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第八十二話 虎視眈々

水族館を後にした俺たちは近くに建つ遊園地へと向かった。

これもまたほぼ海の上に立っている状態なので寒い。


「狼斗は絶叫系とかいける?」

「余裕だ」


お化け屋敷などホラーテイストのものは無理だがジェットコースターくらいなら乗れる。


「よっしゃ、乗ろうぜ!」


コースターの列に並んでいる途中にも「きゃー!」という声が聞こえてきて緊張を増幅させる。

どうやったらあんな高い声が出せるんだろうか。ガラスのグラスをそばに置いたらそのままパリンって割れそうなくらい高い。

夏鈴の悲鳴は聞いたことないけど......夏鈴も出すのだろうか。あんな高い音を。


「おれジェットコースターとか乗ったことねーや」

「大丈夫か?結構怖いぞ、初めてだと」

「狼斗がいけるって言ったから大丈夫だろ。ダメになったらサポートしてくれ」

「面倒な」


そう言っているうちに俺たちの番に。

ここのジェットコースターは乗ったことないしスピードも分からないしコースも分からない。

正直怖い。遠心力で飛ばされそうになるし脱輪するのではと考えると足が止まる。

まあ、俺の足が止まっても夏鈴の足が止まらなきゃそのまま進むことになるだが。

座席に座って安全バーを下げる。


「メッチャ楽しみー。最前列だとやっぱ迫力が違うよな!」

「そうだな。俺はメッチャ怖い」

「なら手握ってやるよ」

「意味が分からない」

「いいから。人に触れてると少しは気が紛れるだろ?」

「え、全く」


夏鈴に手を握られたところでこの恐怖は紛れない。

むしろ寒気がするんだが。


「いいから」

「よくない」

「暴れんなって」


手を振り解こうにも安全バーが邪魔であまり動かすことができない。


「動いたから動くなよ」

「手、上げなくていいのか」

「片手上げるし」


まだ周りの視線がないからいいものの......後ろの人には聞こえてるよなーこれ。


カートが最初の坂を上ると海と辺りにあるアトラクションが一望できる。

空は晴れていて海がキラキラと光って綺麗だ。視線を下にやれば家族ずれやカップルなど様々な人が思い思いの時間を過ごしている。


「なぁ」

「ん?」

「おれ、お前のこと大好きだぜ。多分、今まで出会った男の中では一番な」


満面の笑みとともに夏鈴が笑えば前から特大の重力がかかる。

カートに乗っていて尚且つ安全バーがあるから落ちないって分かっていても怖い。


苦行が終わったのは三分後。なのに体はガクガクで一時間も乗っていたかのようなフラフラ感が襲い掛かっていた。


「おいおい。情けなさすぎないか?いけるって言ってただろ」

「いけると思った時期もありました」

「ほら、ベンチに座れよ。んで、水」

「さんきゅ......」


水を飲んだら少し楽になった気がする。楽になってすぐにツッコミどころを作らないで欲しい。


「な、なんだよ。なにも入れてないぞ」

「夏鈴こそ、そんなペットボトル見つめてなにしてんだよ」

「いや、おれも喉渇いたなーって思っただけだ」

「なら新しいの買ってこい。それ、俺が飲んだやつだから」

「おれ気にしないから」


夏鈴はそういうとペットボトルに口をつけ飲み始めた。


「これで間接キスだな」

「それがやりたかっただけだろ」

「流石に往来でキスするほど馬鹿じゃなからな」

「どうだか」


間接キス想像して躊躇って顔赤くしてりゃ世話ないって。


それから俺たちは遊園地を満喫した。

水族館含め五時間くらい居たと思う。結構遊んだ。


「今日はあんがとな」

「ま、報いだと思えばなんてことない」

「そうかよ」


今日は疲れたし、颯太と一緒に風呂入って寝よう。明日の学校に響く。

それに早くこの空気から抜け出したい。


「ほら、早く入るぞ」

「おう」


早く二人きりの状況から抜け出したい。こんな甘い......空気から逃げたかった。


「へへ。ありがとな」


夏鈴はペロっと唇を舐めると屋敷に入っていった。

やっぱり我慢させたのがダメだったか。

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