏鈴。
この色物四名から好意を寄せられてるわけだ。なるほど。
「とりあえず半そで半ズボンで山登頂してくるわ」
「凍死しますよ」
「そうだな」
俺に残されたのは逃走という手段だけだ。
そして現世にいる以上追跡を振り切れないのなら、黄泉の世界に逃げるしかないんだ。
「十六夜さん?私がこのまま体重をかけるので押さえてください」
「分かった!」
「悪かった。どこにも行かないから近寄ってこないで欲しい」
「だーめ」「ダメです」
ことごとく選択肢をミスするな......俺。




