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第七十一話 偽装恋人契約

時刻はまだ午後六時だというのに、空は真っ暗だった。

結局買ったものと言えばマグカップだけ。だが時雨はそれを大事そうに抱え、帰った。

そして、問題が起きたのは帰り道、時雨の家の前でのことだ。


予測できたはずだった。時雨が夏鈴の話を聞いているなら尚更に。


「狼斗さん」

「ん。おお……うん」


暗い道で時雨に抱きしめられ少しヒヤリとした。


「今日は付き合ってくれて、ありがとう」

「喜んで貰えたなら結構。離れてくれ」

「うん」


時雨は素直で大変助かる。

他の三人は絶対に初手「やだ」と言ってくるのに。


「それじゃあ、バイバイ」

「ああ」


俺が時雨に背を向けて歩きだすと後ろから「あ」と俺に聞こえる程度の声が聞こえた。


「どうし……っ!」

「ありがとう。大好き」


時雨は俺の唇の端に添えるようなキスをして笑顔で家に入った。

完全に油断していた。時雨はそこまで出来ないと思っていた。

なにが出来ないだ。なぜ油断した。


俺はこの半年でなにを学習したのか。


次の登校日の時には俺の頭はパンパンだった。

どうやったら本格的に嫌われるか、諦めてくれるかを探す必要が出てきた。

ここに来て、協力者達が敵に回るという緊急事態。


「それで、私になんのお話ですか?」

「俺がいきなりスカート捲ったら怒るかって話」

「間宮さんがスカート捲り……ぐーぱんち☆が飛びますよ」

「そうか。ありがとう。他にされて嫌なことってあるか?」

「そうですね……暴力的なことはマイナスですし。どうしてそんなことを聞くんですか?」

「嫌われたいからだ。正確には友達のままでいたい」


三人の美少女に好きと言われて贅沢な悩みだと思うが、トラウマがある俺には超が付くほど一般的な願いだ。

三人とも友達でいる分にはだいぶ楽なんだがな。


「確かにスカート捲りは私だったら嫌ですけど、十六夜さんが引くと思いますか?」

「普通に考えて引くだろ。そのぐーぱんち☆を受ける覚悟すら出来ている」

「今までどんなことをしても引かなかった十六夜さんですよ?そう簡単に引くとは到底思えませんが」


確かにな。なら対十六夜用の作戦を考えなければ。


「相談なんだが、一緒に作戦を考えて欲しい」

「それなら一番簡単な方法があります。三人に有効でこれから誰からも責められることはないでしょう」


そんな魔法のような方法があるのか?

昨日一日考えた結果なにも出なかったというのに。


「私と付き合ったことにすればいいんです」

「解決になってなくないか?それに加羅忍は迷惑じゃないのか?」

「はい。初めにも言った通り、私は間宮さんが考えること、実行しようとすることに協力します。犯罪などは無理ですけど。それに、スカート捲りや暴力に訴えるより安全で確実な方法です」


言われてみればそうなんだが、過去の前科があるだけに素直に頼みづらい。


「私にお任せください」

「本当に任せてもいいんだろうな」

「はい」


そのにこやかな笑みが非常に怖い。

裏でなにか企んでそう。

加羅忍の作戦実行は明日からということになった。

翌日、俺の口から加羅忍と付き合うと言ったが全員の反応はとても薄かった。


「またなにか起こったの?」

「違う。今回のはガチだから。遊びでも嘘でもない。本当のだ」

「なんでそんなことになってんだよ。真尋が告白したなんて聞いてねぇぞ!」

「昨日告白したらOKが貰えました」


嬉しそうに頬を赤くして俺の腕に寄り添った。

落ち着け俺、これは演技。十六夜達を騙すための演技だ。本気じゃない。大丈夫。

ゾワっと背中を這いずる恐怖をなんとか心の中で押さえつけた。


「間宮はなんでOKしたの?わたしじゃだめだった?やっぱり嫌いだった?」

「違う。真尋ならって思ったんだ。悪いか」

「悪くはないけど……純粋に悔しい」

「狼斗さんと真尋さんが両思いなんて考えもしませんでした」


そりゃそうだ。

昨日考えて出来た偽装だもの。それも想定内だったら俺は素直に諦める。

そんな未来予知に近い想定なんて勝てるわけがない。


これで重大さは理解して貰えたと思う。

これで積極的に迫られたり急なキスもなくなる。

落ち込んだ顔を見ると少しだけ罪悪感が湧くが、怖いものは怖い。俺のトラウマはそこまで浅くはない。

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