第七十七話 おばか
時雨とは別々の時間に家を出て且つ時間をよりズラすために俺は颯太を保育園へと預けてから学校に向かった。
そのため俺は遅刻ギリギリで滑り込んだ。
「あぶねー。セーフ」
「今日、遅いですね」
時雨が白々しく聞いてくれた。
そういう配慮出来る所が時雨だ。ありがたい。
「親が朝早くてな。颯太を送ったんだ」
「大変だなー兄貴」
「可愛い弟のためだ。そこまで遠いわけじゃないからな」
「間宮。一つ聞いてもいい?」
「普通のことなら」
「……なんで時雨ちゃんから間宮の匂いするの?」
「同じシャンプーなんじゃないか?俺の家は男女で分けたりしないし」
「あーおれの家もそうだぜ。数いると消費もばかにならないしな!」
夏鈴の家はそうだよな。男女で分けてたら経済的に結構痛いだろう。
俺の家はただ面倒だからという理由で分けていないだけだが。
「加羅忍。なにが面白い」
「いえいえ。間宮さんにしては珍しいミスだなと思っただけです」
「なんの話だ」
俺がミス?もしかして時雨が俺の家から出る所を見られたか?それとも昨日の夜から監視していた?まさか……盗聴器でもしかけてあるのか?
「勘繰っているところ申し訳ないですが、私は今回なにもしていません。ですが私は天月さんが間宮さんの家に泊まったことを知りました。なぜでしょう」
加羅忍がここまで言うってことは俺の負けは確定したも同然だ。
どこをミスした。
「分からないんですか?そうですよね〜。言い逃れ出来ないくらいのミスですから。ね、十六夜さん。十塚さん?」
「まあ、変とは思ったけどソレを聞いたのかなって思った」
「どこをミスしたか教えて貰えるか」
「では十六夜さんはなんの匂いのことを言ったんですか?」
「制服の話。わたし、シャンプーの話なんてしてないよ?」
そこか……まあ、そうだよな。時雨の髪の匂いを知ってるのは昨日時雨と一緒にいた奴だけだもんな。
加羅忍から聞かれたなら疑ったが十六夜からだから油断した。
「いけないですねー。罰ゲーム中なのにいちゃつくなんて」
「擁護するわけじゃないですけど」
「そこはしろ」
「昨日私が家の鍵を忘れて、両親の帰りが遅いので狼斗さんの所にお世話になっただけです」
「私の所ではダメでしたか?」
「急には迷惑かなと思ったので……」
「狼斗の所には行ったのにか?」
「そ、それは」
まだ夏鈴の圧に慣れてないのか。去年からの知り合いぽかったからすっかり慣れてるもんだと思ったけど。
「あまり時雨責めるな。この時期に雨に濡れながら移動したくないだろ。寒いし風邪引く可能性だってある。ただ時雨が「泊めろ」って言ってきたなら追い返してる」
あくまで致し方ない状態だったことを知ってもらいたい。うん。知ってもらった所でこいつらの手が緩むことはないだろうが。
あ〜……俺の首が締まっていく。
「それなら取るべき行動は分かってますよね?」
「分かりません。分かりたくもない」
「また皆さんで泊まりに来ませんか?」
「女子会か。いいんじゃないか?たまには俺抜きで血反吐をぶちまけたような会話でもするといい」
女子会はどこぞのスタンドの応酬だと鳴川先生から教えられた。
そして俺は逃げる。
「仮に女子会をやるとしたら狼斗も来るんだぞ?」
「え、純粋になんで?」
「んー。被検体?」
「絶対に嫌なんだが」
俺にスタンドはいない。スタンドバトルに介入出来るほど強くはないんだ。
「間宮さん?」
「なに?」
「貴方に拒否権はないんですよ」
笑っているのに発せられる声は物凄く冷たい。
絶対に逃さないという意志が言葉から伝わってくる。怖い。逃げたい。全ての物を失ってもいいから逃げ出したい。
「違うんだ。今回のは致し方ない結果であって……なら、九月も終わろうって時期にずぶ濡れの時雨を外に放置しろっていうのか?」
「もし『女子恐怖症』を理由にしたとしても、そんなことしたら殺します」
「ストレートすぎて安心した」
「まさかとは思うけど!一緒に寝たりとかしてないよね?」
「ああ。部屋がないから俺の部屋では寝てもらったがお互いに別々だ。触れてすらいない。まあ、朝は時雨に起こして貰ったけど」
「時雨さん。本当ですか?」
時雨はなにも言わずに黙って頷いた。
流石に同衾がバレたらなにされるか分からない。時雨も考えは同じらしく俺の味方になってくれた。
「この際なんでもいいぜ。泊まりはいつやるんだ」
「勝手にやることになってることに驚きだ」
「間宮さん?」
「分かったよ。拒否権はなんだろ」
「はい」
嬉しそうな笑顔に腹が立つ。
だがまあ、俺がしようとしたことは改めて考えると外道に近い。というか外道だ。
段々慣れてきたし少しくらいなら付き合うか……少しで済めば苦労しないんだが。




