第六十九話 精神を鍛えるいい修行
秋も深まり、長袖が基本的な服装になって来たある日。
俺は駅前にいた。
腕時計をかくにんすると時刻は朝十時。
目の前を通り過ぎる人はまだまだ多く、スーツ姿の男性や女子高生らしき人もいる。
柱に寄りかかりスマホをチェックするともう『すぐ着く』という旨の連絡が来ていた。
「お待たせ」
タイトパンツに白黒ボーダーというラフな格好で現れたのは天月時雨だった。
「時雨ってスカート履かないよな」
「なに急に?履いて欲しい?」
「別に。気になっただけ」
「電車乗るからパンツにしたの」
通勤ラッシュでもない限り、痴漢はいないと思うが。
「駅に来てって言われたから来たけど、なにするんだ」
「デートだよ」
「帰っていいか」
「だめ」
もう女子とデートするのはこりごりなんだよ!
十六夜の時が両親が来るし、加羅忍の時は御曹司に喧嘩売ったし、夏鈴の時は急にキスされて告白紛いなことされるしでもう情報量とっくにオーバーしてんだよ!
「大丈夫だよ。私はもう好きって伝えてあるしお嬢様でもないから」
「それでも安心出来ない自分がいる」
「いいから行こう」
手首を引かれついていくしか選択肢がなくなった。
「どこに行くつもりだ?」
「うーん……」
「まさか無計画とか言わないよな」
「今日の朝思いついたことだから大丈夫」
「大丈夫な要素を教えてくれよ」
時雨もしっかり十六夜に染まって来やがった。
早く元凶を潰さなきゃ。
「しっかし人多いな」
「平日だからだよ」
時雨を壁に寄せ、俺はその隣に右肩だけ壁に預けた。
だが都心に近づくほどに人は増えて来て俺と時雨は触れ合うほどの密集度になって来た。
時雨の頬がほんの少し染まり上目遣いにこちらを見てくる。
「その目、やめろ」
「ああ……ううぅ」
駅が進むに連れ、密度は増していき俺と時雨は迎え合わせになった。
時雨の潤んだ青い目と少し赤くなった頬。それだけで寒気がする。
前まで時雨と接するだけなら鳥肌も寒気もしなかったのに、時雨から「好きだった」と言われた時からこうして反応するようになった。
「鳥肌……ふふっ」
「なにが面白い。こちとら必死に我慢してんだ」
出来ることなら今すぐに家に帰ってゲームしたい。
「私を女の子として見てくれてる証拠だよね」
「違うぞ。女がしそうな浅はかな行為だから出てるんだ」
「嬉しい」
言語でコミュニケーションが取れない場合はどうすればいいのか。
踊ればいいんか。『不気味な踊り』ー効果、警察官がやってくる。
電車に揺られること三十分。
満員電車から解放される頃には俺の体力は半分を切っていた。
「大丈夫?」
「ああ。精神を鍛える良い修行にいなりそうだ」
もしよかったら世の男諸君らもやってみると良い。
可愛い女子が目の前にいるのになんらかの理由があり手が出せないという状況。自制心を鍛えるには丁度良すぎる。滝行より心を鍛えられるだろう。
「ここからどうする」
「お昼食べた?」
「まだ。てか要らないかなと思って食べてこなかった」
最悪夕飯があれば事足りる。
「今から食べに行こう」
「どこに」
「あそこ」
時雨が指差すのは有名なドーナッツチェーン店。
ただしアニメキャラのコラボでキャラの形のドーナッツを売っている。
「好きだっけこのキャラ」
動物を模したアニメキャラだが……言われてみればという完成度。
ブサカワと言えば当てはまるだろうが、本家が好きな人の中には荒れる人も出ると思う。
「可愛いか?これ」
「うん。とっても」
「ええ……」
時雨の感性はいまだに分からない。
これが可愛いのか。
「狼斗さんみたい」
「それは侮辱だぞ」
「この怖そうな目とかでも中は甘いくて優しいとか」
確かに時雨のお盆に乗っているキャラはそんな見た目だが原作ではゴリゴリの不良キャラだったはずだ。
なんなら敵キャラの部類で主人公のライバル的存在。
でも人気度は主人公より高いという人気投票あるあるがこのアニメでも出て来ている。
なぁ、五条さんよ。
それぞれ好きなドーナッツとコラボドーナッツを買い、席に座った。
「へー。そのキャラ中はクリームなんだな」
「うん。そっちは?」
「チョコ」
「一口ちょうだい?」
「ん」
お互いに食べかけのドーナッツを交換し間接キスだとか気にしない様子で食べた。
やっぱりクリームが甘い。ただ表面の黒い顔の部分がココアなため少しだけ緩和されている。
「ねね。あの二人ってカップルかな」
「えーでも男の方が釣り合ってなくない?」
近くの女子高生らしき女子から言われるが中指しか立たない。
俺と時雨が釣り合わないなんて出会ったときから分かっている。
それにカップルじゃない。友達としての遊びとしてここにいる。
発言だけ聞くと完全にクズ男。




