第八十三話 女子に誕生日をおめでとうと言われる恐怖
十六夜からなにもアクションがないまま十月も後半になった。
時雨、加羅忍、夏鈴との地獄は終わった。
だが最大の地獄。地獄の深淵、煉獄といっても差し支えないくらいの奴が残っている。
「十六夜。あとはお前だけなんだが」
「えへ」
「俺はやらなきゃいけないことは手っ取り早く済ませたい性格なんだ」
「んー。結婚して?」
「ぶっ殺すぞ。お前が着るウェディングドレスを真っ赤に染めてやる」
「あ、着せてくれるんだ」
照れる箇所が間違ってる!なぜそこで照れる。
ドレスを血で染めることに恐れろ。
「正直四人の中で一番お前が怖い」
「楽しみにしててってば」
「内容だけ教えてくれ」
「秘密」
「ちっ」
マジで分からない。なにをするつもりなんだ。
直近で狙われそうなのは俺の誕生日だが、それは時雨すら知らない日だ。
あの鳴川先生ですら知らないはずだ。どこにも書いてないから。
「どこでもいいが、高校生の俺でもできるものにしてくれ」
「うん。絶対に出来るから大丈夫」
「ってことはやることは決まってるわけか」
「うん。決まってるよ。あ、誘導尋問には乗らないし絶対に教えないから」
「どうしたら教えてくれる?」
「うーん。一週間絶対に歯向かわないとか?」
「やっぱいいわ」
なんで地獄に二度も落ちなきゃいけないのか。地獄に落ちるのは一回で十分だ。
青春を棄権するという地獄はな。
十月も終わりの十月二十九日。
今日は俺の誕生日であり、特別な日だ。
隣では颯太がルンルンと目を輝かせていた。
「にいに。おめえと」
「ありがとな」
「ケーキ!」
「そうだな。今日の夜な」
颯太の場合、ケーキが一番楽しみらしい。
リビングに行けば焼いたパンの香ばしい匂いが鼻につく。
「間宮おはよぉ」
「寒いなら着ろよ」
「くっつけば平気ぃ......」
朝から十六夜が体重をかけてきて重い。
夏鈴と時雨で朝食を作り俺たちは後から座るだけという最高の環境。
家では極力寝ていたいから朝食はいつも食べないで学校に行くのに、加羅忍家に泊ってから毎日おいしい朝食が出てくる。
「朝から結構豪華だよね」
「夏鈴と時雨は大変じゃないのか?」
「別に。おれはこういうのは好きだし、慣れてるからな。毎日の習慣だ」
「私も別に。朝食を作る練習もしないとなので」
「そうか。ならいい」
泊るごとに夏鈴と時雨が料理を作っているため無理しているのではと思っていたが杞憂だったか。
朝食が済めば全員が着替えて学校へと向かう。
俺も着替えて颯太も着替えさせなきゃいけない。故にウサギに構っている暇はない。
「寒いね」
「パンツを見せるなビッチが。吐き気がする」
「いつもの間宮だ」
「お前に対する対応が一度でも変わったことあったか」
「ないね」
「ならとっとと準備してろ。こっちはまだ終わってないんだ」
十六夜が居ようと関係ない。
俺は上を脱ぐと肌シャツを着ようとした。だがその前にひんやりとした何かが俺の背中に触れた。
「冷たいんだよ」
「冷え性なの。温めて?」
「お湯でも沸かしてその中に突っ込め」
「人肌がちょうどいいー」
「お前」
「いいじゃん。少しくらい。皆が間宮といるせいでわたし全然居れてないんだよ?」
「そもそも一緒に居たくはない」
俺の気持ちは半年前からほぼ変わっていない。
女子は怖いし嫌いと。変わった箇所といえば誰彼構わず噛みつくのを止めた程度だ。
あとは......養護教諭への敬意がなくなったくらいか。
「あまり意地悪するともっと酷い命令にしちゃうよ?」
「既に十六夜の命令を聞くことが酷いから」
「そっか。最悪の日にしてあげる」
「上等ダヨ。カカッテコイ」
「声震えてるよ?」
「うるせぇ。颯太送ってくるから俺はもう出るぞ」
「うん。いってらっしゃい。あ・な・た」
「ぶっ......はぁ~」
ぶっ殺すは颯太の教育に良くない。
俺に使うならまだいいが、保育園で友達同士で使ってしまったら親に迷惑がかかる。
颯太を保育園へと送り届け、学校についたのはやはり遅刻ギリギリだった。
「あ、来た」
「授業はどうした」
「今日は間宮と遊ぶ日」
「そんな日は廃止にしてやる」
「だーめ」
誰かこの兎をつまみ出してくれ。
まあ、唯一の権利者がコレじゃな......希望は薄い。
「不純異性交遊はダメだぞー。教育上よろしくないし私の責任にされるからな」
「はーい。イチャイチャするだけにしまーす」
「ヨシ」
「ヨシじゃねぇ」
「あ、そうだ」
「今度はなんだ」
「お誕生日おめでとう。間宮ぁ」
甘い声で耳元でそう囁かれた。




