第七十八話 極悪非道な女共
重たい体と荷物を引き摺ってやって来てしまった。地獄へ。
本当は行きたくなかった。無視もやろうと思えば出来た。だが出来なくなった。
「にいに!」
極悪非道の女共に颯太を人質に取られてしまった。
保育園から子供を引き取るときには証明がいる。ではなぜ颯太は保育園から連れ出されたのか。
「時雨……悪用しやがったな」
「悪用なんて言わないでください。この証明書をくれたのは狼斗さんですよ?」
「それは俺か両親の手が塞がって行けない時用の物だ」
「天月さんを責めないでください。使うよう頼んだのは私達なんですから」
「さ、帰るぞ」
「いや!ともあちと遊ぶ!」
「今度はチビ達も一緒だからな!」
親もなしで高校生だけで寝泊りするのに園児がいるのは危険ではなかろうか。
まあ、それは加羅忍真尋に対して効果がないのは知っている。
どうせお手伝いさんなり専属の使用人を使われて封じられる。
相手が違うだけで俺のデッキはゴミカスになることがここ最近分かってきた。
「颯太の着替えも持って来たから。楽しもうな……」
「にいに元気ない?」
「いんや。あるぞ。勢い余って走り出しそうなくらいには」
そしてそのまま自分の家のおふとぅんで寝るんだ。
「今日はもう遅く夕飯の支度をしましょう」
「全員でな!」
「なに作るんだよ」
全員と言うと高校生五人に保育園児四人。全員でやるとしても差があり過ぎる。
園児でも出来る料理というのはかなり限られる。
「手が使えれば誰にでも作れる」
「その魔法みたいな料理は?」
「餃子だ!」
なるほど。たしかに餃子は人数が欲しくなる。
友達と作るのでも楽しいし中になにを入れるかで盛り上がれる料理だ。
たこ焼きでもいいが、たこ焼きの場合中身を楽しむのが主になるため餃子にしたんだろう。
「とっとと作らないと食べるのが遅くなるぞ」
「じゃあ!早く行こう!」
十六夜に手をひかれ俺は地獄へと踏み入れた。
「おれと狼斗が準備するから他は手洗って待ってろ」
「分かりました」
「準備ってなにすんだよ。餃子は準備が本番だろ?」
「単純に九人分ならおれ一人で事足りるけどよ。使用人とかお手伝いさんの分までってなれば数十倍だぞ大変だろ?」
「そんなこと考えてたのか」
「おん。ま、今日一日一回も姿を見てないけどな!」
見た目というか口調からは想像もつかない程に優しい。
別に自分がなにされてるわけでもないってのに。
「俺はなにすればいい?」
「肉。肉をこねるんだ」
「出来なくはないが……他の食材切るのは任せていいのか?」
「ああ。狼斗のデカい手が必要なんだよ」
デカいか?男の手であるから夏鈴よりはデカい……と思うが。ま、料理長の言うことは聞こう。
手順は全て夏鈴の頭の中だ。
「ほい、じゃあよろ!」
目の前には大きめのボウルに入った豚挽肉が置かれた。バイトメンバーでパーティした時ですらこの半分ほどだった。
冷たくにゅるっとした感触が手から伝わった。そのまま力を加えれば力に応えるように形を変えた。
水っぽさはなくずっしりと重さが手から伝わってくる。見事な重さだ。
調味料を加えてさらに混ぜるとニチャニチャと音を立て始めた。
「なんでお前目瞑ってんの?」
「心頭滅却だ」
「殴ろうか?」
「本当に滅却されるから勘弁」
たしかにそれが一番早いけども。
「痛って!」
「大丈夫か?珍しいな夏鈴が料理中に怪我するなんて」
「お前のせいだぞ」
「は?」
夏鈴が指をくわえながら俺を睨んだ。
まさか俺が側にいるから集中出来ないとでも言うつもりか。
「心臓がバクバク言ってさっきから手先震えるんだよ」
「ならなんで俺を誘ったよ」
「せっかくのチャンスだし?自然な流れかなーって」
「自然だろうけど怪我しちゃ意味ないだろ。ちょっと待ってろ。絆創膏持ってくる」
颯太が怪我した時用に持って来たが……まさか高校生に使うことになるとは。
「普通ので悪い。仮面ライダーのは颯太が怒る」
「わりぃ」
「この空気どうにか出来ないか」
「おれには無理」
「言い出しっぺが」
台所に漂うのはどことなくイチャついた空気。
まるで恋人が初めての料理でもしているよう。初めてにしては作る量が多いのと手際が良過ぎるが。
「俺は無視して続けるぞ。血は入れるなよ」
「こんなミス。二度とするか」
食材を切り終わり後は包むだけだ。
「タネが出来たから包め!」
「十塚さん?その手は?」
「ちょっとミスった」
「ちょっとミスというレベルではないですけど」
「気にすんな。こいつが側にいて集中出来なかっただけだから」
「ほーら。やるぞー」
これ以上燃え盛る闘志に嫉妬という燃料を注がないで。
「やる!」「つつむー!」「やったー!」「間宮。どうやるの?」
一人園児に混ざった兎がいる。
側に寄るな、まだ仕事は終わってないんだ。
だがまあ、包み方を知らないのは颯太達も一緒か。
「こう」
「わかんないー!」「どうやるのー!」「間宮説明下手ー」
言葉で説明することの面倒さよ。
俺は包み方が載っているサイトを出し見せた。
「これが一番早い」
「ああ、おれ出来そうにないや。絆創膏が濡れる」
「気にすんな。夏鈴は少し安め。食材切ってるし手も切ってるし」
「悪ぃ。ゴム手して食器だけ片すわ」
「手伝う」
「包んどけよ」
「洗った食器を拭く作業が必要だろうが」
俺と夏鈴はまた台所に立った。




