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第八十一話 荒っぽくてもちゃんと乙女

海辺にあるイルカは吹きっさらしになっているため風が吹くととても寒い。

防寒着を着ているとはいえ、風が吹けば鳥肌が立つ。


「夏鈴は大丈夫か?」

「お前のおかげで温かいよ」

「ならいい」


この際膝がくっつくくらい密着していることには目を瞑ろう。

今は寒さを凌ぐことが優先だ。


「こんなに密着するのは初めてだよな」

「そうか?まあ、確かに密着度で言えば今だけど、恥ずかしさで言えば膝枕のほうが上だろ」

「それはそうだけどよ」


ただ腕を合わせる密着より自分の膝を貸す膝枕のほうがよっぽど恥ずかしい。

さらにそこで寝られて寝息とか聞こえる方がいろいろ心臓によろしくない。


しばらくしてイルカのショーが始まった。

トレーナーがそれぞれの相棒を紹介し芸を披露し始める。

俺たちがいるのは席の後列あたり。

前列あたりにいる人たちに向けイルカたちがものすごい勢いで水をぶっかけていく。

霧状になった水が冷えた風に乗り寒い。


だがこの寒さの中、水に入っているトレーナーの方が寒いし厳しいだろう。

俺は将来、イルカトレーナーにはならないと誓った。

あんな過酷な訓練に耐えられる気がしない。


『ありがとうございました!シェリル達も一緒に!バイバーイ!』


トレーナーと一緒にイルカたちが手を振った。

あんなに動いた後だっていうのにイルカたちの体力は無限なのか?


「狼斗。行こうぜ?」

「ああ」


夏鈴に腕を引かれ、俺は強制的に立ち上がることになった。

イルカから屋内へと戻る道には海亀の水槽と猫鮫と触れ合えるブースがある。

だが休みのこの日は子供たちが大勢いる。

普通の高校生はいなくなってから触りにいく、またはあとでもう一回来るのは基本だ。

そう。基本はな。


「なにこれザラザラー!」

「おーお前ら。猫鮫はどうだ?猫鮫はな、貝類を食べるんだ。だから人が触っても襲ってこないんだ」

「どんな貝食べるのー?」

「ウニとかエビとか硬いものを砕くんだ。この小さな歯でな」


水からは出さないでくださいって書いてあるだろうに。

まあ、飼育員がいないからいいけど。見つかったら怒られるぞ。


「今見せるために持ち上げたけど、基本こいつらは海の中で生きるから水から出すなよー。あくまで触るだけだ。わかったか」

「はーい!」


相変わらず子供に対するカリスマがカンストしてらっしゃる。

俺も行けないこともないが、子供が見ているのを割って入ろうとは思わない。


「初めて触ったわ!」

「説明したから知ってるのかと思ったぞ」

「チビ達には見えない位置にある説明を読んだだけだぞ」

「うわっ、ずる」


卑怯すぎる。

子供たちの純粋な眼差しが申し訳なってくる。


「んで、そんなことまでして触った猫鮫はどうなんだよ」

「ぬるぬるとざらざらで気色悪かった」

「もう謝れ。あんな狭い水槽ですらない場所で一生懸命生きてるのに。勝手に触られた挙句暴言吐かれたんじゃ可哀そうすぎる」

「顔はブサ可愛だった」

「もっと褒めてあげてよ」


猫鮫が不憫でならない。


「あ、クラゲ」


もう別のものに興味移ってるし。


「クラゲ。好きなのか?」

「可愛くね?なにもしないのにふよふよ浮いててよ」

「うーん。子猫は可愛いと思うがクラゲは......別に」

「もっと近くで見ろよ!」


夏鈴に腕を引かれ俺の顔は夏鈴の横に来た。

暗がりでもわかるほどに夏鈴の顔が赤くなる。


「もう寒くないからくっつかないで大丈夫だぞ」

「気にすんな」

「俺が気にするんだけど」

「こうしてるとさ、周りから見ればカップルに見えるんだろうな」

「......多分な」


ここまで密着して男女二人だと見えるだろう。

見えるだろうが、俺はその空気には従わない。聞かれれば「いいえ」と答えるし彼氏さんと呼ばれればちゃんと訂正する。

非常に面倒だが。


「やっぱりおれと恋人は嫌か?」

「全員から言われるが、誰が嫌とかじゃないんだ。そうじゃなくてもっとこう......難しいものなんだよ」


感情が絡む思考というのは本当に面倒だ。自分の思考すら面倒だと思えるのだから、他人のことなんて考えることすら出来ないだろう。

そんな面倒ばかりのことを三人分も考えてたらそりゃ疲れるし整理もつかなくなる。

この状況で誰かと恋人同士になったところで後々後悔するのは目に見えている。


「正直、半年前に比べればドキドキするようにはなった。夏鈴が俺のことが好きだと言ってくれた日から、細かいところに気使ってんのはわかるから」

「例えばどんなところだよ」

「少し化粧したり香水使ってみたりマニキュアだっけ?そんなんを使ってみたり」

「なんだ。気づいてんのかよ」

「悪いな。鈍感男にはなれそうにないんでね」


ただその場で言うのを躊躇っただけ。


「なんだよ。ドキドキさせんなよ」


夏鈴の拳がぎゅっと握られ、俺の服を巻き込んでいく。


「そういうことを二人の時に言うから、「特別なのかも」って思っちまうんだろうが」


夏鈴の声はいつもの声量よりだいぶ落とされ、少し震えているように見えた。

泣いているわけではないだろうが、目は潤み、頬の赤みはさっきより増しているように見えた。

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