第七十二話 誰も愛さない事が平等
「間宮さん?お弁当を作って来ました」
「間宮さん。一緒に帰りましょう?」
「間ー宮ーさーん」
夕暮れの保健室にいるのは俺と加羅忍だけ。
ここの所加羅忍といるせいかあまりベタベタはされない。
逆に加羅忍と十六夜達の関係が悪化しないか気になったが女子組の友情はそこまで浅くはなかったようだ。
ま、女子仲が悪くなろうが良くなろうが俺には関係ないがな!
「いつまで続ければいいんだよ……」
「皆さんまで不満に思っていることは多いでしょうし、冷めるまでといった所でしょうか」
「冷めるまでね……いつになることやら」
「一ヶ月は固いと思いますよ。中途半端な関係にしたら横取りしようとまた迫って来ますよ」
「悪いな。付き合わせて」
「お互い様ですよ。私も間宮さんの大切な時間を使いましたから。修学旅行の時に」
あれは確かに酷かった。
街中爆走してネットに情けない姿晒して……身元特定されなかっただけまだいいと思っているが。
「ならお互い様ってことで。遠慮なく言うからな」
「はい。でも男女のまぐわいは……結婚してからじゃないとダメですよ?」
「は?驕り高ぶるな」
ナチュラルにセクハラを仕掛けるな。
そんな言葉で俺が照れると思っているなら残念。どんなにカバーガラスメンタルでもなんども割られれば強度は増す。
「もっと「な、なに言ってんだよ!」って照れてもいいんですよ?」
「そこまで純情じゃないんだわ。その反応が見たいなら他を当たれ」
「出会った当初の怯え切って頑張って吠える子犬はどこに行ったんでしょうか」
俺のことそんな風に思ってたのか。
まあ、あの頃(数ヶ月前)は色々変化がありすぎて混乱中な感じだったしな。
あの頃の俺に会いたいならこんなベタベタするべきではなかった。
そうすれば未だ慣れない子犬のままだっただろうよ。
「んじゃ、俺は帰るからまた明日な」
「一緒に帰りませんか?」
「車だろ?」
「今し方車が不調で代わりの車が来るとの連絡が」
「それを断ったと」
「はい」
嬉しそうに笑う加羅忍は悪ささえしなければちゃんと清楚でお淑やかな深窓の令嬢なのに。
仕掛けてくる悪さが子供っぽかったり見破りにくいものばかりで初対面のイメージとはかけ離れている。
「それじゃあ、行きましょうか」
俺の腕を引っ張り歩きだす加羅忍。
小さい手に細い腕のどこにそんな力があるのか。
まあ、世の中にはルービックキューブを素手で破壊しようとする美大生もいるからまだ普通な方か。
加羅忍の家はここから片道三十分の所にある。車なら十分ほどで行くことが出来る。
「こうして一緒に帰るのは初めてか」
「前はすぐに車が迎えに来てしまいましたからね」
葉山岳斗の強行手段があってから学校付近の警備はより厳重になった。
私服の警護がそばに絶対的にいる状態かつ、通る道全てに防犯カメラが付いている。
カメラに死角はなく、一度見つかれば街の外に行くまでは姿が丸見えと思った方がいい。
「加羅忍の両親直属の願いだ」
「なにを言われたんですか?」
「色々言われたが、守れってことだな」
幸せにしろだの大事にしろだの言われたが諸々引っ括めて「守れ」ってことだと思っている。きっとそうだ。娘の幸せを願うのは大事だがあの御曹司ガン無視で俺に振るのは間違っている。
葉山岳斗なら二つ返事で即了承してくれるだろうよ。
「なら、守ってください」
「無茶仰る。前のはじいやとかその他大勢の人の協力があったからだ。俺一人なら数人に追いかけられた時点で負けは確定する。普通の男子高校生を高く見過ぎだ」
「ですが高くしたのは間宮さん本人では?」
「俺がなにをしたよ」
「私は見ていますよ?優しい所」
加羅忍に言われると『監視』という意味合いを持ちそうでものすごく怖い。
「自己満で動いて「優しい」って言われる世界があったなんてなー」
「あります。少なくとも私は言います。見ます。間宮さんを認めます」
加羅忍といると承認欲求が満たされる気がする。
まあ、それも策略の内と考えるからトキメキも高揚も一瞬だがな。
「間宮さんに質問なんですけど」
「うん」
「もし仮に私が企みなしで純粋に間宮さんが好きって言ったらどう……嫌そうな顔ですね」
「とても嫌。まず加羅忍の行動は全て裏があると思ってるし加羅忍まで好きとか言い出したら俺はどうしたらいいんだよ」
「この際全員と付き合うのはどうでしょう。平等に愛することが出来ればなんの問題もありません」
「ちょっとその恐ろしい思考を捨てて貰えるか」
加羅忍真尋なら法律の穴を見つけるかもしくは法律自体を変えそうで怖い。
絶対に出来ないと言えない唯一の家系と言える。
「安心しろよ。俺は複数を平等に愛することなんて出来ない」
「では?」
「誰も愛さない。それが俺の答えだ」
そうすれば限りなく平等であり関係が壊れるなんてこともないわけだしな。




