第八十七話 ウソダドンドコドーン!
加羅忍と作戦を練り、ついに計画を実行に移す時。
制限時間はたったの十分。仕事が忙しく、その程度だと聞かされた。
恥も外聞も捨てる勢いではいくが、緊張で心臓が痛い。
「大丈夫ですか?」
「ん。ああ、ま、任せとけ!」
「声、震えてますけど」
「俺の自由がかかってんだよ。震えもする」
これが無事終われば、俺は自由だ。
恋愛なんて意味不明で分からないものに振り回されることもない。
俺に女子との恋愛は数十年早い。
「かけます」
加羅忍のスマホから発信音が聞こえ、それと同時に俺の目頭が熱くなる。
「どうしたんだ?真尋」
「お父様。間宮さんがお話があるそうです」
「かわってくれ」
加羅忍からスマホを受け取った。
相手は大企業の社長。加羅忍も言っていたように丸め込まれる可能性もある。
やるなら先手必勝だ。
「真尋さんをお、僕に!ください」
よし、第一関門突破。
正直、本人を目の前にして言うのは躊躇われるが緊張でそれどころじゃない。
「幸せにするならいいよ」
「か、軽くないですか?」
一人娘ならもっと大事にして嫁に出すところは慎重に選ばないとだろ。
「もし不幸せにしたら存在を消えてもらうけどね?」
「え」
「当然だろう?ぼくの大事な一人娘なんだから」
声は飄々としたままなのに、言葉の重みは数千倍。
存在を消すなんて言葉が似あう且つ言える人なんてそう居ないだろうよ。
「も、勿論です」
「んん?声がどもったけど?」
そりゃ命がかかった嘘だからな。バレたら殺されるんだから。
「僕は真尋さんと一緒に居たと思っています」
「うん。いいよ。でも真尋からマイナスの報告を聞いたら......ね」
「はい」
「でもなんで急に?」
「真尋さんを海外に連れ戻すと聞いたもので......」
「え、そんな話してないよ?」
「え?」
「え?」
どういうことだ?
そんな話なかった?え?ここ数日の作戦会議はなんだった?
それにあの感情が籠った言葉と涙はなんだったんだ。
「数日前に電話しましたよね?」
「ああ。十一月にも入ったし、状況確認の電話をしただけだよ?」
「真尋さんが泣くような話題は」
「ないねー」
「ちょっとすいません。今の忘れてください。ちょっと解釈の相違が出てしまって......また話がついたら電話します」
俺は電話を切るのと同時に走った。
勿論、逃げた狐をぶっ殺すため。
「待てゴラ!逃げんじゃねぇ!」
長い廊下を全力疾走。
いくら俺が保健室登校で体育の実技に出ていないとしても変わりに、バイトで散々動いてる。
なんなら、夏休みの炎天下を走り回ったことだってある。
自分が鍛えた奴に追われることになるなんて思ってもいなかっただろうに。
階段手前で壁に押さえつけ、絶対に逃げられないようにほぼ密着状態までもっていった。
これでも鳥肌が出ない程度には羞恥に燃えている。
「なんでこんなことした。赤っ恥だぞおい!」
「『女子恐怖症』の間宮さんがどこまでやってくれるのか気になっただけです......フフッ」
「笑ってんじゃねぇよ。今ならお前を殺せそうだ」
「殺してみますか?この階段から突飛ばせば私は死にますよ?」
「ああ。そうだな。お前が国を代表出来るほどのお嬢様じゃなかったら殺してるところだよ」
今感情に任せて加羅忍を殺せば俺も死ぬことになる。
そうさっき教えられたからな。こいつの父親に。
「二度とすんじゃねぇぞ」
「声、怖いですよ」
「なんでだと思う?」
「分かりません」
可愛く言う加羅忍は本気で突き落としたくなる。
「危うく『女子恐怖症』に『人間不信』が追加されるとこだったぞ」
「ごめんなさい」
可愛く舌を出す加羅忍は本気でそのベロを切り落としたくなる。
「許してくれるんですね。結構面白かったですけど」
「は、許さないが。ちゃんと電話で説明しとけ。あと金輪際、俺には関わるな。今日中に出ていくから」
「鈍い人」
俺が声を出す前に加羅忍の顔が目の前に迫った。
下がろうと体重を後ろにかけるが、首に回された腕により引き戻されてしまった。
なんとか頭がぶつかる前に腕で支えたものの、依然超至近距離。
「危ないだろうが」
「鈍い人」
今度は不貞腐れたような表情で言われた。
「なにが」
「なぜ私がこんなことしたと思いますか」
「知るか。ただの暇つぶしだろうが。こんちきしょう」
「違いますよ?」
「じゃあなんだってんだよ」
「親公認になれば間宮さんも諦めないかなと」
「本当にマジで一回死ぬか?ん?」
「許してください」
加羅忍は俺の頭を引き寄せられたと思ったら、柔らかい唇に俺の口は塞がれた。




