第七十四話 経験値が足りません▼
「間宮ぁ。どぅえへへへへ!」
「きっしょ」
喜び方がキモオタのいい例すぎる。
嘘がバレた俺を待っていたのはとてつもなく騒がしい地獄だった。
くっついても引き剥がせずどんなイタズラも黙認するしかない。
気付いても引っかかるしかない。
たった一週間と少しなのに一日が長く感じる。
今も体感はもう最終日なのにまだ三十分と経っていない。
きっと一週間後には俺は悟りを開いている事だろう。
「間宮にここまで堂々とくっつける日が来るとは思わなかった〜。生きててよかった」
「はいはい。どうも」
意識を他のことに向けろ。決して俺の二の腕を包む柔らかいナニカに意識を向けてはならない。
目の前のプリントを凝視する。解こうと頭を回転させるが悲しいな。二の腕を包み込む柔らかなな胸の感触に脳が反応している。
「やめだ。こんなんじゃプリントも埋まりやしいない」
「おれが後で教えてやるよ」
「助かる」
「じゃあわたしはくっつくね!」
「まったく助からない」
と言っても今の俺に拒否権なんてない。自由がない状態だからもしかしたら人権すらもないかもしれない。
十六夜は俺の太腿に跨った。
「十六夜」
「文句なら聞かないよ?」
「いや、そうじゃなくて。その座り方。結構ダイレクト」
「え?ん?」
どうやら分かっていないようだ。
いくら制服の下が冬用で分厚いと言っても所詮は布。
薄い布が二枚合わさったところで隠し切れるもんじゃない。
「ああ。大丈夫。半ズボン履いてるから!」
「違う。なんていうか、十六夜のデリケートな部分が感触で分かるんだよ」
「えっち」
「なら今すぐどけ。そうすれば全てが解決する」
「大丈夫。恥ずかしいけど段々慣れてくるから」
その羞恥は絶対に慣れちゃだめなものだぞ。
そのうち胸とか見せても減るもんじゃないしとかいいそうで怖い。
「間宮に文句言われないのはこの一週間だけなの!だからそれまでにいっぱい間宮要素を充電するの!」
「なにそのヤンデレみたいな思考。怖い」
「ぎゅぅー」
十六夜は出来る限りの面積で俺の抱きついた。
抱きつかれるとやはりほのかに甘い匂いとふわふわした感触が嫌でも伝わってくる。
学校指定のセーターから香る柔らかな甘い匂いと服の下にマシュマロでも詰めているのではないかという柔らかさ。
世界中どこを探してもこの柔らかさに勝るものなんてないだろう。
全国の家具やに『JKのふわふわクッション〜いつも貴方の側に〜』とかいう名前で売り出したら一つ一万くらいで売れると思うんだが。
ま、俺は絶対に買わないけど。
「間宮っていい匂い」
肩をくんかくんかされ少しくすぐったい。
俺は十六夜の首ねっこを掴み引き剥がした。何度も言うが今の俺に拒否権はない。
「まーみや。離して?」
「これ以上くっつくな」
「鳥肌も立ってないし心臓も一定だよ?」
「だからなんだ。あんまり学校でベタベタするな。恥ずかしい」
「学校以外ならいいの?」
「俺がいない所なら」
目の前でベタベタされるとか邪魔だしうざったい。そういうのはお互いの家かホテルでやってほしい。
「それじゃあ意味ないじゃん」
ダメだ。今の俺じゃ経験値が圧倒的に足りなさすぎる。
やはり十六夜には防戦一方じゃダメだ。こっちが削り切られる。
俺た無気力に下げた腕を持ち上げ、十六夜を優しく抱きしめた。満腹の兎が餌を食べないように十六夜の欲を満たせればいいんだ。
「間宮ぁ。まみやぁ。もっと強く抱きしめて?」
優しく甘い声に極上の柔らかさとふわふわ感。
ずっと抱きしめていたくなるような錯覚に陥る。だが俺の場合はそこまで行かなかった。
というのも、気づけば俺は意識を手放していたのだ。
防戦から攻戦へと切り替えたはいいものの。やはり十六夜に挑むには経験値が足りなかった。




