第八十五話 いくら女子だろうと耐えられない
パーティは特に問題なく終わり、解散となった。
俺は颯太がお眠なため、部屋に戻った。
「なんでこっち来るんだよ」
「いいじゃん。少し話そ?」
「話すことなんてなにもない。颯太が起きるから十六夜も戻れ」
「いーや」
部屋の鍵を開け、颯太をベットに寝かせた。
俺が寝るにはまだ早く。時刻は夜の十時。寝るには早いと言っても騒ぐ時間帯でもない。
「今すぐ離れないなら廊下に放り出すぞ」
「ちょっとだけ。この前、夏鈴ちゃんとデート行ったんでしょ?」
「行ったな」
「ズルくない?」
「なにが。夏鈴は自分の命令権を行使したまでだ」
「ならわたしも使えば行ってくれる?」
「まともな場所ならな」
ただ十六夜はこの程度じゃ使わない。
折角俺を自由に出来る権利を持っているのにそう簡単に使うわけがない。
一応常識を守るようには言っているが十六夜の常識が俺の範囲外だった場合、来るべき未来は見えてしまう。
むしろそうなる可能性が高いとすら考えている。
「じゃあ、例えばわたしが間宮に「一日中一緒に居て」って言ったら?」
「可能な限りなら」
「ううん。お風呂とかも一緒だよ」
「常識の範囲内でって言っただろ」
「高校生が男女でお風呂に入るのもどこかの世界線では常識かもしれないじゃん?」
「脳内妄想の話なら他でやってくれ」
そんな世界線の話をしたら常識なんてないも同然だ。
こっちは今を生きる世界線の話をしてんだよ。対等な話じゃないなら地獄に付き合うほど暇じゃない。
「じゃあまだ使わない」
「好きにしろよ」
「なんで「なんでも一回言う事を聞く」なんてことしたの?間宮は絶対にやりたくなかったよね?」
「そうだな」
「なんで?」
そんなのは簡単だ。
感情というものを弄んだからだ。
十六夜、時雨、夏鈴から寄せられる好意から俺は逃げた。しかもただ逃げたんじゃなくなかったことにしようとした。
最低と見下されて離れていってもおかしくなかった。それでもいいと思っていたから逃げた。
けど、怖くなったんだ。
「簡単だ。慣れるためだ。人間関係において好意を持たれる以上の関係性はない。ならこれに慣れてしまえば普通に話すくらいはわけないって魂胆だ」
「本当?」
「嘘言ってどうするんだよ」
俺は十六夜と目を合わせて言った。
ここで逸らせば噓だと言っているようなもの。噓も方便とはよく行ったもの。
嘘つきが処刑される世界だったら俺は今頃地獄だろう。ま、今と変わらないってわけだ。
「ならもっと強くぶつけた方がいい?」
「体が持たないから今より緩めてくれると助かる。俺の腕に巻き付く腕とかな」
「それは無理かなー。間宮だって好きな物くらいあるでしょ?」
「あるな」
「それを嫌いになれって無理な話じゃない?」
「過多な接触は十分嫌になると思うんだが」
「そう?わたしはならないけど」
世の中にいろんな人がいるのは分かっているがこうも自分と真反対だとどう対応していいか分からない。
「そこまで熱中できるのは素直に羨ましいな」
「もっとわたしに夢中になりたい?」
「ないな」
「ならこうするのが早いよ」
十六夜は絡めた俺の腕を自分の体ごと後ろに引いた。
座った状態から人の体重に耐えられるわけもなく当然俺は後ろに倒れた。もう少しでベットに頭をぶつけそうになった。
「おい、危な......なにする気だよ。やめろ。降りろ」
十六夜は俺の肩を押さえると腹辺りに馬乗りになった。
逆光だからか十六夜の瞳が紫紺だからか頬が赤いからか十六夜がもの凄く怖い。
起き上がろうにも腹に座られているため動くことが出来ない。どんなに勢いをつけようとも人の体重を持ち上げるほどの力は俺にはない。
「早く逃げないと大変なことになるよ?」
「もう少しでいいから下に下がってくれ」
「いーや」
どうする。間宮狼斗。自力での復帰は絶望的。助けを求めようにも誰に助けを求めても状況が変わるようには思えない。
事態が好転する人といえば啓介先輩だが説明が面倒なのと俺の声をかき消される可能性がある。
そうなれば余計に収集がつかなくなる。
なんとか抜け出す必要がある。ただどうすれば抜け出せるのか皆目見当もつかない。
「抵抗しないの?」
「今考えてるから話かけんな」
正直詰みだ。辛うじ肘から先は動く。これで抵抗するしかない。
相手が出来ること全てをしてくるのに対し対抗手段が弱すぎる。
腕という脆い武器は当然すぐに使い物にならなくなった。




